眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

瞳にユーモアが踊って♪ ・・・・・ 『スティング』他

2010-05-24 16:49:06 | 映画・本
ロバート・レッドフォードとポール・ニューマンが同じ監督(ジョージ・ロイ・ヒル)の下で共演したのが、『明日に向かって撃て!』と『スティング』だ。『明日に向かって撃て!』はレッドフォードの出世作となり、4年後の『スティング』ではアカデミー賞を、作品賞・監督賞・脚本賞など計7部門で受賞している。

今回、その『明日に向かって撃て!』と『スティング』を2週連続で観に行く・・・という直前、偶然(本当にまったくの偶然!)「再会 ロバート・レッドフォードとポール・ニューマン」というドキュメンタリー(トーク)番組を衛星放送で見かけた。始まる数分前だったので、もちろん大急ぎで録画した。

そして映画を両方再見した後、今度はドキドキしながら家でその番組を観た。

数年前に作られたもの(サンダンス・チャンネル制作)らしく、番組の中でニューマンは「80歳の今も現役のレーサー」などと言われている。(ということは、レッドフォードは60代の終りだ。)。字幕に出た2人の名前につけられた肩書きは、どちらも「フィルム・メイカー」。

ニューマンの自宅でしばらくぶりに再会した2人が、これまでに俳優として関わった仕事やそれ以外の活動について、とても自然な雰囲気で、なごやかに話しているのが印象的だった。ニューマンの、設立以来「純利益は全額寄付」という食品製造会社や、難病の子どものためのキャンプといったチャリティー活動についても、私は初めて(映像付きで)知った。


この前の記事にも書いたのだけれど、私は『明日に向かって撃て!』で初めてポール・ニューマンを知った。それまでも名前だけは知っていたけれど、顔と一致したのはその時が最初だった。

高校生の姉や、当時家に下宿していた大学生のお姉さんが「ロバート・レッドフォードが素敵♪」という中で、中学生の私だけが「ポール・ニューマンの方が好き・・・(声が小さくなる)」。「どうして?」「(困って)・・・あの眼がいいと思う。」などと言ったのは理由があった。映画の中で、ブッチの眼にほとんど常時見えていた茶目っ気?のようなものが、私はとても好きだったのだ。

なんだかいつも面白がっているような、どんなときでも面白くしよう、楽しもうとでもいうような、それも相手を傷つけようとする「悪意」を全く感じさせない、ちょっとからかうような眼の色に、子どもの私は見とれた。当時の私は、役柄と演じている人との区別もなく、ただ私にも、私の周囲の人たちにも、それはあまり無いモノのような気がしたのかもしれない。


今回再見した『スティング』で、私にとって一番印象的だったのも、そんな彼の「眼」だった気がする。


『スティング』は・・・(何と言ったらいいのだろう)・・・本当に「誰が観ても面白い」映画の1本だと私は思っている。ストーリーも、舞台装置や衣装、音楽、もちろん俳優さんたちも、とにかくすべてがこの映画のために最大限の努力をしてその効果を結集している・・・といった感じがする。名作という言葉の前に「堂々たる」をつけたくなるような映画だと思う。(実際は、そんな勿体ぶった作品じゃあ全然ないのだけれど。)

それなのに私ときたら・・・結局、ニューマン演じるゴンドルフだけ見てたようなものだ。密告されてFBIに追いかけられ、身を潜めている伝説的詐欺師。その目の中で踊っているユーモアの光が、本人の年齢・資質・演技のキャリアと相俟って、彼の演じた役柄の中でも最も魅力的な人物像を作り上げている気がした。


などと言いつつ、実はもうひとり、私の好きなポール・ニューマンがいる。

『ノーバディーズ・フール』に出てくる60歳の土木作業員、サリー。格好良さとはほとんど無縁の、片足をひきずって歩く、ほとんどオジイサンと呼びたくなるようなこの人が・・・私にとっては、すごくカッコイイのだ。

近所に住む認知症のオバアサンが、寝間着のまま外に出て行ってしまったのを、追いかけて家に帰るよう説得する彼が素晴らしい!(そして、向きを変えて家に戻る気になった彼女に、小さな声で「今度踊りに行こう。」)


・・・書き始めるとキリがない。この記事で何を書こうと思ったのかもアヤシクなってきたので、取りあえずドキュメンタリーに戻る。


2人について、ほぼ同じくらいの時間がさかれているものの、サンダンス・チャンネル制作とあるように、番組全体としてはレッドフォードが狂言回しの役回りになっている。11歳若い彼が「80歳」のニューマンのこれまでを、いろいろなエピソードを交えて紹介しているような印象を受ける。

そんなレッドフォードの言葉から、私はニューマンの目の中にこれまでずっと感じてきた「茶目っ気」が、この人のポリシーや人生観?から出ている、ある種「確固とした」モノであることがわかってきた。


「僕が一番尊敬しているのは、君は一度面白いと思って始めたことは、最後までずっと楽しみ続けることだ。」と、レッドフォードは言う。

ニューマンは、至極当然だというように頷く。

たとえば、食品製造会社を設立したときは「冗談半分」で、「長続きするとは思ってなかった」らしい。

秋で自宅のプール用の椅子が余っていたので、事務所でそれを使ったら、「18年もそのまま使うことになった」。元々はニューマンの手作りだったドレッシングを、製品として売れるようにするには彼の「顔」をラベルにつけた方がいいと言われ、「それなら全部チャリティーにしてしまおうと決めた。」。「今でも小規模なままだから楽しいのさ。社員は18人しかいない。」などと言いながら、その18年間に2億ドルの利益をあげ、それをすべて寄付してしまう・・・一事が万事?そんな調子だ。


難病の子どものキャンプの中で、釣りに誘うためのPV?もあった。

車椅子の男の子の隣で(自称フィッシャーマンの)ニューマンが釣り糸を垂れていると、男の子は淡々と、「おじいちゃんは釣りが下手なの?」「誰がソンナコト言ってるんだ?」「みんな言ってる」「・・・じゃあ、お前やってみるか。」

男の子もニューマンも真面目な顔だ。けれど私には、真っ黒なサングラスの向こうに、あの「茶目っ気」が揺れているのが見えた。(実際、その後のナレーションでは「病気を癒すのは治療だけじゃない。笑いは強力な薬なんだ」。)


「お互い、仕事以外でやりたいことが見つかったのも幸運だった。」と、今度はニューマンが言う。レッドフォードの「サンダンス・インスティテュート」のことであり、自分のレーサーとしての活動のことだ。

さらにそれらを紹介する映像を見ている中に、長年にわたる2人の関係が、私にはだんだん『明日に向かって撃て!』のブッチとサンダンスに重なってくるのを感じた。

「彼らは同じアウトサイダーの立場にいるために、自然発生的に友達になった。必要に応じて互いに助け合い、しかし絶対に自分たちの間にある友情を口にはしなかった。」というレッドフォードの言葉は、そのまま彼とニューマンの関係にも当てはまるように見えるからだ。


番組が終りに近付く頃、ケネディー・センターでニューマンのこれまでの功績が称えられる場面がある。壇上でスピーチをするレッドフォードは、『明日に向かって撃て!』の頃のエピソードを取り上げる。

レッドフォードがニューヨークで部屋を借りようとしたとき、ニューマンが推薦状を書いたのだという。その推薦状なるものを、レッドフォードはおもむろにタキシードの内ポケットから取り出し、大勢の前で読み上げる。

「このロバート・レッドフォードという男は、3年前に私から120ドル借りて、未だに返してくれません。彼は、友情や名誉や信用を失っても平気な男です。」

「私は私の良心の下、いかなる事柄についても、彼を決して推薦しません。」

会場は爆笑に包まれる。



ドキュメンタリーとはいえ、番組の中の2人は当然、打ち合わせた後「演技」をしているのだと思う。

それでも映像の中のニューマンの瞳には、(たとえ彼が70代、80代になっていても)私が『明日に向かって撃て!』で初めて見た、あの茶目っ気が感じられた。紹介されるエピソードの数々が、それを裏付ける以上のものだった・・・ということも、あるのかもしれないけれど。

これがポール・ニューマンというハリウッドの「スター」俳優の、単なる作られたイメージなのだとしても、私はこの人の眼に何十年もの間、それ以上の「何か」を見てくることが出来た幸せを感じる。



ポール・ニューマンは、一昨年、83歳で亡くなった。

本人曰く「オソロシク幸運だった」(だから、それを社会に返すために、レッドフォード曰く「自分の『名声』で遊んだ」)さまざまなポール・ニューマンの瞳が、今も私の中で揺れている。









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8 コメント

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観たくなってきた~! (よっちん)
2010-05-25 10:44:46
ポール・ニューマンの茶目っ気のある目!!
素敵ですよね~♪

ムーマさんのポール・ニューマンへの思いが凄く伝わってきました。
実生活でも魅力的な人だったんだなぁ。感動。


二人の映画を観に行く直前偶然!に放送されたトーク番組。私も観たかったなぁ...。

スティングは私も大好きな映画です♪
音楽もいいし♪

ムーマさんの文章読んで、なんか凄く観たくなってきたよ~(笑)

私もポール・ニューマンのあの目に会いたくなってきました♪
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わーい、仲間仲間~ヽ(^o^)丿 (ムーマ)
2010-05-25 12:02:52
よっちんさんも『スティング』お好きなんですね♪ 
ほんと、音楽もいいですもんね~(あのピアノ大好き!)

トーク番組は、いつか再放送されるといいのになあ。(私はNHKのBSハイビジョンで観ました。)

この記事には書きませんでしたが、レッドフォードがニューマンに感じている(らしい)友人としての愛情・敬意が、さり気なく、でも全体を通して感じられて、2人の関係が本当に素敵でした。

番組の最後の方で、レッドフォードが取材者に答える形で、何でもないことのように淡々と言ってた言葉が印象に残ってます。

「friendshipというのは,あまりにgoodでstorongなために説明出来ない場合がある。ポールとの間にあるのがそれだ。」

あからさまな気遣いは決して見せない。
取材の終盤、明らかに疲れてきたニューマンが椅子に腰掛けたがっているのに「(カメラマンが)縦の写真を撮りたいんだってさ。まだ立ってられるだろう?」とか、「ポールのジョークは最悪だ。しかもそれを何度も繰り返すんだよ。」
ニューマンの方も、「彼(レッドフォード)は本当に時間を守らない。守らせられたのはロイ・ヒル(監督)だけだ。」なんて具合。

でも、こういう関係って、私などには絶対望めないものなので、なんだか眩しいというか羨ましいというか・・・「盟友」って言葉が相応しい感じだったの。

いつかよっちんさんにも観ていただきたいです(って、見せびらかしてるだけで、ゴメンナサイね。)
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私も見たくなってきました^^ (まゆりん)
2010-05-25 14:13:59
「スティング」は有名なのに見てないです(^^;
音楽は有名ですよね。

ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードは盟友なんですね。

2人の友情の素晴らしさがムーマさんの文章から伝わってきます。

見てない映画たくさんあるなぁ。。
いつかまとめて見たいです^^
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古い映画は急がない~ヽ(^o^)丿 (ムーマ)
2010-05-25 19:02:17
まゆりんさん、ようこそ~。

あのピアノ曲、本当に有名ですね。ああいうジャズ、ずっと聴いていたくなります。

私も観てない映画って、一杯あります。映画をせっせと観るようになったのは、ほんのここ数年のこと。
全然映画と関係なかった時期も何度もあるので、「観たい映画」がなくなる心配だけはありません(笑)。
(心配なのはいつも、エネルギー量と生活の余裕?だけです。)

まゆりんさんも、いつかまとめて観る機会がきっとあると思いますよ。
映画なかなか観られないのに、いつも読んで下さって、本当に感謝してます。
どうもありがとう!
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『リトルロマンス』も (Holly)
2010-05-25 19:34:11
こんにちは。
mixiの足跡からおじゃまします~。

ジョージ・ロイ・ヒル監督といえば個人的にはずせないのがダイアン・レインのデビュー作『リトルロマンス』です。子どもが主役だけど文字通りこんなロマンティックな映画はなかなかないと思ってます。ここでも音楽の使い方がすばらしいし。

登場するフランス人の少年が大の映画好きで、自作の『スティング』や『明日に向かって撃て』を夢中になって見ている設定、という監督の茶目っ気もすきだなー。
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観たいと思います♪ (ムーマ)
2010-05-26 10:13:18
Hollyさん、ようこそ~。

『リトルロマンス』はなぜか予告編だけ見て、上映される頃には身辺慌ただしくて、映画どころじゃなくなってしまった・・・という、私にとっては不幸?な映画でした。(その後も観る機会がないままになってます。)

ここでHollyさんに教えていただいたのが、何かのご縁かも。なるべく早く、観たいと思います。

ドキュメンタリー番組の中でも、ニューマンが「私たちはペアじゃなくて、トリオだった。3人目はジョージだ。」。監督は亡くなった後だったんですけど、2人とも「会いたいな・・・」と。

そうですね・・・ジョージ・ロイ・ヒル監督の映画、他にも観てないのを借りて、しばらく観てみようかな。
いいことを教えていただきました。どうもありがとうございました。
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スティング、最高!! (みー)
2010-07-06 02:34:48
ムーマさん、スティング観ました!!
本当に、面白くて・・・
永遠に、錆びない映画だと思いました☆☆
ポール・ニューマン、シブいです!!
つづいて、明日に向かって撃て!を観ます☆☆

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ああ良かった~(安堵) (ムーマ)
2010-07-06 09:59:44
『スティング』気に入っていただけて嬉しいです♪
なんだかほっとしました(笑)。 

『明日に向かって撃て!』は、またちょっと違う雰囲気なので
みーさんはどう思われるかなあ。
とにかく、ちょっと元気のあるときにご覧になって下さいね。
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