眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

アウトローと「青春」 ・・・・・ 『明日に向かって撃て!』

2010-05-22 18:31:59 | 映画・本
『明日に向かって撃て!』は、封切り時に姉と観に行った記憶がある。調べてみたら、日本封切りは1970年2月とのこと。私は中学の、姉は高校の卒業前後に、一緒に観に行ったことになる。

前回書いたように、この映画は私にとって、「映画」というもののイメージを大きく変えてくれた作品だ。それまでは全く意識に上らなかった「作り手」の、「眼」や「思い」を、私はこの映画で初めて感じた。映画は元々「そこにあるもの」ではなくて、「誰か」が「こういう世界を作りたい」と思うことから始まるらしい・・・ということ。映画も人の「創作」によるものなのだということを、私はこの映画で教えてもらったことになる。


「アメリカン・ニューシネマの傑作」という言葉も、どこかで聞いた。

アメリカン・ニューシネマというのがどういうものなのかも、単にイメージでしか知らないので、ちょっと調べてみた。ベトナム戦争という泥沼から抜けられないでもがいている時代のアメリカ映画の数々が、代表作品としてリストに並んでいた。その中では、私はこの『明日に向かって撃て!』を最初に観ている。『俺たちに明日はない』や『ワイルドバンチ』、『イージー・ライダー』などは、映画館に観に行ってないからだ。

私のように「世相」だの「時代」だのにおよそ鈍感な、新聞もろくに読まないような(しかも日本の)中学生にでさえ、あの時代の雰囲気は何かを感じさせたのかなあ・・・と、ウィキペディアの説明を見ながら考えた。


今の私から見ると、60年代後半から70年代にかけての「あの時代」というのは、人が「自分」を一個人として、それも「この世で一番大事な存在!」として、世の中にアピールしてもいいのだということが、特に若い世代(私自身も含まれるのだけれど、当時その実感はなかった)で共通認識になっていた気がする。

自分の思う通りに行動してもいい。自分の思う通りに歌にして、人前で演奏して、歌って構わない。娯楽とも商品ともかけ離れた形でも、「思い」を正直に何らかの「形」にすることが、この日本でも当然のこととされたような気がするのだ。(逆に言えば、それまで人はそういう意味では、そこまで自由ではなかったということだろう。)


もちろん、『明日に向かって撃て!』を作った人たちはハリウッドのプロなのだろうから、こういった素人レベルの「世相」と一緒にはできない。

それでも、私はこの映画を観ている間、作っている人の「自分」を感じた。「作り手」そのもの・・・とでも言うべき「眼」の存在を。


例えば、ちょっと長目に映し出される荒野の風景。晴れた朝に流れる雨降りの歌。主人公2人の間を行き交う、ごく何気ない目線の確実さ。それらはそのまま、どのくらいの高さ、どれくらいの距離から彼らを見る(撮す)かを厳密に計算している「誰か」の存在を、ごく自然に私に感じさせたのだ。

私は映画を観ながら、誰かの1人語りを聴いているような、ある種素朴な心地よさも感じていたと思う。映像はとてもきちんと計算されているのが、私にでさえ見て取れるのに。


『明日に向かって撃て!』の原題は "Butch Cassidy and the Sundance Kid"という。

アウトローとして社会秩序の外で生きてきたブッチとサンダンスが、いつの間にか、もう秩序の側に戻ることもできず、かといってアウトローとしては「長生きしすぎた」「俺たちはもう峠を越えたんだ」という年齢になってしまっていることを、現実に突きつけられる話でもある。

しかし、映画で描かれているのはまさに「青春」そのものなのだと、40年ぶりに見た今回も私は思った。

人を殺したことのない銀行・列車強盗のボスと、自国がスペインと戦争中だということも知らない早撃ちガンマンとが、まるで高校生同士のように、悪気のない?犯罪を繰り返してでもいるような。刹那的で無分別ではあるのだけれど、それは「青春」にはつきもののこと・・・とでもいうような。

2人がそういう人生になったのには、貧困その他の事情が裏にあることも窺われる描写もある。金持ちしかねらわない、むやみに人を傷つけない・・・というようなところも見える。彼らの犯罪があまりに派手?な間は、逆にあまり凶悪?な感じもしない。


初めて観たときは、なぜだろう、私は2人の俳優さんが本当に若く見えた。「峠を越した」が、実は若い人のジョークにしか聞こえなかった。

でも今回見て、2人とも決して若くはないのがはっきりわかった。役柄も、俳優さんたちの実年齢も。(若いのは、恋人役のエッタという女性だけなのだ。)

それなのに「青春」を描いているように見えてしまうのは・・・2人のアウトローの関係自体がそう感じさせるからなのだろうか。



少しは楽しいことも書いておこう。(この映画は全体としては明るいトーンを感じさせて、観た後も決して重苦しい気分にはならないのだから。)


初めて観た後の、姉と大学生のお姉さん(やはり別の機会に観ていた)との会話を覚えている。

「何よりも、あの終り方が凄いよねえ。」

「もう、どうなるかと思ったわ。だんだん悲惨なことになってくし・・・。」

「あの最後だから、この映画全体の印象が良かったことになるんだよね!」

「2人のどっちがいい? 私、サンダンス・キッド。」

「ロバート・レッドフォード?だったっけ。私もあの人がいいな。」

「ポール・ニューマンって、有名だけど、そんなにハンサムじゃないのね(笑)」


私は私で、夜姉と2人きりになったとき、「私サンダンスより、ブッチ役の人の方が好き。なんか、あの茶目っ気のある眼が・・・」などと言った気がする。姉はなんだか不思議そうな顔をしていたけれど(笑)。


そして・・・姉とふたりで映画を観たのはこれが最後だったのだと、今回あれこれ思い出しているうちに、初めて気付いた。

姉も私も、高校卒業後は次々と県外に出たので、その後一緒に映画に行くような機会はなかったと思う。その後も、近くに住むこともなく40年が過ぎ、今に至っている。


この映画は、もしかしたら、初めて対等な場所から姉と一緒に見た作品だったのかもしれない・・・と思うと、姉はやっぱり私にとっては、最初に出会った「映画の先輩」だったのだと思う。


こんなこと・・・長い間忘れていた。

古い映画には、思いがけない贈物がついてくるものらしい。









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6 コメント

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泣けてくる~ (よっちん)
2010-05-22 20:49:30
お姉さんと二人で実際に映画館に足を運んで観た思い出の映画なんだね。

「古い映画には、思いがけない贈り物がついてくるらしい」

なんだかジーンときました。

残念ながら、テレビ画面でしか観た事がないけれど、ポール・ニューマンとキャサリン・ロスが自転車で遊ぶシーンで一滴も降っていないのに「雨に濡れても」が流れていたのが印象に残ってます。

一斉射撃を浴びる最後のシーンは衝撃的だったね。

でもウェスタンの面白さ?も入っているし、そうそう、明るいトーンで描かれていたよね。

私も映画館で観てみたいなぁ...。
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見てみたいと思います。 (まゆりん)
2010-05-23 08:50:29
ムーマさんの解説を見て
見てみたいな。と思いました。

お姉さんと2人で見た最後の映画だったんですね。
想い出の映画なんですね。
私も兄や妹と最後に映画を見たのはいつだっただろう。。
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なぜか明るい印象が・・・ (ムーマ)
2010-05-23 12:48:39
>よっちんさん

名画座が一杯あった時代ならともかく、今は古い映画はスクリーンではなかなか観られませんよね。
私もこれまでは、BSで放映されたの録画したりして観てました。

ところが私の住む高知で、自主上映グループの方が外国の名画(『カサブランカ』『巴里のアメリカ人』その他)を月1回上映して下さるようになって、私にはそれがとても新鮮だったんです。

かつて自分が映画館で観た映画っていうのは、テレビ画面でもう一度観ても、それほど昔のこと思い出したりしないのに、スクリーンで再見すると、信じられないほどいろんな記憶が浮かび上がる・・・本当に不思議でした。

よっちんさんも『明日に向かって撃て!』観てらっしゃるんですね。
いつかスクリーンでご覧になる機会があったら、いいですね~。
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うーむ、オススメかどうか・・・(迷) (ムーマ)
2010-05-23 12:57:08
>まゆりんさん

よっちんさんの言われるように、「西部劇」で「衝撃的」なエンディング・・・まゆりんさんは疲れるかなあ・・・なんて、ちょっと迷ってます。

でも、トーンはほんとに明るいし、主役2人の会話はユーモラス♪ 案外軽く観られそうな気も。

まゆりんさんは、お兄さんや妹さんと、どんな映画をご覧になりましたか?
思い出したら、また教えて下さいね。
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Unknown (イェローフロッグフィシュ)
2010-11-13 13:29:32
懐かし~。私も大好きな忘れられない映画です。
原題今しりました。いい映画は、何時も心の疲れを癒してくれますね。もちレッドフォードですが。キャサリンロスでしたけ?
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そうです、キャサリン・ロス♪ (ムーマ)
2010-11-13 14:05:43
イェローフロッグフィシュさん、ようこそ~。

キャサリン・ロス・・・懐かしい名前です。
イェローフロッグフィシュさんはレッドフォード派だったんですね。ハンサムで、ヒゲが似合ってて、神業級の早撃ちガンマン。あのサンダンスはほんとカッコよかった!(喋りだしたら止まらない~(笑))

読んで下さって、書き込んで下さって、本当にありがとうございました。
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