眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『高野豆腐店の春』

2024-01-11 16:08:30 | 映画・本

(監督・脚本:三原光尋 2023)


年明け早々から災害だの事件だのが続き、何か「ほのぼの系」の映画観たいな~と「昭和の映画館」へ行ってみたら… 予想とはちょっと違う映画だった。

わたしはこの映画にとても励まされた気がした。見る人を本気で励まそうとする力を感じた。なので、そのことだけでも書いておきたい。


日本の政治も経済も、何をどうすればいいのかわからない状態(に見えてしまう)。世の常識もどんどんタガが外れる一方(にしか見えない)。

若い人たちは「将来なんてディストピア」「明るい未来なんて思い描けない」。高齢者のわたしなど「早く死んだらいいのに」と日々言われているような現実の中、元気の出しようがなくて当然。そこに異常気象(温暖化)だの地震だの、はたまた戦争の足音まで聞こえる始末。

そんなときに人を励ます言葉って、どんなモノなんだろう… と考えたことはあったけれど、まさかこういう映画で出会うとは思わなかった。


公式HPには「尾道を舞台に、愚直で職人気質の父・高野辰雄(藤竜也)と、明るく気立てのいい娘・春(麻生久美子)の人生を描いた、父と娘の物語」とあり、実際そういうお話なんだけれど…

気心の知れた人たちの間での、微笑ましいようなテンヤワンヤ騒動の後、主演の藤竜也が語った言葉、その横顔が忘れられない。(セリフやその順番についてはウロ覚え)


映画の後半、父親の高野(藤竜也)は、偶然知り合った同世代(何歳か下くらい?)の女性に、重い口を開いて自分の過去を語る。(女性はがんの再発で近々手術を受ける予定) 

「今の人には分かってもらえんかもしれんが、あの頃(敗戦前後)は『とにかくみんなで生き延びよう。なんとか力を合わせて生きていこう』って気持ちだけやった。(そのためならどんなことでもしたし、それが当然のことやった)」

「長い間苦しい思いをしてきたモンほど、死ぬときに『いい人生やった!』って大声で言えるくらい、幸せにならんといかん!!」


こうして文字に直すと、どこにそんな「励ます力」があるのかと思われそうだ(^^; でも、そう言ったときの主人公(というより藤竜也という人)の表情は、淡々としているのに大変な説得力があるように、少なくとも私は感じた。役柄がセリフとして言わせているのではなく、この人のこれまでの体験が言わせている… わたしにはストレートにそう聞こえたのだと思う。


帰宅して、藤竜也のことをちょっと調べてみた。

北京生まれ。ごく幼い時に、父親は現地招集され戦死。母親や弟と共に引き揚げてきた後、施設に預けられて数日後には脱走…などなど。多分この人も「長い間苦しい思いをしてきた」記憶のある人なんだと思った。

この世代(今80代とか)の人たちは、こどもの頃にさまざまな戦争体験があり、今現在の日本の状況も相対化して見ることができるのだろう。

映画のラスト、父親が娘に与えたはなむけの言葉が、それを語っているような気がした。


「この先は、これまでよりもっと生きにくい時代になるだろうが、なんとか生きて… 幸せになっていってほしい」


わたしも若い友人たちに、そういう風に言えたらいいのだけれど… 多分わたしには言えない。その佇まいも含めて、修羅場をくぐったことのない者には言えない言葉だと思った。

 

 

 

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (お茶屋)
2024-01-18 13:01:44
拝読して感動しました。
書いてくださってありがとう。
Unknown (ムーマ)
2024-01-18 13:33:15
ありがとうございます。嬉しいです(^^)
年令がある程度高い人?が
感動する映画だったのかも…って
お茶屋さんの感想読んで思い至りました。

でも、藤竜也って不思議な俳優さんですね。
『村の写真集』観たときにも思ったんですが
なぜかロマンチックなモノを感じさせるというか。
怒りは「新薬師寺の婆娑羅」で
好きな人の前ではゴロニャンなネコちゃんで(^^)
Unknown (みゆきん)
2024-01-25 14:48:24
我が人生悔いなしつってコロっと逝きたい
でもそれはまだ先
戦時中の話しになるとジッちゃんも尽きない、幼いながら鮮明に心に残ってしまってるみたいです。
Unknown (ムーマ)
2024-01-25 14:58:26
じっちゃんさんもそうなんだ~
何度も同じ話聞いてるみゆきんさん、えらい!
じっちゃんさんには、まだまだ長生きしてほしいです(^^)
Unknown (みゆきん)
2024-02-26 22:05:21
ジッちゃん最近,少食になっちゃって心配
かなりの高齢だし足腰ヨタヨタ
それでも買い物に行くし温泉に行くし(車)
気持ちは若いけど身体は正直
天婦羅は好きすぎて食べまくってくれるから頑張って揚げまくります(笑)
Unknown (ムーマ)
2024-02-26 23:01:52
みゆきんさんの天婦羅、写真で見ても美味しそう~♪
じっちゃんさんの元気の素なのね、きっと(^^)
気持ちの若さに身体がついていかなくて
みんな苦労してる(と思う)んだけど
みゆきんさんみたいな料理上手がそばにいて
おまけに聞き上手ときてるんだから
じっちゃんさんは、ほんとにしあわせな人だな~って
わたし、いつも思ってる。
ずっとお元気でおられるといいね。
Unknown (みゆきん)
2024-03-05 14:50:42
藤竜也って味のある俳優
ホームレスから社長まで何でもやってくれちゃう
私も大好きな俳優よ
人は皆,人生と言う舞台の上にいるんだよね。
Unknown (ムーマ)
2024-03-05 17:58:46
みゆきんさんも好きなんだ~(^^)
この映画じゃ頑固一徹な豆腐屋のおじいさん役なんだけど
一カ所だけ「変装して人目を避けてる」シーンがあるの。
でもね、帽子かぶってサングラスかけて
バー?のカウンターに座ってる格好が
あまりに似合ってるんで笑っちゃった。
(お豆腐屋さんの方が変装に見えてきちゃう)

みゆきんさんも人生舞台で目一杯生きてる人に見えるよ(^^)

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