むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

韓国主導で開かれたアジア平和議員連帯会議の怪

2005-11-04 23:39:14 | 韓国・北朝鮮
 ちょっと時間がたったが、10月21-23日、韓国済州島で韓国の与野党議員が主導となってアジア11カ国の国会議員を招いて、「アジア平和議員連帯会議(Parliamentarians' Alliance for Peace in Asia 、PAPA)」の創立総会が「平和と協力のためのアジアのビジョン」をテーマに開かれ、「日本の右傾化傾向がアジアの平和にとって深刻な不安要素になっている」と指摘する「2005済州平和宣言文」を採択して閉幕した。
 まず、第一印象からいって、平和の枠組み構築や中国の軍拡を置き去りにして、もっぱら日本の右傾化に言及するというのは、反日民族主義の潮流に乗って、他のアジアを引きずりこんだだけではないか、という感じがする。それもそのはずで、この会議は、与党ヨルリン・ウリ党の金泰弘キム・テホン)議員、ハンナラ党の金徳竜(キム・ドンニョン)議員ら与野党議員65人が参加した韓国委員会の主導で開かれたものだ。地元のチェジュ・トゥデイや聯合通信などが報じたところによれば、今度の連帯会議には、日本からは社民党の辻元衆院議員と阿部知子衆院議員、民主党の簗瀬進衆院議員、共産党の緒方靖夫参院議員をはじめ6人(残り2人は不明)を含め、中国、インドネシア、ロシア、ベトナム、モンゴル、インドネシア、タイ、フィリピン、カンボジア、そして地元韓国など「第二次世界大戦当時に日本帝国主義の被害を被った11ヶ国100人余りの国会議員が参加した」という。

 おかしな点をいくつか列挙する。
 まず、日本の直接の侵略を受けていないロシアとモンゴルがなぜか入っていることだ。これは、アジア地域の平和を語るために入れたのか。それは良い。
 第二に、ロシアを入れるのでれば、それこそ日本の統治という不幸な歴史を背負っていて、韓国よりも植民地期間が長かった台湾とか、パラオをはじめ南洋諸島なども忘れてはならないはずだが、なぜか入っていない。ウリ党は台湾の民進党ともかなり交流しているし、このような議員・政党レベルの国際組織という発想は、民進党の政党外交からヒントを得た感じが強いのに、なぜか台湾やパラオをはずしているのは解せない。「反日的な発言をしなさそう」だからか?
 第三に、そもそも議員会議というからには、民主主義国家の議員でなければ意味がない。その点では、中国、ベトナム、カンボジア、それからロシアは除外されるはずである。とくに中国は全人代が議会だと言われて信じる人間などいないだろう。
 第四に、韓国側は会議において、日本との竹島(独島)問題や中国による高句麗史改竄を問題にして、領土主権にこだわったようだ。しかし、領土主権紛争というのは、どちらが正しいかの問題は抜きにして、すくなくとも平和を語る場で、自分だけが正しいとしてそればかり固執する姿勢こそがまさに平和破壊行為ではないのか?そうした国家主権至上主義が戦争を招き、平和を破壊してきたのではなかったか。領土問題に触れたら、アジアにはほかにたくさんの紛争があって、別に韓国だけが日本や中国からやられているわけではないのだから。それがわからないところに、自民族中心主義の韓国の問題があるのではないか?

 そういう意味では、この国際会議の眼目は、主に反日を軸にして中国と連携することにあったように見える。ところがその中国は全人代の委員たちが全人代開会中ということで出席しなかった。いつもながら、韓国人も脇があまい。せっかく日程を決めるなら、中国の日程を把握せずによりによってこれない日にするとは。そこで、かわって駐韓中国大使館の参事官が出席して「日本首相の靖国参拝などの右傾化はアジアを不安定にしている」などと、一方的に日本だけを攻撃するスピーチをしたというが、これがまた何かの冗談のつもりか。
 たしかに日本で右傾化や軍事化の動きが強まっていることは否定できないし、私自身も左派として憂慮している部分はある。ただ、それを軍縮を進めてきて民主主義も自由もあるフィリピンや台湾あたりが言うのであればそのとおりだと思うが、こともあろうに、アジアで最も軍拡を進めていて、言論の自由も民主主義もない中国が日本の右傾化を非難するなど、噴飯ものである。日本が右傾化なら、中国は極右反動ファッショの親玉ではないか?
 韓国もいくら「反日」では一致するとはいえ、かりにも韓国は民主主義国家なのだから、民主主義のミの字もない中国と連携するのは、韓国自身の民主化闘争の歴史を冒涜するようなものではないか?
 (もっとも、これで韓国が中国に傾斜しすぎたと見ることもできない。前述したように、会議では韓国側は中国が高句麗史を中国史に組み入れようとしている動きを批判する発言も出ているからだ。ただそれもしょせんは自民族中心主義に過ぎないが)。

 さらに、韓国側の脇の甘さといえば、ベトナム、インドネシアなどの議員が日本批判を避けて「過去をいうよりも未来をどうするかアジアで話し合うことが重要ではないか」と述べたこともそれが現れている。
 反日発言を避けたインドネシアの議員の場合、同国では言論の自由もある程度あって多党化しているから、議員個人の意見といえるが、一党独裁のベトナムの議員の場合は注目される。反日発言をしなかったということは、ベトナム政府と国家全体が反日的ではないことを示しているからだ。ほかにもカンボジア、モンゴルあたりは反日発言はしなさそうだから、韓国側が「反日会議」を目指したにしては、脇があまいものになっている。どうせそういうことなら、台湾やパラオも招いて、「アジア全体」という体裁を整えるくらいのことをすればよかったのではなかったのか?

 たしかに日本が右傾化し軍事大国化することは、アジア全体にとっては不安を生む要因になっていることは事実である。だから日本の右翼が「アジアの反日はしょせんは中国・朝鮮・韓国だけだ」とタカをくくっていることも間違っている。台湾ですら、日本が中国を牽制する意味での一定の軍事力を期待していても、その刃が台湾などにも向けられることには警戒しているからだ。
 ただ、問題は、アジアでもっと右傾化して危険な軍拡を行っているのはどこか、である。それは中国であり韓国のほうではないか。日本は徴兵制など議論にもなっていないが、韓国では徴兵制が敷かれている。しかも同じ徴兵制がある台湾のように広範に良心的兵役拒否や代替役を認めておらず、忌避者は厳重に罰せられる。韓国民族主義に反する出版物は発禁にされる。まさに国家主義、ショービニズムである。いまの日本が右傾化なら、韓国はとっくに重度の右翼社会である。
 中国は言うまでもなかろう。チベット、東トルキスタンを不法占拠し民族浄化を行っている。国内ではネットをすべて検閲するなど言論統制を行っている。また将来台湾や日本を威嚇するために軍拡にも狂奔している。
 日本の右傾化や軍国主義を恐れるなら、現実に極右民族主義で軍国主義を行っている中国こそが真っ先に問題としなければならず、韓国も民主主義国家としては異常に狭量な民族主義を自己反省すべきだろう。日本の右傾化自体が、そうしたアジアの軍事化を受けての反動という色彩が強いのだから、もし中国などが右翼軍拡路線を放棄して、リベラルで平和的で民主的になれば、日本で右傾化を進める理由などなくなるからである。原因を検討せずに、結果ばかり非難しても、アジアの平和は構築されない。まして、台湾やパラオなど特定の国を排除して、アジアの平和など語ることなどできるわけがない。

 そういう点で、この会議は、その名称とテーマに反して、かえって平和に逆行するもので、韓国民族主義の自慰行為に終わったといっていいと思う。

参考:
韓国聯合通信(英文):(LEAD) Asian legislators demand review of Japan's history, war settlement
http://english.yna.co.kr/Engnews/20051022/610000000020051022103037E7.html

2ちゃんねる:【韓国】「アジア平和議員連帯会議」が「平和宣言文」を採択し閉幕。来年の開催地も韓国 [10/23]
http://news18.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1130076030

済州トゥデイ(韓国語)(2005/10/23 12:29)
http://www.ijejutoday.com/news/read.php?idxno=17385&rsec=MAIN§ion=MAIN

韓国側運営委員長で地元チェジュ島選出、ウリ所属の姜昌一(カン・チャンイル)議員のHPに関連資料がアップされている(ただしアレアハングル形式)。
http://www.kangci.net/common/board/listbody.html?a_gb=news&a_cd=1&a_item=0&a_site=41&po_no=1233

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