外交などズブの素人ですが、『プーチンのエネルギー戦略』木村汎著 北星堂を読んで思いました。プーチンさんの戦略は、現代の「大祖国戦争」とも言うべきロシア復興運動なのでないでしょうか。
プーチンさんが大統領に就任して以来、ロシアの豊富な資源(石油・ガスなど)を戦略的に活用するために、民営化された巨大な資源関連企業を謀略により国有化していきました。プーチンに逆らう企業家は逮捕され抹殺されました。
またロシア崩壊時には、窮余の策として、海外企業(メジャー)に掘削権(資源開発会社の過半数の株式)を与えましたが、この複数のプロジェクトも謀略により権利を奪え返しました。
そのプロジェクトの一つである「サハリン2」では、環境運動を利用する方法で嫌がらせ(謀略)を行なったようです。
(パイプラインの建設で環境が破壊されることは確かですが、ロシアでは完全に情報統制され多くが隠蔽されています。)
それが「サハリン2」では、徹底的に環境問題を取り上げ、是正工事を多発させることによって、海外企業(この場合、ロイヤルダッチシェル・三井・三菱)の開発費はどんどん増大していったようです。工期も何度も延ばされることにより、海外企業はとうとう音を上げて、ロシアに過半の株を売り渡すことしかできなくなったようです。
プーチンさんは資源をまるで兵器のように用いて、政治的な主導権を握ることに専念しているようです(新帝国主義、祖国防衛(大祖国戦争)ということでしょうか?)。
しかし、カスピ海の石油を巡る、ロシア、欧州、米国、中国、カスピ海沿岸国、トルコ、イランなどの駆け引き、政治経済戦争はまるでかつての冷戦や帝国主義戦争を思い起こさせます。
著者の木村さんは、プーチンの資源戦略のみを重視する考え方は危険を孕んでいると警告しています(地道な技術革新に基づいた経済成長を阻害する)。
カスピ海の石油の開発については、面白い記事を書かれているサイトがりました。
「1873年スエーデンの発明家イマヌエル・ノーベルの息子ロバート・ノーベルがバクーを訪れます。イマヌエルには3人の息子がいました。長男のロバートは次男のルドブィッヒの仕事を手伝っていました。次男は父の仕事を受け継ぎ軍事産業を営んでいました。
その関係でライフルの銃床となる木材(文献によれば艤装品の説もある)の買い付けにバクーを訪れたのです。そのころ、バクーは既に規模は小さいものの石油産業が芽ばえ街は栄えていました。
彼は、たちまち石油の虜になります。懐には、弟から預かった木材買い付けの資金があります。その資金を流用し1875年にバラハニーに利権を取得小さな製油所を手に入れます。
その後、次弟からの資金援助もありバクーでも強力な精製業者となりました。
次弟のルドブィッヒは、アメリカでの石油産業の急成長を知り、自ら石油産業に乗り出します。発明家という素養を備えており連続蒸留装置の技術改良などたちまち製油所を効率的に改造しました。
掘削業者、包装業者、輸送業者を傘下にいれ一大石油産業を確立します。さらに、油井と製油所との間にパイプラインを敷設しました。『ロベルト・ノーベル製油所』を設立し国際石油会社としての地位を築きます。さらに、油井と製油所との間にパイプラインを敷設しました。『ロベルト・ノーベル製油所』を設立し国際石油会社としての地位を築きます。
長男ロバートは、弟ルドブィッヒが自分の領分を犯したことに反発スェーデンに帰ってしまいます。しかし、1879年に『ノーベル兄弟石油生産会社』を設立しました。ノーベル一家ははロスチャイルド家と競争することになります。
…ノーベル基金の設立者が末弟のアルフレッドであり資金調達の役目がアルフレッドであるのが定説です。このアルフレッドがダイナマイトの発明者(1867年)であります。産業発展の為には、安全な爆薬が必要であるということで研究を重ねました。その爆薬とは、ニトログリセリンで、僅かなショックで爆発するこの液体を安全なものにしたいと研究しました。
その結果、1866年に安全に取り扱えるダイナマイトを発明しました。
彼のダイナマイト発明の目的は、鉄道のトンネルを掘る平和産業に貢献することでした。」
なんとあのダイナマイト発明の「ノーベル」の兄弟達がバクー油田の初期開発に関わったということらしいです。
「ロシヤ帝国での石油産業の市場は厳しく、国民の大半の人びとは石油を買うことすら出来ませんでした。そこで石油業者は市場を外国に求めました。カスピ海を北上するノーベルのルート対抗して黒海の町までの輸送手段として鉄道建設(バクーからバツーム)を計画しましたが、その資金がありませんでした。そこに現れたのが、マイヤ・ロスチャイルドです。ノーベルの成功に刺激され1886年に莫大な資金を投入し『カスピ海・黒海会社』を設立しました。アドリア海の製油所を買い取りロシアから原油を運ぶ計画を考えました。ノーベルとの戦いになり、シェル石油も絡んできます。」
そしてあの「ロスチャイルド」が進出してきました。
「バクーの石油労働者の労働条件や生活条件は過酷でした。
バクーの労働者はほとんどが家族から離れて単身で働いていました。一日の労働時間は14時間から16時間が強いられ労働者の不満は蓄積していきました。バクーは『カスピ海沿岸の革命の温床』になりつつありました。革命を扇動する拠点が出来つつありました。バクーと石油産業は将来の革命の指導者を育てる場所となりました。
その若き活動家の卵の中に、「コバ」と呼ばれる男がいました。彼こそ、後に『ヨシフ・スターリン』と呼ばれる男でした。彼は、ロスチャイルド家に対するストライキをはじめ石油産器用相手のストライキの首謀者となりました。
1905年10月ストライキはロシア全域に広がりました。燃え盛る油井の火が地獄のごとく煙の雲の中にたちあがりました。
その後一旦スターリンは投獄されますが、やがて出獄し政治、社会の大変動がロスチャイルド家、ノーベル家をロシアから追い出すこととなります。以後、ロシアをはじめ東欧諸国は社会運動の坩堝に巻き込まれていくのです。国家は石油なり、社会主義国家建設の国威高揚から石油産業を描く切手は社会主義国に多く発行されました。(転載終わり)」
そして、おおとり「スターリン」の登場です。
カスピ沿岸油田は、ノーベル兄弟が開発し、ロスチャイルドやシェルが参入し、そして「革命(一種の謀略?)」により前者を追放し、最後にスターリンが支配しました。
さぞやノーベルやロスチャイルドの怨嗟の思いは忘れることはできないでしょう。
今またその争奪戦が始まっているのでしょうか?
ロシアは、欧米の勤勉至上主義(異常な資本増殖・金儲け主義)的な考えには、生理的に順応できないと思います。ギリシア正教を引き継いだロシア正教の精神の基、プラトン的な数理論理教は受入られると思いますが、それはエリートによる官僚支配に親和性があるのかもしれません。また共産主義的な考えも受け入れやすかった?
リビアを失い、シリアも混乱し、ウクライナも分裂(きな臭い)状況にあります。カスピ海石油を巡る政治経済戦争(もしくは文字通りの軍事武力戦争)は今後ますますエスカレートするかもしれません。
参考:『激しさ増すカスピ海の天然資源争奪戦』
なおロイヤル・ダッチ・シェルの「シェル」誕生秘話は、日本と非常に係わり合いがあります。一人のユダヤ人少年がイギリスから片道切符でやってきて、湘南の海岸で貝拾いをしたことに始まります?
詳しいサイトがあります「イギリスのユダヤ人
マーカス・サミュエルと日本~ 「ロイヤル・ダッチ・シェル」誕生秘話 ~」
マーカス・サミュエルと日本~ 「ロイヤル・ダッチ・シェル」誕生秘話 ~」
マーカス・サミュエル少年が毎日きれいな貝を拾い集めながら、いったい何を想っていたのか?なんだか切なくなくなります。
そして、このようなことから、あの大企業に発展するなどということは、「奇跡」のようにも思えます。
きれいな貝を一つ、また一つ見つけ、故郷の父に、「またを見つけたよ」「また見つけたよ」と心に念じていたのでしょうか。
シェル石油の貝のマークは、サミュエル氏にとっては、自分のアイデンティティそのものなのかもしれません。
どうして日本のあちこちに、この「貝」のマークがあるのかと思いましたが、サミュエル少年が日本で念じ続けた「神への想い」が具現化したということでしょうか?(きれいごとだけではないと思いますが…)
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