数理論理教(科学教)の研究

数理論理(科学)はどこから来て、どのような影響を与え、どこに行こうとしているのか、少しでも考えてみたいと思います。人文系

免疫(8)インターフェロン インターフェロン抑制とウイルス

2023-08-25 09:56:42 | 免疫
1.インターフェロン 
 情報伝達物質(サイトカイン)の1種であるインターフェロンは、1954年に日本の長野泰一氏と小島保彦氏が「ウイルス干渉因子」として発見されました。
 ウイルス感染により、Toll様受容体(TLR)のTLR3、TLR7、TLR9(エンドソームに存在)やRIG-IMDA-5らのパータン認識型の受容体が情報を感知すると、I型インターフェロンが活性化されます。また様々な抗原が侵入したときに産生されるIL-1、IL-2、IL-12、TNF、CSFなどのサイトカインによっても、インターフェロンは誘導されます。
(1)IFN typeⅠ (Ⅰ型インターフェロン)
 I型インターフェロンには、インターフェロンα(IFN-α)、インターフェロンβ(IFN-β)などがあります。
  一般的にインターフェロンというと、このⅠ型インターフェロンのことをいいます。Ⅰ型インターフェロンには主に3つの機能があります。
 ①直接ウイルス複製を抑制する。
  ●RNaseL(リボヌクレアーゼ L)の活性化により、ウイルスのmRNAを
   分解する。
  ●真核生物蛋白質合成開始因子 eIF-2α(eIF2S1)をリン酸化してウイルス
   ペプチド鎖の合成開始を阻止する。
  ●その他、MxAが誘導されて、ウイルス感染細胞のアポトーシスの促進や
   ウイルス増殖の抑制が行われます。
 NK細胞がウイルス非感染細胞を攻撃しないように、MHCクラスI分子
  の発現を増加させる。
 ③NK細胞を活性化させてウイルス感染細胞を除去する
 
(2)IFN typeⅡ(2型インターフェロン)
 II型インターフェロン(IFN-γ)は、免疫系の細胞によって分泌されて、マクロファージを活性化します。

2.ウイルスによるインターフェロン抑制
 ウイルスにはインターフェロンを抑制する機能を持つものがいるようです。
インターフェロンの抑制方法としては、(1)IFN 結合性蛋白の産生、(2) JAK/STAT 系に関わる蛋白の分解、(3)JAK/STAT 系に関わる蛋白の活性化阻止、(4)活性化転写因子の核内移行の阻害、(5)JAK/STAT 系のネガテブ制御因子の誘導などがあるようです。
 スペイン風邪を復元して実験した結果では、インターフェロンが抑制されていたことが分かりました。
 また新型コロナウイルスも、インターフェロンを抑制する機能を持っているようです。

 
「…新型コロナウイルス感染ではⅠ型インターフェロンがうまく作られないことがあるようです。…ウイルスが作るタンパク質の一つであるORF3bが、宿主細胞のⅠ型インターフェロン遺伝子の活性化を抑えて、Ⅰ型インターフェロンの産出を抑えます。また、同じくウイルス由来の別のタンパク質PLProが、ORF3bとは別のメカニズムで、Ⅰ型インターフェロン遺伝子の活性化を抑え、結課としてⅠ型インターフェロンがうまく作られなくなります。
 Ⅰ型インターフェロンは、ウイルス増殖を抑えるだけでなく、周囲の細胞に対して炎症性サイトカイン産生を促してウイルスに対する炎症反応を促進する役目があることから、Ⅰ型インターフェロンが十分にできないと、抗ウイルス反応がうまく起きないだけでなく、風邪症状も起こりにくくなり、その間にウイルスは局所で増えていくことになります。」

「…驚くべきことに、SARS-CoV-2のORF3bタンパク質は、SARS-CoVのORF3bタンパク質よりも強いインターフェロン阻害活性があることを見いだしました。また、コウモリやセンザンコウで同定されている、SARS-CoV-2に近縁なウイルスのORF3bタンパク質についても同様に解析した結果、SARS-CoV-2のORF3bタンパク質と同様、強いインターフェロン阻害活性があることを明らかにしました。」  

「ORF3bはサルベコウイルス亜属のコロナウイルスに見られる遺伝子で、短い非構造タンパク質をコードしています。これはSARS-CoV ( SARSという病気を引き起こす) とSARS-CoV-2 ( COVID-19を引き起こす)の両方に存在します …インターフェロンアンタゴニストと同様の効果がある 」

「パパイン様プロテアーゼ(パパインようプロテアーゼ、英: papain-like protease、PLpro)は、コロナウイルスの複製に不可欠なシステインプロテアーゼで、CAグループペプチダーゼ(C16ファミリー)に属する。 
…PLproの触媒ドメインの分子構造は、「広げた右手」がN末端で「ユビキチン様」ドメイン(UBL)に結合して構成されている。PLproの構造は、脱ユビキチン化酵素(DUB)の構造と似ている。さらに、PLproの酵素活性のin vitro特性評価によって、このタンパク質様プロテアーゼはユビキチン(Ub)およびUBLのISG15(英語版)(インターフェロン誘導遺伝子15、interferon-induced gene 15)タンパク質を認識して、加水分解することがわかった。
UbとISG15はどちらも、ウイルス感染に対する宿主の自然免疫系の免疫応答のシグナル伝達において重要な役割を果たしており、これらの欠如はウイルス増殖に有利に働くことが分かっている。」


 「もし私たちがウイルスと呼ぶ病原体が生き物というなら、ウイルスを人工合成した彼らは生き物を創造した「神」になるのだろうか。2005年秋、インフルエンザ・ウイルスを再合成してみせた米陸軍病理研究所のJ・K・タウベンバーガーたちのことである。
 スペイン風邪を引き起こしたウイルス…1997年、アラスカから持ち帰った組織片からほぼ完全なウイルスを発見したタウンバーガーは歓喜して、ウイルスの遺伝子を解読し始めた。…すべての解読を終えたのは2005年。解読がどれほど大変だったかは歳月が示している。
 タウンバーガーたちは…比較的、簡単にDNA版のウイルス遺伝子を作ることができた。彼らに協力してウイルスの遺伝情報をもとにDNAを作り、これをプラスミドに組み込む重要な仕事をこなしたのは米ニューヨークのマウント・サイナイ医科大学の研究者たち。そのプラスミドを人の腎臓細胞の中に注入するという最後の仕上げ的な作業を担ったのは、世界の感染症対策の総本山と目される米疾病管理センター(CDC)のテレンス・タンビーらだった。
…ここからのプロセスはウイルスが感染した細胞の中で増殖するのと同じだ。
…復元されたウイルスは予想通り、致命的な毒性を持っていた。タンビーたちが、復元したウイルスを実験動物のネズミに感染させたところ、数日後にはネズミの肺に通常のインフルエンザ・ウイルスと比べ数万倍のウイルスが発生。ネズミは肺炎を起こして死んでしまった。
 2007年1月…米国のタウンバーガーたちが公表していたウイルスの遺伝情報をもとに、河岡はウイルスを復元、その成果を英科学誌ネイチャーで発表したのだ。
…河岡は二つの点で異彩を放った。人工合成したウイルスを人間に近いカニクイザルに感染させた点と、ウイルスの強力な毒性の背後に免疫の異常反応がからんでいるのを突きとめたことだ。
…まずスペイン風邪ウイルスをサルの鼻などに接種、すると24時間以内に体力や食欲が弱まり、感染して1週間ほどたつと重い肺炎を起こし呼吸困難になった。回復は不能と判断した研究者たちはここで実験を停止、サルを安楽死させることとなった。
 解剖するとサルの肺は約7割の領域が肺炎に冒され、水分がいっぱいたまってた。肺にたまった水分でサルが呼吸不全に陥ったことを示唆する光景だった。通常のインフルエンザ・ウイルスを接種したサルが肺炎を起こすこともなく軽い症状にとどまったのと比べると症状は重篤。スペイン風邪ウイルスは通常のウイルスに比べ、気管や肺で百倍以上に増えていた。
…免疫は異常な反応を見せていた。通常、ウイルスなどが侵入すると、生き物の体にはウイルスを抑えるインターフェロンという情報伝達物質が現れる。インターフェロンの別名はウイルス抑制因子。しかしサルの体内ではインターフェロンの分泌が抑制されていた。
 一方、過剰に分泌が増えた情報伝達分子もあった。発熱・腫れ・むくみ・痛みなどを引き起こすインターロイキン6という分子だ。その様子は関係者が嵐に例えて「サイトカイン・ストーム(嵐)」と呼んだほどだった。
…炎症は免疫の働きに不可欠な営みであるが、インターロイキン6がこれほど過剰に分泌され、またウイルスの増殖を抑えるインターフェロンの分泌が抑制されてはサルの体が無事ですむわけもなかった、と考えられる。」

「…コロナウイルスは、ウイルス感染の最初の10日間に自然免疫を回避します。感染の初期段階では、SARS-CoV-2 は、ヒト細胞における弱い IFN-I 誘導物質であるSARS-CoVよりもさらに低いI 型インターフェロン(IFN-I) 応答を誘導します。 SARS-CoV-2 も IFN-III 反応を制限します。加齢に伴う形質細胞様樹状細胞の数の減少は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症度の増加と関連しているが、これはおそらくこれらの細胞が実質的なインターフェロン産生細胞であるためであると考えられる。
 生命を脅かす新型コロナウイルス感染症患者の 10 パーセントは、I 型インターフェロンに対する自己抗体を持っています。
 IFN-I 応答の遅延は、 COVID-19疾患の後期段階で見られる病原性炎症 (サイトカインストーム)の一因となります。ウイルス感染前 (または感染の非常に初期段階) での IFN-I の適用は、PEG 化 IFN-λIII による治療と同様に防御効果があり、ランダム化臨床試験で検証されるべきである 。」

『2. ウイルスによるインターフェロン情報伝達系 抑制の分子機構』
「ウイルスに対する細胞や生体の防御機構の中で、インターフェロン(IFN)の示す抗ウイルス活性は大変重要であり、またIFNの多面的作用は獲得免疫発動にとっても欠かせないものでもある。ウイルスは IFN の情報伝達系を抑制することによってほぼ全 IFN システムを抑制する機能を獲得してきた と思われる。これまで判明している IFN 情報伝達系の抑制機構は、(1)IFN 結合性蛋白の産生、(2) JAK/STAT 系に関わる蛋白の分解、(3)JAK/STAT 系に関わる蛋白の活性化阻止、(4)活性化転写 因子の核内移行の阻害、(5)JAK/STAT 系のネガテブ制御因子の誘導、に整理される。我々の検討 している HSV1 ではネガテブ制御因子である SOCS3 の誘導が、ムンプスウイルスは V 蛋白による STAT-1,STAT-3 の分解が、麻疹ウイルスでは V 蛋白、C 蛋白が IFN レセプターと複合体を形成し Jak-1 のリン酸化が阻止されていることが、IFN 情報伝達系抑制に関わっている。 
…ウイルスや 細菌による IFN 産生制御,IFN による TLR や MyD88 の制 御は,免疫機構が微生物感染により広範な影響を受けるこ とを示している.ウイルスや細菌は,生体が大きなシステ ムとして構築してきた防御機構を様々な側面から撹乱し自 らの増殖性や侵襲性を確保する能力を備えている.このこ とは,ウイルスが単に IFN による抗ウイルス作用を抑制 するというだけではなく,JAK/STAT 情報伝達系の抑制 を介して IFN シグナルやサイトカインシグナル,さらに は TLR シグナルが乱され多くの細胞機能が抑制あるいは 促進されると共に,Th0 リンパ球から Th1 や Th2 への誘導 レベルの乱れ,樹状細胞機能変化,T リンパ球や B リンパ 球の分化・成熟過程の変化,その結果として免疫機構の破 綻に至ることが考えられる.従って,これらの微生物が如 何にして細胞内情報伝達機構を抑制,阻害するかという分 子機構を理解することは,微生物の病原性を解明する一助 になるであろうし,またより有効な治療法に繋がる可能性 を秘めていると思われる. 」

「インターフェロン(英: interferon、略号:IFN)とは、動物体内で病原体(特にウイルス)や腫瘍細胞などの異物の侵入に反応して細胞が分泌する蛋白質のこと。ウイルス増殖の阻止や細胞増殖の抑制、免疫系および炎症の調節などの働きをするサイトカインの一種である。
…1954年に、伝染病研究所所長(当時)の長野泰一と小島保彦が「ウイルス干渉因子」として発見し報告した。1957年には、イギリスのアリック・アイザックス(Alick Isaacs)やスイスのジャン・リンデンマン(Jean Lindenmann)たちもウイルス増殖を非特異的に(抗体ではない)抑制する因子として確認し、ウイルス干渉(Interference)因子という意味で「Interferon(インターフェロン)」と命名した。 1980年頃に、インターフェロンが悪性腫瘍に効果があることが発見され、抗がん剤として発展していった。 蚕[8] やハムスターの体内にヒトの細胞を埋め込んで、その細胞にC型肝炎ウイルスの遺伝子を組み込んだセンダイウイルスを感染させることにより、インターフェロンを産生させるという方法を利用して大量生産が可能になった。 
…ウイルスの感染や2本鎖RNAなどによって直接誘導されることが知られている。これらの細胞外での受容体としてはToll様受容体(TLR)でその中でもエンドソームに存在するTLR3、TLR7、TLR9である。また、細胞内に存在する受容体としてはRIG-I、MDA-5が関与し、これらがI型インターフェロンの発現を高めると考えられる。また体内にいろいろな抗原が侵入したときそれに反応してIL-1、IL-2、IL-12、TNF、CSFなどのサイトカインが産生される。インターフェロンの産生はこれらのサイトカインによっても誘導される。
 インターフェロンにより調節される細胞内シグナル伝達経路の代表的なものとしてはJAK-STAT経路が知られるが、それ以外の経路も関与していると考えられる。
 インターフェロンαとβはリンパ球(T細胞、B細胞)、マクロファージ、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨芽細胞など多くのタイプの細胞で産生され特に抗ウイルス応答の重要な要素である(詳しくはI型インターフェロンの項を参照)。インターフェロンαとβはマクロファージとNK細胞をともに刺激し、腫瘍細胞に対しても直接的に増殖抑制作用を示す。
 インターフェロンγは活性化されたT細胞で産生され免疫系と炎症反応に対して調節作用を有する。IFN-γにも抗ウイルス作用と抗腫瘍作用があるが弱く、その代わりIFN-αとβの効果を増強する作用がある。IFN-γは腫瘍のある局所で働く必要があり、がん治療への有効性は低い。IFN-γはTh1細胞からも分泌され、白血球を感染局所にリクルートして炎症を強化する作用がある。またマクロファージを刺激して細菌を貪食殺菌させる。Th1細胞から分泌されたIFN-γはTh2反応を調節する作用でも重要である。免疫応答の調節にも関わっており、過剰な産生は自己免疫疾患につながる可能性がある。IFN-ωは白血球からウイルス感染または腫瘍の局所で分泌される。」

「I型インターフェロン(英:type I interferon)とは、インターフェロンファミリーのうち、インターフェロンα(英語版)(IFN-α)とインターフェロンβ(英語版)(IFN-β)などを含めた総称で、ウイルス感染で誘導される抗ウイルス系のサイトカインである。「I型」という名前は、免疫系の細胞によって分泌されマクロファージを活性化するII型インターフェロン(IFN-γ)などと区別するための呼称であるが、一般に「インターフェロン」というとI型インターフェロンのことを指す。
…I型インターフェロンの主な機能としては、
  • (1)ウイルス複製を抑制することで、細胞のウイルス抵抗性を上昇させる
  • (2)ウイルス非感染細胞のMHCクラスI分子の発現を増加させ、NK細胞の攻撃から保護する
  • (3)NK細胞を活性化させてウイルス感染細胞を除去する
という3つである。 まず、I型インターフェロンが細胞に結合すると、(2'-5')オリゴアデニル酸合成酵素系とプロテインキナーゼ系が活性化する。(2'-5')オリゴアデニル酸合成酵素系(2-5AS系)では、通常3'-5'の形で結合しているATPを2'-5'結合オリゴマーに重合させることでエンドヌクレアーゼであるRNaseLを活性化しウイルスのmRNAを分解する。一方プロテインキナーゼ系では、真核生物蛋白質合成開始因子 eIF-2α(eIF2S1)をリン酸化することでウイルスペプチド鎖の合成開始を阻止する。この他にもインターフェロンは抗ウイルス活性を示す遺伝子を誘導する。その遺伝子の1つとしてMxA(myxovirus resistance A)がある。MxAはウイルス感染細胞におけるアポトーシスの促進とウイルス増殖の抑制を促すが、これはMxAが小胞体ストレスを起こすことによるものだと考えられている。
 上で述べたような直接的な抗ウイルス活性の他に、I型インターフェロンはウイルス非感染細胞のMHCクラスI分子の発現を高めることでNK細胞から正常細胞を保護している。というのも、NK細胞はウイルスによってMHCの発現が抑制されたり、立体配座(コンフォメーション)を変更させられたMHCを持つ細胞を攻撃する一方で正常のMHCクラスI分子を持っている細胞に対してはNK細胞に抑制性のシグナルが入り攻撃を行わないからである。この一方で、I型インターフェロンはNK細胞を活性化する役割も担っている。ここで活性化されたNK細胞はウイルス感染細胞を除去するとともにインターフェロンγ(IFN-γ)を放出することでT細胞依存性の細胞傷害を誘導する。」

「リボヌクレアーゼ LまたはRNase L (潜在型) は、リボヌクレアーゼ 4または2'-5' オリゴアデニル酸シンテターゼ依存性リボヌクレアーゼとしても知られ、インターフェロン (IFN)誘導性リボヌクレアーゼであり、活性化されると細胞内のすべてのRNAを破壊します(両方とも細胞性そしてバイラル)。RNase L は、ヒトではRNASEL遺伝子によってコードされる酵素です。」

「インターフェロン誘導 GTP 結合タンパク質 Mx1 は、ヒトではMX1遺伝子によってコードされるタンパク質です。
 マウスでは、インターフェロン誘導性 Mx タンパク質が、インフルエンザ ウイルス 感染に対する特異的な抗ウイルス状態を担っています。さらに、ヒトオルソログ MxA は、動物由来のインフルエンザウイルスの主要な決定因子です。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、その抗原関連性、誘導条件、物理化学的性質、およびアミノ酸分析によって決定されるように、マウスタンパク質に類似している。この細胞質タンパク質は、ダイナミン スーパーファミリーと大型GTPaseファミリーの両方のメンバーです。」

「真核生物翻訳開始因子 2 サブユニット 1 (eIF2α) は、ヒトではEIF2S1遺伝子によってコードされるタンパク質です。 
 この遺伝子によってコードされるタンパク質は、翻訳開始因子 eIF2 タンパク質複合体のアルファ (α) サブユニットであり、タンパク質合成開始の初期の制御されたステップを触媒し、イニシエーター tRNA (Met-tRNA i Met ) の40S リボソームサブユニットへの結合を促進します。 」

「インターフェロンは感染細胞から分泌され、周囲の細胞に対し自身が感染したことを警告する。また免疫機構の細胞がこれにより刺激されると、ウイルス監視の一環としてインターフェロンを分泌する。インターフェロンは細胞表面にある受容体と結合する小さなタンパク質である。この信号は細胞内へと伝えられ、これによってウイルス防御に関わる何百ものタンパク質が作られる。細胞が作るインターフェロンにはいくつかの種類がある。インターフェロン-α(interferon-alpha、PDBエントリー 1itf)とインターフェロン-β(interferon-beta、PDBエントリー 1au1)は最も一般的な型で、大半の細胞種、特に免疫機構細胞によって作られる。これらは成長を止め防御に集中するための基本的な信号を送る。一方インターフェロン-γ(interferon-gamma、PDBエントリー 1rfb)は主にT細胞から分泌され、免疫機構の反応を調節する信号を送る。 
…ウイルスは巧妙で、想像の通り、様々な方法で進化してインターフェロンによる防御に対抗する。ウイルスによってインターフェロンの活動を阻害する段階は異なり、インターフェロンがその受容体に結合するところから、最終的に核に達する一連の信号伝達経路に至るまでさまざまである。例えば、右図に示したタンパク質(PDBエントリー 3bes)はハツカネズミ(mouse)に天然痘(smallpox)に似た症状(マウス痘、奇肢症、ectromeria)を引き起こすウイルス(エクトロメリアウイルス ectromeria virus、ECTV)から得られたものである。このタンパク質(青)はインターフェロン(赤)を捕獲し、受容体へ結合するのを阻害する。 」

『1. 自然免疫による核酸認識』
「ウイルスや細菌のもつ核酸(DNA と RNA)は自然免疫系により認識され,I 型インターフェロン や炎症性サイトカインが産生され,感染病原体に対する生体防御応答が誘導される.我々は発現スク リーニングにより,二重鎖 DNA に対する自然免疫応答を制御する細胞内分子として TRIM56 を同定 した.
 TRIM56 はユビキチンリガーゼとして機能し,STING と呼ばれるアダプター分子の K63 型ユ ビキチン化を促進した.この修飾により,TBK1 キナーゼがリクルートされ最終的に I 型インターフェ ロンが誘導された.以上のことから,DNA に対する自然免疫応答において,TRIM56 によるユビキ チン化を軸とした新たなシグナル伝達経路の存在が明らかとなった.一方,Toll-like receptor (TLR) 7 と TLR9 は,ウイルスの核酸を認識し,プラズマ細胞様樹状細胞から I 型インターフェロン産生をさ せる.我々は,抗ウイルス因子として報告されていた Viperin が,プラズマ細胞様樹状細胞において TLR7/9 を介した I 型インターフェロン産生に重要な役割を果たしていることを見出した.Viperin は, プラズマ細胞様樹状細胞において TLR7/9 の刺激より転写因子 Interferon regulatory factor (IRF) 7 依 存的に強く誘導され,脂肪滴に局在している.Viperin は,プラズマ細胞様樹状細胞において TLR7/9 の下流で働き IRF7 を活性化するシグナル伝達因子として知られている TRAF6 と IRAK1 に 結合し,これらの因子を脂肪滴上へとリクルートする.その結果,IRAK1 の K63 結合型ユビキチン 化が効率的に誘導され,IRAK1 による IRF7 の活性化を介した I 型インターフェロンの産生が促進さ れる.Viperin が,直接的なウイルス複製阻害に加えて,TLR7/9 を介した I 型インターフェロン産 生の促進により抗ウイルス応答に関わっていることが判明した. 」

「…Viperinは直接的なウイルス複製の阻害にくわえ,TLR7およびTLR9を介したI型インターフェロンの産生の促進により抗ウイルス応答にかかわっていることが明らかになった.」

「ラジカル S-アデノシル メチオニン ドメイン含有タンパク質 2 は、ヒトでは RSAD2遺伝子によってコードされるタンパク質です。RSAD2 はウイルスプロセスにおける多機能タンパク質であり、インターフェロン刺激遺伝子です。 
…Viperin は、ウイルス RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ (RdRp) を阻害するチェーン ターミネーターddhCTP (3'-デオキシ-3',4' ジデヒドロ-CTP) を生成できるラジカル SAM 酵素です。この活性はアミノ酸の代謝とミトコンドリア呼吸を無効にするようです。
 インフルエンザウイルスの出芽と放出の阻害において、ビペリンは、イソプレノイド生合成経路に必須の酵素であるファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)に結合して酵素活性を低下させることにより、細胞の原形質膜上の脂質ラフトを破壊することが示唆されています。[13]ビペリンは、宿主タンパク質 hVAP-33 およびNS5A との相互作用および複製複合体の形成の破壊を介して、HCV のウイルス複製を阻害することが示唆されています。」

「JAK-STATシグナル伝達経路 (ジャック-スタット・シグナルでんたつけいろ)は細胞外からの化学シグナルを、細胞核に伝え、DNAの 転写と発現を起こす情報伝達系。 免疫、増殖, 分化、アポトーシス 、発癌などに関与する。 JAK-STATシグナルカスケードは主に3つの構成要素からなる: 細胞表面の受容体、 Janus kinase (JAK)、2つの信号トランスデューサおよび転写活性化(STAT)タンパク質である。[1] JAK-STAT機能が損なわれたり、制御できないと、自己免疫疾患, 免疫不全症候群や悪性腫瘍などを引き起こされることがある。 」

「MyD88(myeloid differentiation factor 88)はTLRやIL-1ファミリーサイトカイン受容体の下流でシグナルを伝えるアダプタータンパク質である。 
…ヒトのパターン認識受容体にはTLR、NLR、RLR、CLRなどが知られ、TLRは10個あまり知られている。TLRのうちTLR3とTLR4の一部以外はMyD88を介して転写因子NF-κBを活性化させる。TLR3はMyD88ではなくTRIFという別のアダプタータンパク質を介してⅠ型インターフェロンの産出に関わる。
 MyD88を介したシグナルはマクロファージ等からの炎症性サイトカインの産出を誘導し自然免疫応答を惹起するのに加え、樹状細胞の活性化を促し獲得免疫応答を誘導するにも重要な役割を果たす[9]。T細胞依存性抗原に対する抗体産出におけるMyD88の役割は樹状細胞の活性化による獲得免疫応答の誘導ならびにB細胞の活性化による抗体産出の増強がある。
 抗原提示細胞のMyD88シグナルの活性化は抗原提示細胞によるサイトカイン産出や補助刺激分子の発現を増加させることで、抗原特異的T細胞の活性化を誘導する。さらにTLR等を介したB細胞のMyD88シグナルの活性化はB細胞とT細胞との会合を促し、またB細胞の胚中心B細胞ならびに形質細胞への分化を促進することが知られている。このようにMyD88シグナルは自然免疫応答惹起だけではなく、獲得免疫応答ならびに抗体産生を正に制御している。」

「NF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー、核内因子κB、nuclear factor-kappa B)は転写因子として働くタンパク質複合体である。NF-κBは1986年にノーベル生理学医学賞受賞者であるデビッド・ボルティモアらにより発見された。免疫グロブリンκ鎖遺伝子のエンハンサー領域に結合するタンパク質として発見され、当初はB細胞に特異的なものと考えられていたが、後に動物のほとんど全ての細胞に発現していることが明らかとなった。高等生物に限らずショウジョウバエやウニなどの無脊椎動物の細胞においてもNF-κBが発現している。
 NF-κBはストレスやサイトカイン、紫外線等の刺激により活性化される[1]。NF-κBは免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している。NF-κB活性制御の不良はクローン病や関節リウマチなどの炎症性疾患をはじめとし、癌や敗血症性ショックなどの原因となり、特に悪性腫瘍では多くの場合NF-κBの恒常的活性化が認められる。さらにNF-κBはサイトメガロウイルス (CMV) やヒト免疫不全ウイルス (HIV) の増殖にも関与している。」

「転写因子(てんしゃいんし)はDNAに特異的に結合するタンパク質の一群である。DNA上のプロモーター領域に、基本転写因子と呼ばれるものと、RNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)が結合し、転写が開始する。DNAの遺伝情報をRNAに転写する過程を促進、あるいは逆に抑制する。転写因子はこの機能を単独で、または他のタンパク質と複合体を形成することによって実行する。ヒトのゲノム上には、転写因子をコードする遺伝子がおよそ1,800前後存在するとの推定がなされている。」 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

免疫(7)インターロイキン6 サイトカインストームとウイルス

2023-08-19 14:57:53 | 免疫
1.インターロイキン、炎症反応
 インターロイキンとは、ヘルパーT細胞によって分泌され、広範な免疫系の機能を開始させるための情報伝達物質(サイトカイン)です。
 その中でも「インターロイキン6」は多様な機能を発現させますが、特に炎症反応(本来免疫をスムーズに起こすためのもの)に関わる情報伝達物質になっています。その「インターロイキン6」が関わる炎症反応は、何らかの要因で過剰に機能して自己免疫疾患にもたらすこともあり、またその分泌が制御不能な暴走モードとなる「サイトカイン・ストーム」に至ることもあります。

2.サイトカイン・ストームとウイルス
(1)スペイン風邪とサイトカイン・ストーム
 1918年から1920年までに起きたパンデミックである「スペイン風邪」は、当時の世界人口の約3分の1が感染して、5000万~1億人以上の死者を出したと推定されています。 
 1948年、この危険極まりないスペイン風邪のウイルスを発見したいと思う医学生が現れました。当時医学生だったハルティンはアラスカのイヌイットがスペイン風邪で亡くなった遺体を永久凍土に埋葬していたということを聞きつけ、アラスカに赴き永久凍土の遺体を掘り起こしてスペイン風邪のウイルスを発見しようとしましたが上手く行きませんでした。
その後に約40年経ち、1990年代に米陸軍病理研究所のタウンバーガーらがスペイン風邪のウイルスの復元を目指す動きを始めると、73歳になっていたハルティンは再びアラスカの遺体からウイルスを探そうとタウンバーガーに提案して、実行されました。
 1997年にタウンバーガーは遺体から完全なウイルスを発見して、約8年かけてその遺伝子配列の解読に成功し、なおかつ復元(人工合成)しました。そのウイルスを使ったネズミの感染実験をおこなったところ、数日後にはネズミの肺に通常のインフルエンザの数万倍のウイルスが発生して、ネズミは肺炎ですべて死んでしまいました。スペイン風邪のウイルスの強毒性が明らかにな
りました。
 その後、日本の研究者である河岡氏もスペイン風邪のウイルスの復元に成功して、ヒトに近いカニクイザルで感染実験を行いました。その結果、1週間ほどでサルは重い肺炎を起こし呼吸困難になり安楽死させられました。スペイン風邪のウイルスは、気管や肺で通常のウイルスに比べ百倍以上に増加していました。さらには免疫の異常が見られ、インターフェロンの産出が抑制され、インターロイキン6が過剰に分泌される「サイトカイン・ストーム」に至ってい
たとのことです。


「…体のあちらこちらに、IL6が深くかかわっている多様な営みがある…
 炎症を起こしたり、骨を溶かして関節リウマチの症状を引き起こしたり、…IL6は肝臓の細胞を刺激したり血小板を増やしたりするほか、がん患者やエイズ患者をやせ細らせ、貧血にする悪液質にさえかかわっていた。
…21世紀に入って以降も、自己免疫疾患を引き起こすヘルパー17T細胞に誘導に欠かせない分子であることが判明する…
 そうしたなかで最近、あらためて研究者の関心を集めているのは、IL6が炎症を起こす営みだ。病気やケガをしたとき、患部が腫れて熱を出すのはとてもつらい。しかし、この作用によって免疫の働きが強まり、病気やケガの治りは早くなるのだから、IL6を一概に悪者とは決めつけられない。
…しかし、何らかの弾みや刺激によって免疫細胞が狂気に駆られたように、とめどなくIL6を放出しはじめるサイトカイン・ストームだけは異次元の悪行だ。

 
(引用終わり)」

「インターロイキン(Interleukin)とは一群のサイトカインで、ヘルパーT細胞(leukocyte から-leukin)によって分泌され、細胞間(inter-)コミュニケーションの機能を果たすものをいう。ILと略される。 

…初め個別に命名されリンフォカインやモノカインとしても分類され混乱したため、1979年に整理され、ILのあとにタンパク質として同定された順に番号を付けて呼ぶことになった。現在30種類以上が知られている。
 免疫系の機能は多くをインターロイキンに負っており、自己免疫疾患や免疫不全の多くの難病もインターロイキンに関係している。
 主なものを示すと次のようであるが、単球やマクロファージが産生するものはモノカイン、リンパ球が産生するものはリンフォカインにも分類される。
  • IL-1:マクロファージによって分泌され急性期反応を誘導する。
  • IL-2:T細胞によって分泌されT細胞の増殖と分化を促進する。がんの免疫療法に用いられる。
  • IL-3:T細胞によって分泌され骨髄幹細胞を刺激する。
  • IL-4:B細胞の増殖とT細胞および肥満細胞の分化に関与する。アレルギー反応で重要。
  • IL-5:B細胞を刺激してIgAを産生させ、 また好酸球を刺激する。
  • IL-6:マクロファージを刺激して急性反応を誘導する。
  • IL-7:B細胞、T細胞、NK細胞の生存、分化、ホメオスタシスに関与する。
  • IL-8:好中球の走化性を誘導する。
  • IL-9:肥満細胞を刺激する。
  • IL-10:樹状細胞を抑制することによって、Th1サイトカイン産生を阻害する。
  • IL-11:急性期タンパク質を産生させる。
  • IL-12:NK細胞を刺激し、Th1への分化を誘導する。
  • IL-13:B細胞の増殖と分化を刺激し、Th1細胞を阻害し、マクロファージの炎症性サイトカイン産生を阻害する。
  • IL-14:活性化B細胞の増殖誘導。B細胞の抗体産生抑制。T細胞から産生。
  • IL-15:末梢血単球および上皮細胞から産生。キラーT細胞の活性化。B細胞の増殖と分化誘導。
  • IL-17:炎症性サイトカインの産生を誘導する。
  • IL-18:インターフェロン-γの産生を誘導する。」
 
 
「もし私たちがウイルスと呼ぶ病原体が生き物というなら、ウイルスを人工合成した彼らは生き物を創造した「神」になるのだろうか。2005年秋、インフルエンザ・ウイルスを再合成してみせた米陸軍病理研究所のJ・K・タウベンバーガーたちのことである。
 スペイン風邪を引き起こしたウイルス…1997年、アラスカから持ち帰った組織片からほぼ完全なウイルスを発見したタウンバーガーは歓喜して、ウイルスの遺伝子を解読し始めた。…すべての解読を終えたのは2005年。解読がどれほど大変だったかは歳月が示している。
 タウンバーガーたちは…比較的、簡単にDNA版のウイルス遺伝子を作ることができた。彼らに協力してウイルスの遺伝情報をもとにDNAを作り、これをプラスミドに組み込む重要な仕事をこなしたのは米ニューヨークのマウント・サイナイ医科大学の研究者たち。そのプラスミドを人の腎臓細胞の中に注入するという最後の仕上げ的な作業を担ったのは、世界の感染症対策の総本山と目される米疾病管理センター(CDC)のテレンス・タンビーらだった。
…ここからのプロセスはウイルスが感染した細胞の中で増殖するのと同じだ。
…復元されたウイルスは予想通り、致命的な毒性を持っていた。タンビーたちが、復元したウイルスを実験動物のネズミに感染させたところ、数日後にはネズミの肺に通常のインフルエンザ・ウイルスと比べ数万倍のウイルスが発生。ネズミは肺炎を起こして死んでしまった。
 2007年1月…米国のタウンバーガーたちが公表していたウイルスの遺伝情報をもとに、河岡はウイルスを復元、その成果を英科学誌ネイチャーで発表したのだ。
…河岡は二つの点で異彩を放った。人工合成したウイルスを人間に近いカニクイザルに感染させた点と、ウイルスの強力な毒性の背後に免疫の異常反応がからんでいるのを突きとめたことだ。
…まずスペイン風邪ウイルスをサルの鼻などに接種、すると24時間以内に体力や食欲が弱まり、感染して1週間ほどたつと重い肺炎を起こし呼吸困難になった。回復は不能と判断した研究者たちはここで実験を停止、サルを安楽死させることとなった。
 解剖するとサルの肺は約7割の領域が肺炎に冒され、水分がいっぱいたまってた。肺にたまった水分でサルが呼吸不全に陥ったことを示唆する光景だった。通常のインフルエンザ・ウイルスを接種したサルが肺炎を起こすこともなく軽い症状にとどまったのと比べると症状は重篤。スペイン風邪ウイルスは通常のウイルスに比べ、気管や肺で百倍以上に増えていた。
…免疫は異常な反応を見せていた。通常、ウイルスなどが侵入すると、生き物の体にはウイルスを抑えるインターフェロンという情報伝達物質が現れる。インターフェロンの別名はウイルス抑制因子。しかしサルの体内ではインターフェロンの分泌が抑制されていた。
 一方、過剰に分泌が増えた情報伝達分子もあった。発熱・腫れ・むくみ・痛みなどを引き起こすインターロイキン6という分子だ。その様子は関係者が嵐に例えて「サイトカイン・ストーム(嵐)」と呼んだほどだった。
…炎症は免疫の働きに不可欠な営みであるが、インターロイキン6がこれほど過剰に分泌され、またウイルスの増殖を抑えるインターフェロンの分泌が抑制されてはサルの体が無事ですむわけもなかった、と考えられる。」

「スペインかぜ(英語: 1918 flu pandemic, Spanish flu)は、一般的に1918年から1920年にかけ全世界的に大流行したH1N1亜型インフルエンザの通称。初期にスペインから感染拡大の情報がもたらされたため、この名で呼ばれている。 
 全世界で5億人が感染したとされ、 世界人口(18億-19億)のおよそ27%(CDCによれば3分の1)とされており、 これには北極および太平洋諸国人口も含まれる。死亡者数は5,000万-1億人以上、おそらくは1億人を超えていたと推定されており、人類史上最も死者を出したパンデミックのひとつである。」 


「免疫系が病原体と闘う際には、感染細胞からサイトカインシグナルが放出されてT細胞やマクロファージ等の免疫細胞を炎症部位に誘導する。その後サイトカインはこれらの免疫細胞を活性化し、さらなるサイトカイン放出を促す。通常は、身体はこのフィードバックを見張っているが、時には、制御が乱れて免疫細胞が1箇所に過剰に集中して活性化されることがある。その正確な理由は完全には解明されていないが、新たな高病原性の脅威に対して過剰に反応するためであろうと考えられている。サイトカインストームは臓器組織に重大な障害を与える可能性がある。例えばサイトカインストームが肺で起こった場合には、漿液や免疫細胞が気道に集中して閉塞を生じ、死亡する危険性がある。

 …1918年から1919年に掛けて流行したスペイン風邪では、5千万〜1億人とされる死者の中で健康であった若者の死亡数が際立って多かった理由として、サイトカインストームが発生したことが関係すると信じられている。この場合、健康な免疫系は身を守るものとしてだけではなく己を攻撃するものとして動作したことになる。2003年のSARS流行の際も、香港での予備的な調査の結果、その死因の多くがサイトカインストームによると判明している。H5N1トリインフルエンザでヒトが死亡する場合にも関係している。2009年新型インフルエンザ (H1N1) で基礎疾患のない若者の死亡率が高いことも同様に説明され、スペイン風邪でも同様であったであろうと推測されている。しかし、米国疾病予防管理センター (CDC) はH1N1の症状は従来の季節性インフルエンザと同じで、「ブタ由来A型インフルエンザウイルス (H1N1) の変異株に関する臨床的知見の集積は不充分である」と声明を出している。サイトカインストームはハンタウイルス感染症でも発生する。また、新型コロナウイルス感染症 (2019年)でも発生しているという指摘もある。むしろ、新型コロナウイルス感染症における肺疾患は、ウイルスによる直接の肺への病害でなく、サイトカインストームによる肺障害の結果であるという見方も主流になりつつある。これは急性呼吸促迫症候群の発症機序と酷似しているからである。本症の合併症として、播種性血管内凝固症候群による脳梗塞、各種臓器の梗塞、凝固障害などが指摘されている事が傍証となる。 」

(2)新型コロナウイルスとサイトカイン・ストーム
 新型コロナウイルス(COVID-19)でも、サイトカイン・ストームが起きていたことが指摘されています。
 COVID-19はACE2という受容体を介して感染しますが、ACE2が減少するとアンジオテンシII作用(AngII)が増強されます。AngIIは血管収縮のみならず、血管透過性亢進・細胞増殖・炎症誘導作用などの作用があり、心臓血管障害やがんにも関与します。それらの活性化により、サイトカインが放出されます。
 また肺胞上皮細胞などの細胞死によりダメージ関連分子パターンが大量に放出され、それらの情報により活性化されてサイトカインが放出されます。
 自然免疫の伝達系とAngIIの伝達系が相俟って活性化することにより、サイトカイン(特にIL6)が過剰に放出されるようなり、最終的にサイトカインストームに至ると考えらているようです。

「ACE2 はアンジオテンシII(AngII)をAng(1-7)に変換するので、ACE2の減少によりAngIIが増加する。一方、Ang(1-7)はMasR (Mitochondrial assembly receptor)を介してAT1Rシグナルに拮抗する。このように、細胞膜にあるACE2が減少すると、アンジオテンシン受容体タイプ1(AT1R)を介するAngIIの作用が増強される【図表2】。



 AngIIはAT1Rを介して血管収縮のみならず、血管透過性亢進や細胞増殖や炎症誘導作用があり、心臓血管障害やがんに関与する。AT1RはG蛋白質共役受容体で、血管平滑筋、繊維芽細胞、心筋細胞、肺、腎臓、脳など多くの細胞や臓器で発現している。AT1Rはイノシトールトリスリン酸(IP3)やジアシルグリセロールを介してカルシウム濃度上昇やプロテインカイネース Cの活性化を誘導し血管収縮やアルドステロン分泌を誘導するのみならず、活性酸素の産生誘導やADAM17(a disintegrin and metalloprotease 17)という細胞膜上に存在するプロテアーゼを活性化する。その結果、細胞膜に存在するEGF受容体リガンドやTNFαの前駆体が切断されて成熟したEGFリガンドやTNFαが放出される。同様にIL-6受容体sIL-6α(IL-6Rα)もADAM17により切断されて、IL-6Rαも細胞膜から遊離して可溶性IL-6Rα(sIL-6α)が放出される。TNFαはその受容体を介してNF-kBを活性化し、IL-6をはじめとする様々な炎症性サイトカイン産生を誘導するとともに、血管内皮細胞マクロファージに組織因子の発現を誘導し、血栓形成誘導や脳梗塞の原因となる。一方、IL-6はその受容体を介してマクロファージやリンパ球などの免疫細胞に転写因子STAT3を活性化する。血中に放出されたsIL-6RαはIL-6と複合体を形成して、IL-6受容体のシグナル伝達分子であるgp130を発現している様々な細胞(血管上皮細胞、線維芽細胞、肺胞上皮細胞など)に作用して STAT3を活性化する。活性化されたSTAT3はNF-kBに作用して、その活性化をさらに強め、IL-6アンプが活性化される【図表2】【図表4】。


 一方、免疫反応がウイルスを排除できない間に、ウイルス感染により肺胞上皮細胞などの細胞死が生じる。大量の死細胞から放出されたダメージ関連分子パターン(DAMP:Damage associated molecular pattern)がPRRsに認識されNF-kBが活性化される。その結果IL-1b、TNFαやIL-6などのサイトカインやケモカイン産生が誘導される。さらに、SARS-CoV-1のN蛋白(Nucleocapsid protein)は、IL-6遺伝子プロモーターに直接またはNF-kBを介して作用することによりIL-6遺伝子発現を誘導する【図表4】。
 このように、自然免疫を介するシグナル伝達系とAngII-AT1Rを介するシグナル伝達系が協調して、STAT3によるNF-kB活性化が持続的に亢進する。すなわちIL-6アンプが活性化されて、大量の炎症性サイトカインやケモカインなどが産生されて、サイトカインストームに至ると考えられる。」

「  血液の通り道である血管は非常に弾力性のある組織で、収縮と弛緩を繰り返すことで血管にかかる圧力(血圧)と血液の流れを調節しています。しかしながら、加齢に伴う様々なストレスが要因となって血管が厚く硬く変化していきますと、弾力性が失われ、慢性的に血圧が高い状態(高血圧)になってしまいます。
 アンジオテンシンIIは、血圧を上昇させる作用を持つ生理活性ペプチドです。血圧が低下するとレニン-アンジオテンシン系を介してアンジオテンシンIIが産生され、産生されたアンジオテンシンIIは血管を収縮させることで血圧を上昇させ、血管恒常性の維持に働きます。一方で、アンジオテンシンIIは高血圧を誘導するという負の一面を有しています(図1)。なぜアンジオテンシンIIによって高血圧が起こるかというと、アンジオテンシンIIは血管中膜を肥厚させる性質を持っているからです。血管中膜が肥厚すると血管の弾力性が失われ、結果として血管を流れる血液の流れが悪くなり、慢性的に血圧が上昇します。この血管中膜が肥厚する仕組みは、アンジオテンシンIIが細胞膜上にあるAT1Rに作用することで血管平滑筋細胞を肥大させることによって起こります。 」

「アンジオテンシン II 受容体 1 型 (AT1) は、最もよく特徴付けられているアンジオテンシン受容体です。ヒトではAGTR1 遺伝子によってコードされています。AT1 には昇圧作用があり、アルドステロンの分泌を調節します。これは、心臓血管系の血圧と血圧を制御する重要なエフェクターです。アンジオテンシン II 受容体拮抗薬は、高血圧、糖尿病性腎症、うっ血性心不全に適応のある薬剤です。 」

【私は以前、健康診断で血圧が高いため治療が必要との指摘を受け、病院に行き処方を受けました。血圧がなかなか下がらず、確か2回目に出された薬がこの「アンジオテンシン II 受容体拮抗薬」でした。その後ネットでいろいろと調べた結果、高血圧の基準が年々下げらていること、それにともない医薬の需要が伸びること、薬を飲んだ方がリスクが大きいという情報もあることを知り、私は薬は飲まない(病院には行かない)ことにしました。(あくまで私的な判断です)

「NF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー、核内因子κB、nuclear factor-kappa B)は転写因子として働くタンパク質複合体である。NF-κBは1986年にノーベル生理学医学賞受賞者であるデビッド・ボルティモアらにより発見された。免疫グロブリンκ鎖遺伝子のエンハンサー領域に結合するタンパク質として発見され、当初はB細胞に特異的なものと考えられていたが、後に動物のほとんど全ての細胞に発現していることが明らかとなった。高等生物に限らずショウジョウバエやウニなどの無脊椎動物の細胞においてもNF-κBが発現している。
 NF-κBはストレスやサイトカイン、紫外線等の刺激により活性化される。NF-κBは免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している。NF-κB活性制御の不良はクローン病や関節リウマチなどの炎症性疾患をはじめとし、癌や敗血症性ショックなどの原因となり、特に悪性腫瘍では多くの場合NF-κBの恒常的活性化が認められる。さらにNF-κBはサイトメガロウイルス (CMV) やヒト免疫不全ウイルス (HIV) の増殖にも関与している。」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

免疫(6)情報伝達物質(生理活性物質) サイトカイン

2023-08-16 09:43:21 | 免疫
1.サイトカイン
 主に免疫系の細胞間において情報伝達を行う低分子タンパク質のことを情報伝達物質といいます。この情報伝達分子は、その情報のやり取りよりも、その後の生理的な発現を重視して、生理活性物質(細胞を活性化する分子)と呼ばれることもあります。
 (主に免疫系)細胞は、トル様受容体(TLR)などが異物を感知したり、免疫細胞が抗原を認識したりすると、その情報により活性化され、いろいろな遺伝子を転写するようになり、サイトカインなどのタンパク質も産出し、細胞から分泌します。
 分泌されたサイトカインは、それの受容体を持つ細胞に結合して、今度はその細胞を活性化させます(自己の細胞が分泌したサイトカインで自己細胞自身が活性化されることもあります)。活性化された細胞は免疫応答などの様々な生理的な働きをするようになります。
 サイトカインにはインターロイキン(現在30種類以上が発見されている)やインターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)などがあります。
 サイトカインは、もちろん免疫に非常に有用な機能ですが、その活性が過度(暴走状態)になると自己免疫疾患関節リウマチなど)などを引き起こし、弊害を及ぼすことがあります。そのため、このサイトカインの過度の働きを抑制するための様々な「抗体医薬」も開発されています。

 
「情報伝達分子(サイトカイン)とは
 細胞から分泌されるたんぱく質で、特定の細胞に情報や命令を伝える生体分子のこと。主に免疫細胞と免疫細胞の間で伝令の役割を果たしている。情報伝達分子は標的の細胞にたどりつくと細胞表面にある受容体と結合、情報を受け取った細胞はさまざまな生理的な営みを体内で始める。
 情報伝達分子は情報の受け渡しよりも、その後に現れる効果の方を重視して生理活性物質と呼ばれることもある。また、「細胞を活性化する分子」という意味からサイトカインとも呼ばれている。
 著名な情報伝達分子としてはウイルスの増殖を抑えるインターフェロン、炎症を起こさせるインターロイキン6、がん細胞を殺す分子として発見されたTNF(腫瘍壊死因子)などが知られている。」

 
「情報伝達分子
 免疫細胞と免疫細胞の間には、情報伝達分子と呼ばれる生体分子が行き来していて、免疫の営みに欠かせない情報や命令を受け渡している。
 たとえば抗原提示を受けたT細胞は、B細胞に抗体の生産を開始するよう指示する。この際、T細胞はB細胞に向かって微量のたんぱく質を放出する。これが情報伝達分子だ。専門家は情報伝達分子をサイトカインとも呼ぶ。
 これまで発見された情報伝達分子の顔ぶれは多彩である。たとえばがんの特効薬として期待されたインターフェロンやTNF(腫瘍壊死因子)、筆者の岸本が発見したインターロイキン6(IL6)などがある。
 インターロイキンとは「白血球と白血球の間をつなぐ分子」という意味の言葉だ。IL6は…発見当初はT細胞がB細胞に抗体を生産を促すための分子と理解されていた。
 だが、この分子がもっているさまざまな働きが、やがて続々と判明した。このうち特に重要なのは、炎症を起こす営みだ。ケガをしたとき、患部が腫れて熱を出すのはこの働きのせいなのだが、そのおかげで傷は早く治る。こうした働きから、IL6は「炎症性」の情報伝達分子と呼ばれている。
 IL6は、悪の顔も持っている。端的な例は、関節リウマチとの深いかかわりだ。関節リウマチは、免疫細胞が自分の体に牙をむく自己免疫疾患で、骨が溶け、最後には関節まで破壊される恐ろしい病気だ。犯人は患部でうごめいているIL6やTNFであることが突きとめられている。」

「サイトカイン (cytokine) は、細胞から分泌される低分子のタンパク質で生理活性物質の総称。生理活性蛋白質とも呼ばれ、細胞間相互作用に関与し周囲の細胞に影響を与える。放出する細胞によって作用は変わるが、詳細な働きは解明途中である。 
…細胞シグナリングにおいて重要な小さい蛋白質(およそ5 - 20 kDa)であり、広範かつ緩やかな分類概念である。細胞からのサイトカイン分泌は周囲の細胞の行動に影響する。サイトカインはオートクリン、パラクリン、および内分泌のシグナリングに免疫調節因子として関与するといえる。サイトカインのホルモンとの明確な違いについては現在研究途上にある。サイトカインにはケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、および腫瘍壊死因子が含まれる一方、例えばエリスロポエチンのように多少の用語上の重複があるものの、一般的にはホルモンと成長因子は含まれない。サイトカインは多様な細胞により産生される。それにはマクロファージ、Bリンパ球、Tリンパ球、肥満細胞といった免疫細胞のほかに内皮細胞、線維芽細胞、各種の間葉系細胞をも含む。したがって、ある1つのサイトカインが多種類の細胞により産生されることがありうる。
 サイトカインは受容体を介して働き、免疫系において殊の外重要である。たとえば、サイトカインは液性免疫と細胞性免疫のバランスを調節し、ある特定の細胞集団の成熟、成長、および反応性を制御する。ある種のサイトカインは他のサイトカインの作用を複雑な方法で増進または抑制する。
 ホルモンもやはり重要な細胞シグナリング分子であるが、サイトカインは一般にホルモンとは異なる。ホルモンは特定の臓器の内分泌腺より血中に分泌され、比較的一定の範囲の濃度に保たれる。
 サイトカインは健康・病気いずれの状態においても重要であり、感染への宿主応答、免疫応答、炎症、外傷、敗血症、がん、生殖における重要性が特記される。

以下の様な分類がされる。
  1. インターロイキン(IL)
  2. 造血因子(CSF, EPO, TPO)
  3. インターフェロン(IFN)
  4. 腫瘍壊死因子(TNF)
  5. 増殖因子
  6. 増殖因子(EGF, FGF, PDGF)
  7. 7.ケモカイン(IL-8)
受容体(レセプター)
構造上類似しているものがあり、ファミリーが形成される。
  • a クラス I(ヘモポイエチンレセプター):IL-2〜7, 9, 11〜13, 15. GM-CSF, G-CSF, EPO, TPO, LIF, OSM, CNTF, GH, leptin.
  • b クラス II:インターフェロン、IL-10.
  • c Fas/TNFR:TNF, FasL, CD40L
  • d セリン/スレオニンキナーゼ:TGF-b, activin, inhibin.
  • e チロシンキナーゼ:EGF, PDGF, FGF, M-CSF, SCF.
  • f ケモカイン:IL-8, IL-16, Eotaxin, RANTES.
  • g TLR/IL-1R:IL-1, bacteria     
…最初に見つかったのはI型インターフェロンであるインターフェロン・アルファ (IFN-α) で、1954年に長野泰一らがウイルス干渉因子として発見したものが最初の報告とされる。ただし、インターフェロンの名は、アリック・アイザックスらが1957年に同様の因子を独自に発見したときに名付けたものであり、これが最初の発見とする研究者もいる。II型インターフェロンであるインターフェロン・ガンマ (IFN-γ) は1965年に記述された。マクロファージ遊走阻止因子 (MIF) の発見は1966年に2つのグループにより同時に報告された。
 1969年、ダドリー・デュモンド (Dudley DuMonde) が、これらの分子がいずれも広義の白血球(リンパ球、単球、マクロファージを含む)によって産生されることに着目し、「リンフォカイン」(lymphokine:白血球を意味する接頭語 lympho- とギリシア語で「動く」を意味する kinein からの造語)と総称することを提案した。その後、白血球の種類によって産生する分子に違いが見られることから、特にリンパ球系の細胞が産生するものは「リンフォカイン」、単球系(単球とマクロファージ)が産生するものは「モノカイン」(monokine:mono-は単球を意味するmonocytesに由来)と総称されるようになった。
 1974年、スタンリー・コーエンらはウイルスの感染した線維芽細胞がMIFを産生することを発表し、この蛋白の産生が免疫系細胞に限定されないことを示した。ここからコーエンは「サイトカイン」の語を提唱した。

…サイトカインはすでに数百種類が発見され、今日も発見が続いている。機能的には次のように分けられる(ただし重複するものも多い)。
  • インターロイキン (Interleukin (IL); インターリューキン):白血球が分泌し免疫系の調節に機能する。現在30種以上が知られる。
  • 同様に免疫系調節に関与するもので、リンパ球が分泌するものをリンフォカインという。また単球やマクロファージが分泌するものをモノカインということもある。
  • ケモカイン (chemokine):白血球の遊走を誘導する。
  • インターフェロン(Interferon; IFN):ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の機能を持ち、免疫系でも重要である。
  • 造血因子:血球の分化・増殖を促進する。コロニー刺激因子(Coloney-Stimulating Factor (CSF):マクロファージを刺激)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte- (G-)CSF)、エリスロポエチン(Erythropoietin (EPO):赤血球を刺激)などがある。
  • 細胞増殖因子:特定の細胞に対して増殖を促進する。上皮成長因子(Epidermal Growth Factor (EGF))、線維芽細胞成長因子(Fibroblast Growth Factor (FGF))、血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor (PDGF))、肝細胞成長因子(Hepatocyto Growth Factor (HGF))、トランスフォーミング成長因子(TGF)などがある。
  • 細胞傷害因子:腫瘍壊死因子(TNF-α)やリンフォトキシン(TNF-β)など、細胞にアポトーシスを誘発する。これらは構造的にも互いに類似しTNFスーパーファミリーと呼ばれる。
  • アディポカイン:脂肪組織から分泌されるレプチン、TNF-αなどで、食欲や脂質代謝の調節に関わる。
  • 神経栄養因子:神経成長因子(NGF)など、神経細胞の成長を促進する。
また構造的な類似から、多くのインターロイキンやCSF、G-CSF、EPOなどをまとめてI型サイトカイン、インターフェロンやIL-10などをII型サイトカインともいう。
  • コペンハーゲン大学医学部の教授(Bente Klarlund Pederson)により命名されたマイオカイン(Myokine)と呼ばれる運動因子誘発型インターロイキン6の一種が、最近になって成長ホルモンを増量させる効果があると言われるようになってきた。(引用終わり)」



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

免疫(5)細胞の病原体センサー Toll様受容体 Toll-like receptor(TLR) 

2023-08-11 15:13:19 | 免疫
 Toll様受容体(Toll-like receptor、TLR)は動物の主に細胞表面にある受容体タンパク質であり、様々な病原体を感知して自然免疫(炎症性サイトカインやインターフェロンの産生・放出など)を作動させるセンサーとしての機能があります。その病原体を認識する方法は、パターン認識といって、病原体のある程度共通している構造を識別するものです。その反応時間は獲得免疫(T細胞やB細胞による反応)より早く、真っ先に自然免疫反応が始まります。自然免疫反応によって病原体が排除されれば、獲得免疫が働くことはありません。
 なおToll様受容体が認識するのは抗原などのタンパク質ではなく、多くは細菌やウイルスなどの核酸や脂質(アジュバンド)です。樹状細胞が抗原提示する際にアジュバンドの違いにより、ヘルパーT細胞の性質(1型・2型)が決まるようです。
 また、TLR3、TLR7、TRL8のように細胞内の小胞にあって、ウイルスのRNA(免疫細胞などにより分解された断片)を認識できるものもあります。
 さらにTLRファミリーの他に、分解されていないウイルスのRNAを感知するRIG-1MDA5などもあるようです。
 Tollとは、1980年代にドイツ人生物学者のクリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトによりショウジョウバエの発生において背と腹の軸を決定する遺伝子として発見されたものです。
 1996年、ジュール・ホフマン(2011年ノーベル生理学・医学賞受賞)がそれが真菌に対する免疫としても働いていることを発見。
 1997年、イェール大学のCharles Janewayやルスラン・メジトフらが哺乳類にもToll遺伝子と同様の遺伝子を発見して、これをToll-like receptorと命名しました。
 1998年、ブルース・ボイトラー(2011年ノーベル生理学・医学賞受賞)がTLR4によってリポ多糖が認識されることを発見しました。その後には、他のTLRによって認識される病原体が続々と発見され特定されました。
 TLRは哺乳動物で10から15種類が確認され、ヒトでは10種類(TLR1からTLR10と呼ばれる)が見つかっています。
 なおTLRの発見には大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授の審良静男教授の貢献が大きいようです。

「2011 年Gairdner 国際賞における審良静男の受賞理由の解説
 …審良らは、哺乳動物で約10 種類あるTLR の機能解析を通じ、自然免疫が極めて特異的に病原体を認識することを発見した。その病原体とは、種々の細菌の表面成分、腸内細菌の鞭毛成分、バクテリア・ウィルスに特有のDNA・RNA などである(Fig. 2)。


TLR4 が病原体膜構成成分を認識することの証明 
 リポ多糖(LPS) は、グラム陰性菌の細胞表面に存在し、敗血症ショックの中心的な原因物質である。審良はTLR4 ノックアウトマウスとTLR2 ノックアウトマウスを作製し、これらマウスの細菌細胞膜成分に対する反応性を比較した結果、TLR4 がLPS 受容体であり、 TLR2 は関係しないことを証明した。現在、TLR4 を阻害することにより敗血症ショックを抑える薬の開発が進んでいる。
TLR5 が鞭毛の構成成分を認識することの発見
 鞭毛は細菌が水中を動きまわるための装置である。審良らは米国のAlan Aderem との共同研究により、TLR5 が、鞭毛の構成タンパク質であるフラジェリンを認識する受容体であり、腸内細菌の体内(腸の外側)への侵入を感知して炎症反応を引き起こすことを明らかにした。
TLR7 が抗ウィルス剤イミダゾキノリン誘導体とウィルス由来一本鎖RNA の受容体であることの発見
 審良らはTLR7 がイミダゾキノリン(imidazoquinolines) に属するImiquimod とR-848(Resiquimod) を認識し、その後のサイトカイン誘導や免疫反応誘導に必須であることが明らかにした。イミダゾキノリンは、現在、新たな抗ウィルス剤として臨床応用されている合成化合物である。この結果は、TLR を介した自然免疫系の活性化が合成化合物でも誘導でき、種感染症、ガンなどの免疫療法に応用できることを直接証明したものである。その後、TLR7 が細
胞内のエンドソームにおいて、ウィルス由来の一本鎖RNA を認識することを明らかにし、TLR7が体内へのウィルス侵入を感知する受容体であることを証明した。
TLR9 が細菌およびウィルスのDNA(CpG DNA) を認識する受容体であることの発見
 審良らはTLR9 のノックアウトマウスを作製し、その役割を調べた結果、エンドソームにおいて、TLR9 が細菌やウィルスに特有のDNA (CpG-DNA) に対する応答に必須の受容体であることを証明した。この研究成果はNature 誌に掲載されたが、同論文の被引用数は2700 を超え(2011年3 月現在)、記録的となっている。(引用終わり)」

 
「…RNAウイルスの場合には、特に異物レセプターのTRL7、RIG-1やMDA-5などが重要な働きをします。
 これらの異物レセプターによってウイルスRNAが認識されると、レセプターの下流に存在する転写因子とよばれる一群のタンパク質が活性化されて、その結果、感染細胞の中でウイルス防御に関連した遺伝子の働きが始まります。
…RNAを認識する異物レセプターの一つTLR7にウイルスRNAが結合すると、TLR7の下流に存在する転写因子複合体のNFκBが核内に移動して、炎症性サイトカイン遺伝子のプロモーターに結合します。炎症性サイトカイン遺伝子の転写が始まります。
 このようにして、炎症性サイトカインが細胞内で作られて、細胞外に放出されます。
…一方、RIG-1やMDA-5にウイルスRNAが結語すると、その下流にある別の転写因子(IRF3とIRF7)が働きます。これらの転写因子はリン酸化された後に核に移行します。そして、Ⅰ型インターフェロン遺伝子とⅢ型インターフェロンがそれぞれ産生されるようになります。これによって抗ウイルス反応が始まります。(引用終わり)」

 
 
「…樹状細胞が抗原提示したとき、同時にエンドトキシンなどの細菌やウイルスの成分(アジュバンド)で刺激された場合、つまり細菌感染やウイルス感染の場合は、細菌やウイルスの核酸や脂質成分を認識するTOLL様受容体を介して樹状細胞はインターロイキン12を分泌します。また、その膜構造に変化が生じます。その結果、樹状細胞と接触しているナイーブ細胞はサイトカインとしてインターフェロンγを分泌し始めます。
 つまり、TOLL様受容体が認識するのは抗原やアレルゲンなどのタンパク質ではなく、細菌のウイルスに存在する特有の構造を持つ核酸や脂質などのアジュバンドなのです。このアジュバンドの作用により樹状細胞の膜構造などの変化を経て、ナイーブT細胞はインターフェロンγを分泌する1型ヘルパー細胞に変身しながら増殖していきます。
 樹状細胞がアレルゲンと遭遇し、アレルゲン構造物をナイーブT細胞に提示したときにプロスタンという物質で同時刺激された場合は、細菌やウイルス由来のアジュバントにTOLL様受容体を刺激されたときとは別な膜構造を持つようになります。その結果、樹状細胞と接触するナイーブ細胞は先ほどのインターフェロンγではなく、今度はインターロイキン4を分泌し始めます。つまり、ナイーブ細胞はインターロイキン4を分泌する2型ヘルパー細胞に変身しながら増殖します。(引用終わり)」

「Toll様受容体(トルようじゅようたい、Toll-like receptor:TLRと略す)は動物の細胞表面にある受容体タンパク質で、種々の病原体を感知して自然免疫(獲得免疫と異なり、一般の病原体を排除する非特異的な免疫作用)を作動させる機能がある。脊椎動物では、獲得免疫が働くためにもToll様受容体などを介した自然免疫の作動が必要である。
 TLRまたはTLR類似の遺伝子は、哺乳類やその他の脊椎動物(インターロイキン1受容体も含む)、また昆虫などにもあり、最近では植物にも類似のものが見つかっていて、進化的起源はディフェンシン(細胞の出す抗菌性ペプチド)などと並び非常に古いと思われる。さらにTLRの一部分にだけ相同性を示すタンパク質(RP105など)もある。
 TLRやその他の自然免疫に関わる受容体は、病原体に常に存在し(進化上保存されたもの)、しかも病原体に特異的な(宿主にはない)パターンを認識するものでなければならない。そのためにTLRは、細菌表面のリポ多糖(LPS)、リポタンパク質、鞭毛のフラジェリン、ウイルスの二本鎖RNA、細菌やウイルスのDNAに含まれる非メチル化CpGアイランド(宿主のCpG配列はメチル化されているので区別できる)などを認識するようにできている。
TLRは特定の分子を認識するのでなく、上記のようなある一群の分子を認識するパターン認識受容体の一種である。

…Toll遺伝子(en)は1980年代にショウジョウバエで正常な発生(背腹軸の決定)に必要な遺伝子として、ドイツ人生物学者のクリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルト(1995年ノーベル生理学・医学賞受賞)によって発見された("Toll"はドイツ語で"Great"と"Curious"の両義をもつ語)が、1996年には、ジュール・ホフマン(2011年ノーベル生理学・医学賞受賞)によって真菌に対する免疫としても働いていることが明らかになった。
 さらに1997年、イェール大学のCharles Janewayやルスラン・メジトフらによって、哺乳類にもToll遺伝子と相同性の高い遺伝子が見つかり、これがToll-like receptorと命名された。1998年、ブルース・ボイトラー(2011年ノーベル生理学・医学賞受賞)によってTLR4がリポ多糖を認識することが発見されたのを皮切りに、各TLRのリガンドが解明されていった。
ほとんどの哺乳動物で10から15種類のTLRが確認されている。ヒトでは10種類(TLR1からTLR10と呼ばれる)があり、他の種でもそれらの多くに対応するものがあるが、一部はない(例えばTLR10に対応する遺伝子はマウスにもあるが、レトロウイルスにより破壊されている)。またヒトにはないが他種にあるものもある。

(引用終わり)」

「自然免疫系は、生体に侵入した病原体をいち早く感知し、発動する第一線の生体防御機構である。「病原体を感知(認識)する」ことは、自然免疫系を活性化するための必須の要素で、主にマクロファージや樹状細胞などによって行われる。これらの細胞は、パターン認識受容体(pattern-recognition receptor: PRR)を介して微生物の持つ共通した分子構造(pathogen-associated molecular pattern: PAMP)を認識する。PRRは、PAMPを認識すると、細胞内シグナル伝達系を活性化し、病原体排除に必要な生体防御機構を誘導する。また、第二の生体防御機構である獲得免疫系の誘導に樹状細胞が重要な役割を果たしているが、PRRによるシグナル伝達によって樹状細胞の成熟も促進され
る。
 Toll-like receptor(TLR)はPRRとして初めて同定された受容体で、多くのPAMPを認識することが明らかとなっている。TLRは、外部領域、膜貫通領域、細胞質内領域を持つI型膜貫通たん白質である。外部領域に存在するロイシンリッチリピート部分でPAMPを認識し、細胞質内領域のToll-IL-1 receptor(TIR)部分で下流のシグナル伝達系を活性化する。TLRは細胞表面、あるいは細胞内小胞上に発現している。これまでにヒトでは10、マウスでは12のTLRが同定されている。それぞれのTLRはウイルスや細菌、真菌、寄生虫固有のPAMPを認識する(表参照)。TLRはPAMPを認識すると、TIR(前述)にMyD88やTRIFというアダプター分子をリクルートすることによりNF-kBやMAPキナーゼ、IRF-3経路などのシグナル伝達系を活性化し、炎症性サイトカインやI型インターフェロン、ケモカイン、抗菌ペプチドの産生を誘導する。」


「…TLR9とCpG DNAの複合体の結晶をSPring-8の構造生物学ビームラインBL41XUで解析しました(図3)。「結晶は100 µm(0.1 mm)と小さく、十分な大きさではなかったのですが、1.6 Åという非常に高い解像度のデータを取ることができました。X線が高輝度で非常に強く、高い平行性を持ったSPring-8でなければ、これほどの高解像度での構造解析は難しかったでしょう」と大戸さんは言います。TLR9とCpG DNAは2対2の比率で結合して、2量体を形成していました。CpG DNAはTLR9の溝にはまり込むことで認識されるというメカニズムも明らかになりました。 

(引用終わり)」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

免疫(4)自然免疫 補体システム

2023-08-08 10:27:54 | 免疫
1.補体システムとは
 補体システムとは、獲得免疫より古くからある自然免疫であり、最近の研究ではサンゴやカブトガニからも補体が見つかっているとのことです。
 補体系は20種類以上のタンパク質やタンパク質断片から成り、それらのタンパク質が組み合わされ連携することで、様々な防御活動を行っています。例えば、補体系のあるタンパク質が他のタンパク質を活性化し、そのタンパク質がまた他のタンパク質を活性化するという連鎖的な反応を行い、最終的には「細胞膜傷害性複合体」という複合体を構成して、細菌や細胞に穴を開けて破壊してしまいます。
 補体系のタンパク質は主に肝臓で合成され、血清グロブリン分画の約5%を占めます。
 補体系の活性化には(発見された順に)、「古典経路」(抗体複合体から反応する)、「副経路」(抗体を介さないで反応する)、「マンノース結合レクチン経路」(病原体の糖タンパク質を認識して反応する)の3つプロセスがあります。

「蛋白分画とは
 血液から細胞成分(赤血球,白血球,血小板)を取り除いたものを血漿とよび,血漿から主にフィブリノゲン(血液を固める働きをもつ蛋白質)を取り除いたものを血清と言います。血清の中の蛋白をおおまかに分類する方法に電気泳動法があり,蛋白質を5つのグループに分けます(アルブミンと,α1,α2,β,γ の4つのグロブリン分画)。
 各分画の基準値(%)と各分画に含まれる主要蛋白は次のようになります(聞き慣れない名前ばかりと思いますが,主なものを列挙しておきます)。
アルブミン分画(62~71%):トランスサイレチン(甲状腺ホルモンを輸送)
                 アルブミン(浸透圧維持・物質の輸送)
グロブリン分画
  α1(2~4%):α1アンチトリプシン(炎症で増加する急性期蛋白)
            α1酸性糖蛋白(炎症で増加する急性期蛋白)
  α2(5~10%):α2マクログロブリン(プラスミンなどの活性抑制)
            セルロプラスミン(銅の輸送に関与。炎症でも上昇)
            ハプトグロビン(ヘモグロビンと結合)
  β(7~11%):β リポ蛋白(脂質輸送)
            トランスフェリン(鉄の輸送)
            C3(補体第3成分,生体防御に関与)
γ(10~20%) 免疫グロブリン(IgG・IgA・IgM)
 アルブミンとグロブリン分画のγ(γグロブリン)で80%近く占めますので,総蛋白濃度に影響を及ぼすのはアルブミンとγグロブリンの変動です。 」


 
「…体表面を突破した病原体に対しては、さまざまな防御ペプチドや防御細胞が関与するより複雑な非特異的防御システムが発動する。

補体
 脊椎動物の血液には30種類程度の抗微生物タンパク質から構成される補体システムが存在する。これらのタンパク質はさまざまな組み合わせで、3種類の防御活動を行う。それぞれの防御活動で、補体系タンパク質は、あるタンパク質が別のタンパク質を活性化し、そのタンパク質がさらに活性化を行うという一連の連続反応、すなわちカスケードを生じさせる。
■最初に補体は病原体に結合して、貪食細胞に的であることを認識させて攻撃しやすくする。
■その後、炎症応答を活性化し、感染部位に貪食細胞を集結させる。
■最終的には、細菌のような侵入してきた細胞を溶解(破裂)させる。

インターフェロン類
貪食細胞
ナチュラルキラー細胞
(引用終わり)」

「Bordet (1895年)は、溶菌現象には抗体以外の易熱性の因子が必要と報告した。Ehrlichはこの因子を補体(complement)と命名した。補体は、血液中に存在する約20種の易熱性のタンパク質からなる複雑な反応系で、溶菌作用、オプソニン作用、貪食細胞の感染部位への集合を促進するなどの機能をもつ。補体系のタンパク質は非動化の条件(56℃,15分)で完全に失活する。 




(引用終わり)」

「…補体蛋白の中で最も重要な働きをするC3は,最近サンゴやカブトガニなどの種々の無脊椎動物で発見されており,補体の起源は,当初考えられていたよりかなり古いことが推定される。原索動物のマボヤにおいてはレクチンを認識分子として機能するレクチン経路の原型の存在が確認されている。この原型をもとに,遺伝子重複とエクソンシャフリングなどを重ね,哺乳類に存在するレクチン経路や古典的経路に進化したものと思われる。補体系の活性化に働くマンノース結合レクチン(mannose-binding lectin;MBL)とフィコリンは,自然免疫において生体に侵入した病原体を非自己と認識するパターン認識分子である。そして,MBLとフィコリンはコラーゲン構造をもち,獲得免疫で働く補体古典的経路のC1q分子とは類縁関係にあると考えられている。」

「①古典経路は体内に侵入してきた細菌や細胞の膜抗原に抗体(IgGやIgM)が結合して免疫複合体を形成すると、補体第1成分(C1)がこの抗体と結合して、C1が活性化されます。活性化したC1は補体C4を活性化し、その後、補体(C2~C8)を次々に活性化します。その結果、最終的に膜上に補体第9成分(C9)の複合体を細胞壁(膜)に埋め込み、細菌や細胞に穴をあけます。

②別経路は古典経路とは異なり、免疫複合体を必要とせず、補体第3成分(C3)が少しずつ加水分解を受け(C3H2O)、血液中のB因子と結合します。B因子と結合したC3H2Oは大量のC3を活性化(C3b)します。このC3bが病原体の細胞壁に結合すると順次補体の活性化が進み、古典経路と同じように最終的にC9の複合体を形成して、細胞壁に穴をあけます。

 ③レクチン経路は3種の補体活性化経路のうち、最も新しく発見された経路です。高校生には耳慣れないレクチンという言葉ですが、レクチンとは糖鎖に結合活性を示すタンパク質の総称です。したがって、レクチン経路は病原体の細胞壁の特徴的な糖鎖構造を認識することに始まる補体活性化経路です。すなわち、病原体の細胞壁のマンノースを血液中に存在するマンノース結合レクチン(MBL)という物質が認識して結合すると、MBLと結合したMBL結合セリンプロテアーゼ(MASP)という酵素が活性化されます。この活性化したMASPが補体第4因子(C4)を活性化し、順次補体を活性化して、最終的に、他の補体活性化経路と同様にC9の複合体で細胞壁に穴をあけます。」

2.補体系の役割 
 補体系の役割としては、大まかに以下のような三つの働きがあります。
(1)抗原のオプソニン化
 「オプソニン化」とは、微生物などの抗原に「抗体」や「補体」が結合して、抗原が食細胞に取り込まれやすくすることをいいます。食細胞に結合して食作用をしやすくする血清因子のことを「オプソニン」といい、補体のC3bや抗体のIgG(免疫グロブリンG)などがそれに該当します。一次感染では「補体」がオプソニン化の中心になり、抗体ができている二次感染ではIgGがオプソニン化の中心になります。 

(2)膜侵襲複合体による細菌の破壊
 補体系のタンパク質は、通常は血液中を不活性な酵素前駆体の形で循環しています。異物(細菌など)の侵入により刺激を受けると、補体系のタンパク質は活性化して、サイトカイン(低分子タンパク質で情報伝達物質で警戒情報)を放出したり、さらに他のタンパク質と連携して連鎖反応を押し進めるようになります。この連鎖が進むと、最終的には補体複合体「膜侵襲複合体(細胞膜傷害性複合体」ができて、それが細菌や細胞に穴を開け破壊します。

(3)マクロファージ等への走化性刺激
 補体系からの警戒情報(サイトカインの放出)により、マクロファージなどの食細胞が呼び寄せられます。マクロファージなどは警戒情報を得ると、仮足というタンパク質の繊維状のもので、その発出場所に移動するようです(アメーバ運動)。

「補体(ほたい、英: complement)とは、生体が病原体を排除する際に抗体および貪食細胞を補助するという意味で命名された免疫系(補体系)を構成するタンパク質であり、補体系の役割は大きく言って下記の3つから構成されるものである。
  1. 抗原のオプソニン化
  2. 膜侵襲複合体による細菌の破壊
  3. マクロファージ等への走化性刺激
の3つである。
「補体」という名だが、進化の歴史においては、獲得免疫よりも補体の確立のほうが古い。
 補体系は自然免疫に属しており、獲得免疫系のように変化することはない。
 補体系は血液中の多数の小タンパク質からなり、それらは通常不活性な酵素前駆体の形で循環している。いくつかのトリガーの1つによって刺激を受けると系のタンパク質分解酵素が特定のタンパク質の分解反応を行い、サイトカインの放出を誘導し、さらに分解反応が進むようにカスケードの増幅を始める。この活性カスケードの最終結果は反応の大規模な増幅であり、細胞殺傷性の膜侵襲複合体(細胞膜傷害性複合体、MAC, membrane attack complex)の活性化である。補体系は20以上のタンパク質とタンパク質断片からなる。その中には、血清タンパク質、漿膜タンパク質、細胞膜レセプターを含む。これらのタンパク質は主に肝臓で合成され、血清のグロブリン分画の約5%を占める。
補体系の活性化には3つの生化学的プロセスがある:古典経路、副経路、マンノース結合レクチン経路である。
…補体(ほたい)とは免疫反応を媒介する血中タンパク質の一群で、動物血液中に含まれる。抗体が体内に侵入してきた細菌などの微生物に結合すると、補体は抗体により活性化され、そして細菌の細胞膜を壊すなどして生体防御に働く。補体は易熱性であり、56℃、30分の処理で失活する(非働化)。
  補体と呼ばれるタンパク群には複数のタンパクがあり、英語で補体を表す "complement" の頭文字をとってC1からC9で表される。C1にはさらにC1q、C1r、C1sという3種の分子の複合体であり、その他はC5a、C5bといったような複数の分子に分解される。これらのタンパク質群が連鎖的に活性化して免疫反応の一翼を担う。
 さらに、C1からC9の補体タンパク質以外にB因子、D因子などを含めた16種類のタンパク質、液性(血液中にある)の5つの調節因子(I因子、H因子、C4Bp、C1抑制因子、properdin)、細胞膜上の4種類の調節因子(CR1、CR2、membrane cofactor protein、decay accelerating factor)などのタンパク質も補体の機能の発現・調節に関与しており、これらを総称して補体系と呼ぶ。

古典的経路
 古典(的)経路とは、C1の活性化に始まる経路のことである。体液性免疫の抗体抗原複合体に補体C1が結合することでC1が活性化する。以降も基本的に数字順に活性化するが、C4は例外的に2番目に来る。『C1→C4→C2→C3b→C5b』まで活性化され、あとはC5bにC6以降が次々と結合、最終的にC5b6789にまでなる。
 C5b6789は『細胞膜傷害性複合体』あるいは膜侵襲複合体(英: membrane-attack complex、MAC)といわれ、細菌の表面に取り付き細胞膜を破壊する。この働きを免疫溶菌反応、または免疫溶菌現象という。細菌の感染に対して好中球の貪食と並び重要な機構である。

副経路
 C3は一部の細菌に対しては抗体を介さず直接その表面に結合し、いきなりC3a、C3b活性化(→以下は古典経路と同じ)の経路をとる。この経路を副経路あるいは第2経路という。

…補体系は宿主細胞にきわめて強力な傷害作用を与える可能性がある。このことは活性化が強力に制御されていることを意味する。補体系は補体制御因子(補体制御タンパク質)によって制御されている。これらは血液の血漿に補体タンパク質以上に高濃度で含まれており、補体制御因子の中には、細胞が補体のターゲットとならないよう、細胞の膜表面に存在するものもある。CD59はMAC形成時にC9の重合を阻害する。CD46(MCP)はC3bとC4bを分解する。DAFはC3の活性化を阻止する。補体制御因子は、異種移植において注目されている。ブタにヒトの補体制御因子を組み込むことで、ブタからヒトへの臓器移植時の拒絶反応が軽減される。 

…補体系は他の免疫性要素とともに多くの病気の原因となっていると考えられている。例を挙げるとBarraquer-Simons症候群、喘息、紅斑性狼瘡、糸球体腎炎、様々な関節炎、自己免疫性心臓病、多発性硬化症、炎症性大腸炎、虚血再灌流障害等である。アルツハイマー病やその他の神経変性病態を示す中枢神経系の病気にも、補体系が関与しているのではないかという疑いは次第に高まっている。
 経路の最終段階のところの欠損によって自己免疫病と感染症の両方に罹りやすくなる場合もある(特にナイセリア髄膜炎ではC56789複合体がグラム陰性菌を攻撃する際の役割に原因があって)。
 補体制御因子のH因子と補体調節蛋白の突然変異は非典型的溶血性尿毒症症候群に関係がある。さらにH因子によく見られる単一ヌクレオチド多型(Y402H)は眼の習慣病の年齢に関連した黄斑変性症と相関がある。両病気とも、最近の知見では宿主の表面での補体の異常活性に原因がある。

感染症による変調
 最近の研究によってHIV/AIDSにおいて、補体系が操作され患者の身体にいっそうの傷害を与えていることが示唆されている。」

「オプソニン化(オプソニンか、opsonization)とは微生物などの抗原に抗体や補体が結合することにより抗原が食細胞に取り込まれやすくなる現象。オプソニン作用とも呼ばれる。食細胞に結合して食作用を受けやすくする血清因子をオプソニンと呼ぶ。オプソニンとして働く主な分子として、補体のC3bと抗体のIgG(免疫グロブリンG)があるが、一次感染では補体がオプソニン化の中心となり、すでに抗体ができあがっている二次感染ではIgGがオプソニン化の中心となる。 」

「膜侵襲複合体(まくしんしゅうふくごうたい、英:Membrane-Attack Complex :MAC)または終末補体複合体(しゅうまつほたいふくごうたい)、細胞膜傷害性複合体(さいぼうまくしょうがいせいふくごうたい)は、蛋白質から成る複合体。ふつう宿主の補体系の活性化により病原体の細胞膜表面、特にC3活性化部位の付近に形成され、標的細胞の細胞膜に膜貫通孔を導くことで脂質二重膜を破壊し、それらを溶菌や細胞死に至らせる免疫系の作用因子(エフェクター)として働く。」

「走化性(そうかせい、英:chemotaxis)とは、生物体(単一の細胞や多細胞の生物体を問わず、細胞や細菌など)の周囲に存在する特定の化学物質の濃度勾配に対して方向性を持った行動を起こす現象のことであり、化学走性(かがくそうせい)ともいう 」
…真核生物の化学走性機構は細菌のそれとはまったく異なっているが、化学物質の濃度勾配を感知することが決定的に重要である点は同様である。 
…受容体や細胞内シグナル伝達経路、効果器メカニズムの進化の違いが、すべて多様な真核生物の化学走性機構にかかわっている。真核単細胞生物ではアメーバ運動と繊毛(あるいは真核生物鞭毛)が主な効果器である(たとえばアメーバやテトラヒメナ)。より進化した脊椎動物由来の真核細胞の中にも、免疫細胞のように必要とされる場所へ移動するものがある。免疫担当細胞(顆粒球、単球、リンパ球)以外にも、従来は組織中に固定されていると考えられていた多くの細胞が特定の生理的(正常な)条件下(肥満細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞)や病理学的(病的な)条件下(転移など)で移動することがわかっている。 
…細菌の走化性とは対照的に、真核細胞が移動するメカニズムは解明が不十分である。外部からの走化性濃度勾配を感知する機構が存在するらしく、それが細胞内のホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)という物質の濃度勾配となり、シグナル伝達によって最終的にアクチンフィラメントの重合が起きる。アクチンフィラメントの+端(成長する側、アクチンの項を参照)は様々なペプチドを通じて細胞膜の内側と連結し、仮足を形成する。PIP3の産生がDOCK2と呼ばれるタンパク質の細胞膜への集積を起こし、さらにホスファチジン酸というリン脂質が産生されDOCK2と結合することで仮足形成が効率的に進むことが明らかになっている。 真核細胞の繊毛も化学走性を起こす。この場合は主にCa2+(カルシウムイオン)依存性に、基底小体と9+2構造の微小管からなるシステムが繊毛運動を誘導される。数百に及ぶ繊毛が、基底小体相互間に作られた細胞膜下のシステムによって協調運動を行うが、シグナル伝達経路の全容は未解明である。」

「仮足は、鞭毛や繊毛と並ぶ、原生生物の3つの移動様式の1つを担う。このような仮足による運動をアメーバ運動と呼ぶ。このとき細胞の運動方向を決定するものを主仮足、それ以外のものを副仮足(亜仮足)と呼び、副仮足はさらに長さに制限がない非限定仮足(indeterminate pseudopod)と長さが決まっている限定仮足(determinate pseudopod)とに区別される。
 多細胞動物においても、マクロファージやニューロンを始めとする遊走性細胞の多くは仮足によって運動する。創傷治癒の過程では成長因子の刺激を受けた繊維芽細胞が糸状仮足(フィロポディア、filopodium)を出して活性化し、損傷部位に移動して増殖することで傷を埋める。神経軸索や樹状突起の先端にある成長円錐からも、膜状仮足(または葉状仮足、ラメリポディア、lamellipodium)や糸状仮足が出て軸索伸長に関わっていると考えられている。ガン細胞の浸潤も膜状仮足の働きによることが知られている。
 また仮足によって固形物を包みこんで細胞内に取り入れる現象を食作用といい、様々な原生生物で見られるほか、多細胞生物でもマクロファージのような細胞が食作用を行う。」

3.コロナワクチンの「抗体依存性感染増強(ADE)」との関係
 補体系はその免疫反応が過剰になると、多くの病気の原因になるとも考えられています。例えば喘息、糸球体腎炎、様々な関節炎、多発性硬化症、炎症性大腸炎などです。またアルツハイマー病やその他の中枢神経系の病気にも、補体系が関与しているのではないかと見られているようです。
 さらに、今回のコロナワクチンでも補体による過剰な免疫反応により「抗体依存性感染増強(ADE)」になるのではないかと懸念されています。

「(2)サイトカインストーム(炎症反応)
 コロナ(スパイクタンパク質)抗体とコロナウイルス(スパイクタンパク質)が結合した抗原抗体複合体により、補体が活性化され抗体抗原複合体が攻撃されます。またこの抗原抗体複合体がマクロファージなどFc受容体をもっている細胞とさらに結合すると、サイトカインが過剰に分泌されて炎症反応を引き起こすことがあります。それが続くとサイトカインストームとなり次から次へと炎症が起こり、慢性炎症につながることもあるようです。慢性炎症になると、細胞が壊れて線維化していき、臓器は機能不全になるようです。」

 
  「…やっかいなことにコロナウイルスではACE2を介さずに感染するFc受容体依存性感染が起こり得ます。
 ウイルスに結合した抗体が、マクロファージなど免疫細胞の表面にあるFc受容体に結合すると、細胞内にウイルスが侵入します。免疫細胞がもつエンドサイトーシスという細胞外の物質を取り込む作用を利用しています。そうして取り込まれたウイルスが免疫細胞で増殖するとADEが起こります。
…スパイクタンパク質やウイルス、そして特異抗体(特定の抗原に特異的に結合する抗体)がたくさんあるとどのようなことが起きるかというと、抗体を介してスパイクタンパク質やウイルスが結合し合って、団子状態になります。これを抗原抗体複合体と呼びます。
 このようにして抗体と新型コロナウイルス(またはスパイクタンパク質)が集まった抗体抗原複合体が形成されると、そこに補体という物質が集まってきて補体自身が活性化されます。活性化した補体は抗原抗原複合体にある細胞膜に穴をあけて壊します。また、抗原抗体複合体がマクロファージなどFc受容体をもっている細胞と結合すると、サイトカインが過剰に分泌され、高熱や激しい炎症反応を起こすことがあります。最悪の場合、サイトカインストーム(サイトカインの大量産生による障害)を引き起こす可能性も出てきます。(『ウイルス学者の絶望』より引用終わり)」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする