世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

計画④

2018-06-26 04:12:45 | 風紋


アシメックは頭の中で工事方法を思い描いていた。いきなり水辺を掘ってはだめだ。水が流れてきて邪魔をする。野の方から掘って行って、最終的に、沼の岸に穴をあけて水を入れるのだ。それがいい。人員は何人いるか。

狩人組を貸してもいいとシュコックは言った。狩人組は今十七人ほどいるはずだが、全部は来るまい。気が乗らないやつもいるだろう。シュコックは狩人組の頭だが、全員がいつも彼の命令を聞かなければいけないというほどではなかった。

ネオは何とかなるだろう。セムドはトカムなら貸してもいいと言った。

アシメックは立ち上がり、村の方に戻った。そして広場を通り過ぎ、トカムの家に向かった。声をかけておこうと思ったのだ。

「いるか」
アシメックが言いながら、トカムの家の入口をくぐると、トカムは囲炉裏のそばで、茅を編んでいた。彼は今、干した茅草を編んで、帯を作っていた。鹿皮の腰布を抑えるための帯だ。そう器用ではないトカムは、そんな簡単な仕事でも、かなり苦労してやっていた。できあがる帯は歪んでいる。あまり人にほめてもらえるような品ではない。

「やあ、アシメック、なに?」
いきなり入ってきたアシメックに驚きながら、トカムは言った。しかしなんとなく用件はわかっていた。セムドから、ある程度の話は聞いていたからだ。

「話がある。実は……」
アシメックはトカムに、簡単にイタカに沼を広げる仕事の話をした。そして協力しないかと聞いてみた。
「鍬で土を掘るだけだ。石なんかも時々運ばねばならない。体があればできる仕事だ。やらないか」

トカムはアシメックの熱心な視線を受けながら、しばし戸惑って口ごもった。断る理由はない。ただでさえ、毎日暇を持て余しているのだ。
「お、おれなんかにできるかな……」
とトカムは苦しそうに言った。トカムにとっては、アシメックはまぶしすぎる存在なのだ。ろくに仕事もしていない自分にとって、毎日超人のように村を走り回って村のために仕事をしているアシメックは、あまりに遠いのだ。そのアシメックが、わざわざ自分の家に来て、仕事をしないかと言ってくれている。




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