「見込みはありそうだ。少なくとも川の上に家を建てるなんて話じゃない」
「もちろんさ」
「仕事をするとしたら夏だな。狩人組は少し暇になる。人員を貸してやってもいいよ」
「助かるな。やつらは体がいい」
岸に舟を近づけると、ヤテクとシュコックを先に下ろし、アシメックは舟をおさえながら自分も飛び降りた。そして櫓を岸に突き刺したあと、二人と一緒に稲舟を抱えあげた。舟はいつまでも水の上に置いておいてはいけないというのが、カシワナの常識だった。
舟を岸に上げる作業をしていると、その脇を、釣竿を持ったネオが通った。それに気づいたアシメックは、気さくに、「よう」とネオに声をかけた。
驚いたネオは、アシメックを振り向き、少し上ずった声で答えた。
「ああ、アシメック」
アシメックはかかえていた舟を岸に下ろすと、手をはらいながらネオに近づいてきた。
「テコラは元気か?」
「うん、元気だよ。もうだいぶしゃべるようになった」
「いいな。女はものをいうのが早いっていうからな。かわいいか」
「かわいい。おれのことは、ネオって呼ぶよ」
嬉しそうにそう言うと、ネオはアシメックに挨拶をしてそこを去ろうとした。魚を釣りにいかねばならないのだ。最近ではもう、それが彼の仕事のようになっていた。しかしそのネオの背中が、前よりも一段と太くなっているのを認めると、アシメックはふと思い出して、もう一度声をかけた。
「ネオ」
呼ばれてネオはまた振り向いた。
「なに?」
「男の仕事があれば、声をかけるって言ったことがあったな。おまえ、鍬は持てるか?」
それを聞くと、ネオは迷いもせずに、「持てる」と言った。本当はまだ鍬など持ったことはないのだが。
「よし、いいだろう。この夏に、イタカで男の仕事をする。おまえも協力しろ」
「わかった。やるよ」
ネオははっきりと答えた。アシメックはほほ笑んだ。
そしてネオは、釣竿の先を返すと、急に村の方に向かって走りだした。釣りはやめたのだ。家に帰って、鍬を探し、持ってみねばならない。ネオは村への道を走りながら思った。