その年の稲刈りも無事に行われた。不安はあったが、アシメックの指導のもと村の皆はきびきびと働き、オロソ沼の稲を収穫した。米も例年と同じくらいの収穫量があった。エルヅは稲蔵の中を歩き回り、壺の数を嬉しそうに数えていた。
収穫祭も楽しく行われた。アシメックはカシワナカの扮装をしてみなの前で踊りながら、何かが例年と違うことを感じていた。それが何なのかはわからない。だがそれは人間ではないということはなんとなくわかった。ヤルスベ族との間の心情のもつれはまだあったが、村の皆はそう心配はしていなかった。いつも通り、収穫を喜び、酒や歌を楽しんでいる。人間が変わっているのではない。変っているのは、そう、たぶん、世界なのだ。
何もしなくても、毎年オロソ沼には稲が繁る。当然のように収穫している。毎年のようにそれを神がくれる。もらえるのが当たり前だと思っていた。だがもしかしたら、それは違うのかもしれない。アシメックの心に、そういう思いが付きまとい始めていた。
やがてまた、ヤルスベ族から例年の交渉部隊が来た。ゴリンゴを中心に、四、五人の男たちがヤルスベから来て、鉄のナイフといくらかのほかの宝を見せ、米をくれと言った。それが前と違うのは、要求する米の量がずっと増えたことだ。
「三十は多い」
アシメックはゴリンゴの要求を聞いて驚いた。いつもより格段に大きい数字だが、彼が持ってきた交換用の宝は去年と同じくらいなのだ。
しかしゴリンゴは引き下がらなかった。アシメックが渋ると、途端にカルバハを持ち出し、彼女が村でどんな悪さをしているかという話をし始める。それを聞くと、カシワナ族の役男たちも何も言えなくなった。
カルバハはどんどんおかしくなっていた。村のものがどんなに諫めても、働こうとしない。毎日のように人に無体ないちゃもんをつけて、詫びの品をせしめようとするのだ。
結局、ぎりぎりに話を詰めて、二十九壺で話をつけた。ゴリンゴは不満がありそうだった。しかしそれ以上とられては、カシワナ族の食べる分が少なくなる。米はうまいだけではない。村のみんなの貴重な食糧なのだ。あまりとられては、カシワナが飢えてしまうかもしれない。