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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

暗雲③

2018-06-08 04:12:46 | 風紋


「釣りはおもしろいか」とアシメックは言った。
「うん、面白い」とネオはぼんやり答えた。冷汗が流れるのを感じた。胸がどきどきし始めた。
「結構釣ってるな。一人では食えない。誰かにやるのか」
「うん、モラにやるんだ」
「ほう、女にか」
「うん、テコラにもやるんだ」
「おお、おまえの娘だな」

ネオはアシメックが自分の娘のことを知っているのに、驚いた。自分がモラのところに転がりこんで、ずっと一緒に暮らしていることが、村のみんなに知れ渡っていることは、知っていたが。

「娘はかわいいか」とアシメックは聞いた。この変わった子供に、興味があったのだ。ネオは聞かれると、目を輝かせて答えた。
「うん、すっごくかわいい。モラが産んだおれの子供なんだ。もうはってるんだよ。おれが抱くとすごく喜ぶんだ」
「普通男は、赤ん坊にはあまり興味を持たないもんだが」
「うん、みんなそういうけど」
ネオは少し暗い顔をした。自分がテコラに夢中だということを、よくサリクやほかの男たちにからかわれるからだ。

「でもおれ、モラとテコラと一緒に暮らせないのは嫌なんだ。ずっと一緒にいたい。それって、だめなの?」
「だめじゃないさ」アシメックは笑って言った。「おまえがそうしたいならしたらいい。誰にも迷惑をかけないことなら、別にいいんだ」
アシメックがそう言ってくれたので、ネオは顔を明るくして笑った。そしてまた釣り糸の先に目をやった。




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