交渉は長引いた。エルヅはどう計算しても、十八壺以上は無理だと言った。それ以上やるとカシワナ族の食べる分が少なくなりすぎる。しかしそれだけではヤルスベ族は満足しなかった。
互に要求を戦わした上、最後はアシメックが決断した。足りない分は、自分と役男たちに我慢させればいい。最終的に、二十壺をヤルスベ族に渡すことで、交渉は成立した。
「では、明日にでも、約束を果たしにもらいに来る」
そう言って、ゴリンゴは舟に乗って帰っていった。その後ろ姿を、悔しそうに役男たちが見ていた。アシメックはゴリンゴの背中に、これだけではすまなそうな何かを感じていた。
空を見ると、高いところを鷲が舞っている。まるで神が空から自分を見ているようだ、とアシメックは思った。このことはたぶんこれだけでは終わらないだろう。なんとかせねばならない。だが、どうすればいいのか。
村のみなが家に帰り、ケセンの川岸に誰もいなくなっても、アシメックはまだそこに立ち、空の鷲を見上げていた。