世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ティルチェレ物語 13

2013-10-25 04:26:26 | 薔薇のオルゴール
12 どんぐりの雨

 ヨーミス君とノーラさんは、ティルチェレ村行きの列車に乗っていた。ヨーミス君はうなだれている。実は、あのビル登りの騒ぎのあと、ヨーミス君は警察につかまって、こってりとしぼられたのだ。次の日に、身元引受人として、ノーラさんが警察に来てくれた。それでヨーミス君は解放されて、村に戻る途中なのだが、町を騒がせてしまったことを、とても反省していた。

 結局は馬鹿なことをやっただけで、ファンタンのために何もできなかったと思うと、涙が出て来た。そんなヨーミス君を見て、ノーラさんが言った。
「そんなにしょげないで。あなたがみんなのために、がんばってくれたのは、わかっているから」
 そう言われると、少し気持ちが明るくなってきたヨーミス君である。村の人の暖かさを思うと、自分は幸せだなと思った。両親もいない、身よりもいない自分を、こんなにも大切に思ってくれるのだ。

 帰ったら、ファンタンを助けるために、また新しい方法を考えよう、とヨーミス君は思った。そして、列車がティルチェレ駅についた。列車から駅に降りた時、ヨーミス君はこの村に初めて来た時のことを思い出した。不安でいっぱいだった。ひとりで淋しかった。でも空を見て、思った。いつか、ツユクサ色の屋根の家を建てよう。おとうさんとおかあさんがいる空から見える、青い屋根の家を。そう思ってあの時、ヨーミス君は明るく笑い、郵便局に向かったのだ。

 そうして、ヨーミス君が、ノーラさんと一緒に、駅舎を出た時だ。ふと、涼しくて気持ちのいい風が吹いてきたかと思うと、雨のように、どんぐりが降ってきた。ヨーミス君はびっくりした。ノーラさんもびっくりした。駅の前の広場に、ぱらぱらと、たくさんの金色のどんぐりが降ってきたのだ。ヨーミス君は叫んだ。

「ファンタンが、帰ってきた!!」

 (つづく)



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