世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ティルチェレ物語 6

2013-10-18 04:54:37 | 薔薇のオルゴール
5 村長さんとお医者さん

 ある日ヨーミス君は、ティルチェレ村の村長さんの所に、書留を届けに言った。すると、村長さんはちょうど友人とお茶を飲んでいたところだと言って、ヨーミス君をお茶に誘った。村の風習で、仕事の途中でも、お茶に誘われたら、一杯は飲まなければならないことになっていることを、ヨーミス君はもう知っていたので、快くお茶をいただくことにした。

 中に案内されると、前に会ったことのある村の医師のティペンスさんがいた。ヨーミス君はティペンスさんに挨拶すると、だされたお茶を用心しながら飲んだ。首には、クリステラさんからもらったお守りを下げている。それを見て、ティペンスさんはからかった。

「用心しなくても、彼女のお守りはてきめんだよ。僕も昔は毎日のようにどんぐりを飲まされたが、彼女が小屋に住みこんで、ファンタンの世話をするようになってから、ファンタンのいたずらもだいぶ少なくなったよ」
「あの人は、だいぶ前からあそこに住んでいるんですか?」
「うん、10年ほど前からかな。若い頃に村から出て、都会で働いていたんだが、なんだかつらいことがあったそうで、ひとりで村に戻ってきたんだよ。もう実家はなかったからね、ファンタンの世話小屋に住みついて、ずっとファンタンの世話をしているんだよ」

 ティペンスさんやタッペル村長の話はとてもおもしろくて、ヨーミス君はつい話に聞き入ってしまった。特にタッペルさんは、湖の岸辺に作った、別荘地の構想について、熱っぽく語った。

「ここは山や森や湖がきれいだからねえ。観光客を増やしたいんだ。すると村に勢いが出てくるからねえ。村の産業ときたら、果樹と、豆と、湖でとれる魚と、そんなもんだ。暮らしは悪くないがね、貧乏な人がいる。観光地として売って、なんとか働き口を増やしたいねえ」

 タッペル村長は、湖岸に別荘を何軒か作って、売り出しているのだそうだが、まだ一つも売れていないのだそうだった。それで、村で一番頭のいいティペンスさんと話し合って、お茶を飲みながらいろいろと策を練っていたのだそうである。それでヨーミス君にも、何かおもしろい案はないかと、たずねる村長であった。

 ヨーミス君は何も思い浮かばなかったが、ティルチェレ村に来て、一番おもしろかったのは、ファンタンと出会ったことだったと言った。ファンタンときたら、ヨーミス君がお守りを首にかけるのを忘れると、必ずヨーミス君にどんぐりをぶつけてくるのだ。姿も見えないのに、ファンタンがいることが気配でわかるときがあって、ヨーミス君は、なんだかとてもうれしい気持ちがするという。怖くなんかない。何だか、いたずらをするけれど、とってもやさしい見えない人が、そばにいるという感じがして、気持ちがいいんだそうだ。身よりのないヨーミス君にとっては、ファンタンが家族のように思えるときもある。

 ティペンスさんが言った。
「ほう、おもしろいね。よそから来た人で、ファンタンのことがそんなにわかる人は、いないよ」
「そうですか」
「ああ、わたしたちは、子どもの頃からのつきあいだから、ファンタンのことは、いろいろ知ってるけどね」

 ティペンスさんは、ファンタンについてのいろいろな話を教えてくれた。昔、中世の時代、国に戦争があって、村が外国の兵隊に襲われそうになったとき、ファンタンが敵の首領のお茶にとびっきり大きいドングリを入れて、その首領がドングリを喉に詰まらせて死んでしまったので、村が助かったという話もあるそうだ。

 そんな話をしているうちに、タッペル村長が、はたと手を打った。
「そうだ、いいことを思いついたぞ」
 だが村長は何を思いついたのかは、二人に言わなかった。

 ヨーミス君はお茶を飲み終えると、村長さんの家を出て、仕事に戻った。

(つづく)



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