世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ティルチェレ物語 3

2013-10-15 04:30:16 | 薔薇のオルゴール
2 果樹園のお茶会

 ティルチェレ村郵便局に無事に雇われたヨーミス君は、郵便局の二階に住みこんで働くことになった。前の配達人との引き継ぎも無事に終わり、だんだんと郵便配達の仕事にも慣れてきた。
 さてそんなある日、ヨーミス君は村にある大きな果樹園の主の家に、書留を届けにいった。するとそこの奥さんであるエシカおばさんが、新しい郵便配達人が来たのを喜んで、どうしてもお茶を飲んで行けと言う。

「ちょうどお茶会を開いていたところなの。村長さんも来てるから、紹介してあげるわ」
 仕事の途中だからと断っても、エシカさんは聞かない。ティルチェレ村では仕事の途中でお茶会に参加するなど、当たり前のことだというのだ。ヨーミスくんは半ば無理矢理家に引っ張り込まれた。
 そこでヨーミス君は村長のタッペル氏と、村の医師のティペンス氏と知り合う。ふたりはヨーミス君の村への移住をことのほか喜んでくれた。

 ヨーミス君は恐縮しつつ、エシカさんからいただいたお茶を飲む。するとまた、お茶にドングリが入っていて、思わずお茶を吹き出してしまう。驚いたエシカさんが言う。
「あら、お守りの効き目がきれたのかしら?」
 エシカさんはテーブルの真ん中に置いてある、小さな守り袋のようなものをとり、少しその匂いをかいだ。ヨーミス君が、それは何なのかとたずねると、エシカさんは教えてくれた。

「これはね、ファンタンのいたずらよけのお守りなの。ファンタンていうのはね、村の西にある椎の木の森に住んでいる妖精でね、果樹園のりんごを守ってくれたり、湖で魚がたくさんとれるようにしてくれる、とてもよい妖精なんだけど、時々、お茶にどんぐりを入れていたずらするのよ」

 ヨーミス君は驚いた。そんな妖精の話なんて聞いたこともない。エシカさんはいろいろと教えてくれた。

「ファンタンがお茶にどんぐりを入れるのは、ファンタンが気に入った人に決まっているの。あなたは、そうとう、ファンタンに気に入られてるみたいよ」

 話しを聞いているうちに、ヨーミス君は、椎の木の森に行ってみたくなった。そこには、遠い遠い昔からある、石組の小さな祠があって、ファンタンはいつもはそこに住んでいるというのだ。

 お茶会で、しばし会話を楽しんだあと、配らなければならない郵便がまだあるのでと挨拶して、ヨーミス君はエシカさんの家を出るのだが、出口のところで、みすぼらしい老女と出会いがしらにぶつかりそうになる。
「おやまあ、クリステラ」とエシカさんが、その老女によびかける。「ヨーミス君は、よほどファンタンに気にいられているみたいね、紹介するわ」

 ヨーミス君はこうして、森にあるファンタンの祠の管理小屋に一人で住んでいる、クリステラと知り合う。クリステラは不思議なおばあさんで、真っ白な髪を少女のように長く伸ばしている。若いころは相当な美人だったような顔だ。手には、大きな缶にヒモを付けたバケツのようなものを下げ、その中には、端切れを縫い合わせて作ったお守りがいっぱい入っていた。

 エシカさんは、クリステラから、新しいお守りをもらうと、そのお返しと言って、果樹園のりんごでつくったジャムと、古着をいくつか入れた袋を渡していた。クリステラはこうして、ファンタンのいたずらよけのお守りを作って、みんなに配って暮らしているのだそうだ。

(つづく)



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