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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ティルチェレ物語 2

2013-10-14 03:53:17 | 薔薇のオルゴール
1 ヨーミス君登場

 ティルチェレ村は山と森と湖に囲まれた小さな村だ。どれくらい小さいかというと、郵便配達人がひとりで間に合うほど、小さな村なのだ。
 だが、村には坂道が多く、年をとった配達人がもう仕事ができなくなり、仕事をやめることになった。そこで、郵便局長のノーラさんは、「ティルチェレ村郵便局配達人募集」という広告を新聞に出した。その広告を見て、ふたりの若者が申しこんで来たので、ノーラさんは面接をすることになった。

 一人目の若者は、ビル・トッケという若者だった。太り気味で汗っかきの25歳の青年だ。前の仕事を辞めてから一年以上たつので、焦っていた。いくらも面接をこなしてきたのだが、まだ仕事が決まっていない。トッケ君は、ノーラ局長の質問にてきぱきと模範的な態度で答えた。面接は満点だ。ノーラ局長が出してくれたお茶を一口飲んで、安心したトッケ君。ここなら決まるかなと思いつつ、面接室を出る。ノーラ局長は「次の人」と言った。

 次の若者は、ヨーミス・ティケ君という細身の子どものような顔をした青年だった。折り畳み式の小さな自転車を持っている。話を聞くと、父親の形見だと言う。ヨーミス君の父親は、自転車の曲乗りや、ビル登りを得意とする曲芸師だった。ヨーミス君は、父親と一緒に、芸をして稼ぎながら各地を旅していたが、父親が急な病で亡くなり、自分だけでは芸で稼げないので、この郵便局の配達人募集に応募してきたのだという。

「体力には自信があります。自転車坂道なんのその。得意はビル登り。5階建てくらいのビルなら、素手で登れますよ」
「なるほど、身は軽そうね。若いから坂道も楽にのぼれそう。わたしは良いと思うわ。でもね、この仕事は、わたしだけでは決められないのよ」
 ノーラさんは不思議なことを言った。ヨーミス君は丸い目をきょとんとして、首をかしげた。手は、ノーラさんが出してくれたお茶に伸びる。

「むぐ!」とヨーミス君はびっくりしてお茶をこぼした。なんと、お茶の中にどんぐりが入っていたのだ。どんぐりを飲み込みそうになって思わずお茶を吹き出してしまい、ズボンを濡らしてあわてて立ち上がるヨーミス君。それを見てノーラさんは大笑いした。

「決まり! あなたに決まりですよ!」とノーラ局長は言った。ヨーミス君は、わけがわからず、ドングリ眼で、局長を見ていた。

「ここに住む人はね、ファンタンに気に入られたひとじゃないと、だめなのよ」
と、笑いながらノーラさんは言った。

(つづく)




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