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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ティルチェレ物語 12

2013-10-24 03:25:58 | 薔薇のオルゴール
11 トッケ君の憂鬱

 ビル・トッケ君は、ため息をついていた。手には、「残念ながら不採用」というある会社からの手紙が握られていた。トッケ君はまた就職に失敗したのだ。

 前の会社をやめてから、もう何年もたつ。親類の雑貨店を手伝って、少しはバイト料をもらっているけれど、どこかの会社に就職しなきゃ、お嫁さんももらえない。一緒に住んでいる両親はいつも、早く就職しろとせっつくし、妹には、無職のさぼり野郎と、毎日のようにからかわれる。

 就職情報誌を7冊も買いこんで読みながら、今日も汗をかきつつ、うなっているトッケ君なのだ。そんなトッケ君が、仕事探しにもちょっと疲れて、何気なくテレビをつけたときだ。テレビからさわがしいアナウンサーの声が聞こえてきた。画面には、ビルに登っているヘンな男の映像が映っている。

「なんだ、バカな野郎がいるもんだな」とトッケ君は言いながらも、テレビを見つめた。アナウンサーは、ビル登りの男がばらまいたビラの説明をしていた。

「変なビラですねえ。妖精を助けるために、ベックの本に四角を書けと書いてあるのですよ」
「ベックというと、あの最新作が大変売れていますね」
「外国でも有名な作家です」

 テレビからの声に、トッケ君はふと心をひかれた。
「ふうん、四角ねえ」
 トッケ君は、妹がベックの大ファンなのを思い出した。たしか新作も、本屋に予約して買っていたはずだ。トッケ君は、何となく、いつも自分をからかう妹に復讐してみたくなって、妹の留守の部屋に忍び込んだ。そして、件のベックの新刊本を取り出し、最後のページにペンで四角を書いてみたのである。

 そのときだった。トッケくんはいきなり本からあつい風が吹いてくるのを感じた。あっという間もなく、何か大きなものが自分の顔にぶつかって、トッケ君はもんどりうって床に倒れ、気を失った。

 しばらくしてトッケ君は目を覚ましたが、そのとき、自分の周りにたくさんどんぐりが落ちているのに気付いた。トッケ君には何が何やらわからなかった。

 あるビルメンテナンスの会社に就職が決まり、トッケ君が大喜びしたのは、それから十日後のことだったそうだ。

(つづく)



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