11 トッケ君の憂鬱
ビル・トッケ君は、ため息をついていた。手には、「残念ながら不採用」というある会社からの手紙が握られていた。トッケ君はまた就職に失敗したのだ。
前の会社をやめてから、もう何年もたつ。親類の雑貨店を手伝って、少しはバイト料をもらっているけれど、どこかの会社に就職しなきゃ、お嫁さんももらえない。一緒に住んでいる両親はいつも、早く就職しろとせっつくし、妹には、無職のさぼり野郎と、毎日のようにからかわれる。
就職情報誌を7冊も買いこんで読みながら、今日も汗をかきつつ、うなっているトッケ君なのだ。そんなトッケ君が、仕事探しにもちょっと疲れて、何気なくテレビをつけたときだ。テレビからさわがしいアナウンサーの声が聞こえてきた。画面には、ビルに登っているヘンな男の映像が映っている。
「なんだ、バカな野郎がいるもんだな」とトッケ君は言いながらも、テレビを見つめた。アナウンサーは、ビル登りの男がばらまいたビラの説明をしていた。
「変なビラですねえ。妖精を助けるために、ベックの本に四角を書けと書いてあるのですよ」
「ベックというと、あの最新作が大変売れていますね」
「外国でも有名な作家です」
テレビからの声に、トッケ君はふと心をひかれた。
「ふうん、四角ねえ」
トッケ君は、妹がベックの大ファンなのを思い出した。たしか新作も、本屋に予約して買っていたはずだ。トッケ君は、何となく、いつも自分をからかう妹に復讐してみたくなって、妹の留守の部屋に忍び込んだ。そして、件のベックの新刊本を取り出し、最後のページにペンで四角を書いてみたのである。
そのときだった。トッケくんはいきなり本からあつい風が吹いてくるのを感じた。あっという間もなく、何か大きなものが自分の顔にぶつかって、トッケ君はもんどりうって床に倒れ、気を失った。
しばらくしてトッケ君は目を覚ましたが、そのとき、自分の周りにたくさんどんぐりが落ちているのに気付いた。トッケ君には何が何やらわからなかった。
あるビルメンテナンスの会社に就職が決まり、トッケ君が大喜びしたのは、それから十日後のことだったそうだ。
(つづく)
ビル・トッケ君は、ため息をついていた。手には、「残念ながら不採用」というある会社からの手紙が握られていた。トッケ君はまた就職に失敗したのだ。
前の会社をやめてから、もう何年もたつ。親類の雑貨店を手伝って、少しはバイト料をもらっているけれど、どこかの会社に就職しなきゃ、お嫁さんももらえない。一緒に住んでいる両親はいつも、早く就職しろとせっつくし、妹には、無職のさぼり野郎と、毎日のようにからかわれる。
就職情報誌を7冊も買いこんで読みながら、今日も汗をかきつつ、うなっているトッケ君なのだ。そんなトッケ君が、仕事探しにもちょっと疲れて、何気なくテレビをつけたときだ。テレビからさわがしいアナウンサーの声が聞こえてきた。画面には、ビルに登っているヘンな男の映像が映っている。
「なんだ、バカな野郎がいるもんだな」とトッケ君は言いながらも、テレビを見つめた。アナウンサーは、ビル登りの男がばらまいたビラの説明をしていた。
「変なビラですねえ。妖精を助けるために、ベックの本に四角を書けと書いてあるのですよ」
「ベックというと、あの最新作が大変売れていますね」
「外国でも有名な作家です」
テレビからの声に、トッケ君はふと心をひかれた。
「ふうん、四角ねえ」
トッケ君は、妹がベックの大ファンなのを思い出した。たしか新作も、本屋に予約して買っていたはずだ。トッケ君は、何となく、いつも自分をからかう妹に復讐してみたくなって、妹の留守の部屋に忍び込んだ。そして、件のベックの新刊本を取り出し、最後のページにペンで四角を書いてみたのである。
そのときだった。トッケくんはいきなり本からあつい風が吹いてくるのを感じた。あっという間もなく、何か大きなものが自分の顔にぶつかって、トッケ君はもんどりうって床に倒れ、気を失った。
しばらくしてトッケ君は目を覚ましたが、そのとき、自分の周りにたくさんどんぐりが落ちているのに気付いた。トッケ君には何が何やらわからなかった。
あるビルメンテナンスの会社に就職が決まり、トッケ君が大喜びしたのは、それから十日後のことだったそうだ。
(つづく)