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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ティルチェレ物語 4

2013-10-16 04:27:18 | 薔薇のオルゴール
3 牧師さんの憂鬱

 ティルチェレ村にも、小さな教会がある。そこには、何年か前に村に来た牧師さんが住んでいる。

 だが、牧師のグスタフは悩んでいた。村人は、日曜のミサには通ってくれるし、結婚式やお葬式は教会でするのだが、村に古くから伝わる、奇妙な妖精信仰を決して捨てないからだ。日常生活で何か問題が起こると、村人は、教会に相談するよりも、西の椎の木の森のファンタンの祠に相談しにいくのである。

 敬虔なキリスト教徒であり、イエス様を深く愛しているグスタフは、キリスト教以前からあるような、古い形の信仰が村にあるのが、村人の心に悪影響を及ぼすのではないかと、案じているのである。

 そこでグスタフは今日も、西の森のファンタンの祠に向かう。祠の近くには、小さな小屋があって、そこには祠と森の管理人である、クリステラが住んでいた。

 グスタフが小屋を訪ねると、クリステラは村人からもらった端切れを縫い合わせて、お守り袋を作っているところであった。クリステラは、布で小さな袋をつくり、それに、椎の木の森で一番大きな椎の木からとれるドングリをつめて、お守り袋を作っているのだ。クリステラがつくるお守りを持っている人は、ファンタンのいたずらから逃れることができるのである。

 グスタフには、少し気にしていることがあった。ファンタンは、自分の気に入った人が、お茶やコーヒーやジュースを飲むとき、その飲み物にドングリを入れるといういたずらを時々するのだが、村人は誰も一度はそのいたずらに驚かされたことがあるのに、自分だけは一度もそれを経験したことがなかったからだ。それは彼がファンタンに気に入られていないということで、そのせいで村人はなんとなく、グスタフを避けているような風があるのである。

 グスタフは、クリステラを訪ねると、彼女に、こんな暮らしはやめて、町の施設に入らないかと、いつもいうことを言った。クリステラは話を聞こうともせず、癇癪を起して、グスタフを追い出した。
「出てってよ! あんたなんて何もわかってないんだから!」
 小屋から追い出されたグスタフは、ため息をつく。ここの村人はなんて馬鹿なんだろう。イエス様の愛がわからないなんて。

 森からの帰り道、グスタフはヨーミス君に出会う。ヨーミス君は明るくグスタフに挨拶をするが、そのとたん、自転車がどんぐりにつまずいて転んだ。

 おやまあ。彼はよほどファンタンに気に入られているらしい。今日はこれで3回目だと言った。それでヨーミス君は、クリステラのところにお守り袋をもらいにいく途中なのであった。

 二言三言挨拶をかわして、ヨーミス君はグスタフと別れる。ヨーミス君の後ろ姿を見守りながら、グスタフは、こうして妖精信仰が新しい住民にまでしみ込んでいくのを、苦々しく思うのであった。

(つづく)



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