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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

觚ならんや

2008-03-28 12:42:22 | てんこの論語

觚、觚ならず。觚ならんや。觚ならんや。(雍也)

觚も、觚ではなくなった。あれが觚であろうか。觚であろうか。



觚(こ)とは、角のついた杯のことです。たぶん、昔は、角のついた杯のことを觚といったのですが、時代の流れからいろいろな形のものがでてきて、それらをすべて、人々は觚とよんだのでしょう。そういうことはよくあることですが、もちろん孔子がなげいたのは、觚のことではありませんでした。

この觚ということばに、ほかの言葉を入れてみたら、わかる。たとえば、

人も、人ではなくなった。あれが人であろうか。

男も、男ではなくなった。あれが男であろうか。

時代が、安易な方向に流れ、人々が本質を忘れていき、大切なものが嘘になってゆく。すべての人が、本来の自分を忘れ、幻のようにおかしなものになってゆく。自分は、昔、こんなものではなかったはずだが、いろいろとやっていくうちに、なんだかよくわからなくなってきて、まるで変なことをするようになってしまった。

人間とは、なんだったのだろう? 男とは、女とはなんだったんだろう。わたしとは、どんなものであったか。わからなくなり、はてしない虚空にあるかのような喪失感をごまかすために、あらゆる嘘を何もかもに塗りたくる。

あ ま り に も く る し い

なにもない。あ ま り に も 、馬鹿だ。これは。

觚ならぬ觚の苦しみは、角を失ったことではなく、觚ではないものになってしまったことです。觚は觚以外のものになりたかった。なぜなら、觚がいやだったからだ。小さくて、酒を注ぐしか能がない。そんなものよりは、鉄の剣のように美しく強くなりたかった。月のように高く超えたものになりたかった。そのために觚はあらゆる嘘を吐き出し始める。鉄の剣となるために、自分とそれの間にあって邪魔するものを、すべて馬鹿にして、つぶした。

そして世にも奇妙な剣となった。剣となった觚は、本当は何も切れないことをごまかすために、永遠に嘘を重ねなくてはいけなくなる。すべてが崩れてしまうまで、それをやらねばならなくなる。苦しいのは、それが当たり前となってしまったことだ。

嘘が本当になってしまった。そして、すべての存在が、なくてもいい馬鹿なものになった。あらゆるものが、酸の沼のような虚無感の中でのたうち苦しむ。こんな自分など、ないものになってしまえばいい。でもそれはいやだ。苦しい。くるしい・・・

馬鹿なことだ。答えは簡単なのだ。
觚は、觚なのだ。酒をくめ。自分の器いっぱいに、酒をくめ。何もないのではない。忘れていたのだ。本当の自分を。

わたしは、ひとつの觚だ。今、できることがある。

本当の自分は、当たり前に自分ができることを、自分でやる。そういうものだ。





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