球形ダイスの目

90%の空想と10%の事実

馳走を啄く烏の焦り

2008-05-08 | たぶん難解な話
別に難解ではないけれど、小噺のためこのカテゴリで。



ある所に白い烏がいた。
彼は一つの森に気を留め、その森のことを一通り知りたいと考えた。
あまり時間はない。どうしようかな。頭をひねる。

森には4つのランドマークがあり、9つくらい目立つ木が立っており、
他は…数えたくもないような雑多な植物の類。

彼はまず4つのランドマークを回った。
そこで彼はまず森を知った気分になった。
さすがにそれだけでは知識として浅いので、
目立つ木のうち針葉樹に類するものを見てみることにした。
正確には何本分見たか憶えていない。

別の日、烏は仲間にその森のことを話した。
しかし、周りの反応は彼の予想とは異なり、
いかに雑多な植物に目を向けるかが議論の中心になった。
彼は不快な気持ちになった。彼の体は、以前よりやや灰色を帯びだした。

次に彼は目立つ木の中で以前見ていないと思われるものと
雑多な植物のうちの左半分を眺めてみることにした。

別の日、烏は仲間にその森のことを話した。
しかし、周りの反応は意外にも冷ややかで、
いかに雑多な植物まで完璧に把握するかが議論の中心になった。
彼はだんだん面倒な気分になってきた。
彼の体は、以前とは比較にならないほど黒ずみ、
瞳の色との差がなくなっていた。でも、そのことは特に気にはならない。
…重要なことは自分の体の色ではないんだ、体の色ではないんだよ。

次に彼は雑多な植物のうちまだ見ていないと思われるものを眺めた。

また別の日、烏は仲間にその森のことを話した。
仲間は言った。"ねぇ、今度こそ全部を回ってきた?"
…彼は答えられなかった。
大体全部見たような気がするが、雑多な植物をくまなく見たかどうかは自信がない。
"ねぇ、それならまた全部見てきてよ。"
仲間は言った。彼は苛立ちを覚えた。何を言ってるんだろうコイツは。

そんなの、俺にはどうだっていいことなんだけど…
だから、わざわざ全部なんて見に行ったりしない。
地図でも描いて、一つ一つ塗りつぶしていけってか?
いや、うっかりそんなこと訊いたら、"当たり前じゃん"って言うんだろうな。
黙っているに限るか…



烏は思い悩む。
森の把握の仕方は彼なりのベストであったことは間違いない。
しかし、仲間は反応はそうではなかった。
彼には何が欠けていたのだろうか… ごっそりと?

フローリングを拭き掃除するように空を統べるなんて、彼には似合わない。
だから、考えてみて欲しいのだ。
彼の失敗は何か、ということを。

コメント
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