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もっきぃの映画館でみよう(もっきぃの映画館で見よう)

年間100本の劇場鑑賞、音声ガイドもやってました。そんな話題をきままに書きます。ネタバレもありますのでご注意を。

映画原作本「生きてみたい、もう一度 新宿バス放火事件」 これは運命なのか?

2008-10-26 18:42:25 | その他(邦画)
著者:杉原美津子 文春文庫

【引用始まり】
 マイクが番号を呼ぶ。自分の番号を見直す。
 呼ばれた番号の主は一目散に奥の廊下を走っていく。廊下を蹴った靴音が反響音を
曳いていく。
 沈黙。静寂。
 マイクが二つ、三つ続けて番号を呼ぶ。靴音が乱れた廊下を蹴っていく。
入れ違いに、面会を終えた靴音が、ゆっくりと戻ってくる。
【引用終わり】

なんと映画的な。映画の一シーンにしたくなるような表現なことか。
これは新宿西口バス放火事件で全身に火傷をおった著者が、放火した犯人に
会いに行ったときの描写である。最近、16人の命が奪われたビデオ店放火事件が
大阪・難波で起こり、私と同じ年代、同じ電機業界ということもあるだけに
少なからずショックを受けた。それでブックオフでなんとなくみていたらこの本に
でくわして購入。この手の本はそんなに売れないと思っていたらベストセラーで
映画化されたということに驚く。

<新宿西口バス放火事件>
1980年8月19日。夜の9時に新宿駅西口のバスターミナルに停車中のバス後部ドアから

火のついた新聞紙とガソリンの入ったバケツが投げ込まれ一瞬にして火の海に。
6名死亡14名重軽傷。

本書では、冒頭陳述書が掲載されているが、6名死亡のうち3名はその場で死亡。
あとの3名は車外に脱出したものの8/23,10/16,11/21と日をおいてなくなられている。
火に直接焼かれたという悲惨さを物語っている。このほかに重傷が5名。
著者は重傷者のひとり。全身の80%の火傷を負い、約1年入院。事件から6年後の
文庫版のあとがきでは、
『肉体の痛みは信じられないほどほとんど消えました。ケロイドも見慣れました。』
『肉体の回復とは逆行して、私の内側は、事件のあの夜へ、あの炎へ、引き戻される
ばかりです。』と書いている。

犯人、丸山博文は、現場で通行人に取り押さえられる。
「被告人は心神耗弱状態にあった」として無期懲役の判決を受ける。
(一審、二審とも)
1997年千葉刑務所で首吊り自殺。


<本>
この手の事件ものを読むたび、なんという運命かと思う。
もし、あの時あのバスに・・・。
特に、今回の事件に関して言えば、著者が何度も指摘しているのであるが、
なぜあのときバスの降車口ドアが開いていたのか?このことに関して、
加害者丸山博文が著者へ書いた手紙のなかに気になることばがでてくる。
『バスにおきゃくさんが のっているとは おもわなかったし めが はっきり
みえなくて ほんとにすまないことおしました 大ぜいがなくなり おわびの
しよが ございません ほんとうに すまない』
この文面をそのまま受け取ってよいものかとも思うが、加害者は乗客がいるとは
思わなかったと言っている。また、報道によれば『自分は家庭が複雑で、
世間の人が幸福に見えた。人がアッと驚くことをしてやろうと思って火をつけた』
と動機をかたっており、そのための準備もしているが、殺すのが目的で
あったとの記述はどこにもない。これと先程の降車口ドアが微妙につながる。

私のイメージでしかないが、バスは新宿駅西口が始発で終点。到着したバスはお客を
降ろして、次のお客を乗せる。犯人としても、できれば捕まることなく犯行のあとは
逃げたいだろう。客のいないときのバスを狙うとしたら、到着してお客が降りて、
次のお客が乗る前のところを狙うことになる。バスの背後から近づき、火をつけて
新聞を投げ込み、ガソリンを投げ入れる。できるだけ早く行い早く立ち去りたい。
そう思うのではないだろうか?降車側ドアというのは人が降りたら短時間で閉じるもの
との思い込みがあれば人が降りてきていなければ、
『おきゃくさんが のっているとは おもわなかった』というのも本当かもしれない
と思う。実際死亡被害者6名を見る限り、降りる前で被害にあったものはいない。
乗ったころで被害にあっている。
・プロ野球観戦後に最後部座席に着席した親子。
・都内に勤務後、帰途についた人2名。
・勤務後に新宿駅で待ち合わせて帰途についてた人2名。

犯人を弁護するつもりはないが、新宿駅西口が終着駅で、全員降車後に車内に
降り遅れた人がいないことを確かめて降車側ドアを閉めて、乗車側ドアを
開けていれば、事態は全く異なった展開になっていただろう。降車側ドアを閉める
というある意味、些細な行為が、運命の鍵を握っていたということか。
これが私がこの本で一番印象に残ったことである。

本の内容は大きく4つ。
・闘病生活
・事件そのもの
・著者の不倫
・犯人のこと

著者は、編集プロダクション勤務ということで、かなり文章を書いている人のもの
という感じ。手記ということで全体のながれはスムーズではないが、社会的にも
大きな衝撃を与えた事件であり、不倫あり、犯人へのアプローチありと盛りだくさん。
そして事件発生から死線をさまよっていたであろう期間も含めて、断片的ながら
生き生きとした感覚で、苦悩と生命力が伝わってくる。

<映画『生きてみたいもう一度 新宿バス放火事件』1985年東映126分>
残念ながら見ておりません。20年以上前の映画ということもあり、いまのそれぞれの
俳優さんのイメージとはかなりギャップがありますがはたして映画ではしっくりと
くるものなのか?見てみたい気がします。主人公の桃井かおりは、丸坊主になって
演じたとか?どこかで読みました。被害者が犯人をうらまないという意外性と、
桃井かおりの異彩を放つ感性がうまくマッチするのでしょうか?

キャストごとに、本で書いてあったなかから印象に残る場面、セリフを
あてはめてみました。
---桃井かおり モモイカオリ 1952 (石井美津子): 主人公。事件の被害者。
『ひとりの人間の犯す間違いは、たった一人で為し得るものだろうか?』と問い。
『(犯人を)うらんだりにくんだりしてきませんでした。』と犯人に手紙を書く。
---石橋蓮司 イシバシレンジ 1941 (杉原荘六) :主人公の当時の不倫相手。
勤務先の編集プロダクション社長でもある。主人公退院前に妻は急死。
その一ヶ月後『ぼくのところにおいで』と主人公に言う。
---初井言栄 ハツイコトエ 1929(石井なお子) :たぶん主人公のお母さん。
事件後最初の植皮手術のとき『万が一の場合にも病院側に責任はない』との手術承諾書
を拒否。
『死んだでしまったら病院をうらんでやる!殺したんだと言ってやる』と半狂乱に。
署名をした妹に『死んだら、あなたのせい!』と激しい言葉を浴びせる。
---高沢順子 タカザワジュンコ 1955 (石井敏子) :たぶん主人公の妹。
最初に入った救急病院から転院するさい
『救急車にいっぺん乗ってみたかったの』と言う。
これを著者は『かわいい言葉』と表現。
---岸部一徳 キシベイットク 1947(石井義治) :プロのカメラマン。
妹がバスに乗っているとも知らずに燃え上がるバスの写真を撮影。
読売新聞に掲載される。その後報道写真家を止めるきっかけとなる。
---佐藤慶 サトウケイ 1928(中島研郎) :転院先の医師。
『転院元の病院の応急処置は完璧で、転院によっていかなる事態を招いたとしても
その責任を負う』との書面に捺印。
『病人を助けるのが先決。医師の仕事です。』と言う。
---原田大二郎 ハラダダイジロウ 1944(斉藤宏保):NHK記者。主人公に対して、
『あなたをうらやましいと思います。
 自分自身を真正面からみつめざるを得ない機会を得たということで』という。
---柄本明 エモトアキラ 1948 (丸山博文) :犯人。
『おれは悪い人間ですよね』との言葉が調べのなかでも繰り返されたという。
3歳のときに母が台風で死亡。小学校4年以降は通学せず。19歳で父も死亡。
作業員として全国を転々。事件の7年前に総合失調症の妻と離婚
(本人は女房といい続ける)。1歳の長男は施設に預けられる。
以後、本人も妻と同じ病名での措置入院の履歴あり。内気でおとなしい性格、
長男への送金もづづけている。事件後の精神鑑定「抑うつ状態」
『妻子をほったらかしにしている自分への罪の意識と、何もできない自身への
罪の意識が今に至るまで根強い観念として重くのしかかっている』

映画の感想はココ「ビデオ鑑賞 生きてみたいもう一度「新宿バス放火事件」 もう29年たちました 」

生きてみたい、もう一度―新宿バス放火事件 (新風舎文庫) (新風舎文庫)
杉原 美津子
新風舎

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