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黄金株発行企業の東証上場=与謝野金融相の発言

2005-11-24 00:25:27 | Weblog
 昨日(11月22日)の夕刊には,東京証取が,特定株主に株主総会での拒否権を与えるいわゆる「黄金株」の導入を原則禁止する方針を固めていることについて,与謝野経済財政・金融担当大臣が,「会社法で認められていることを東証の上場基準で否定するということは理屈の問題としてあり得ない」との見解を示したという記事が出ている(発言内容は日経による。)。

 この発言は,大いに疑問である。

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 黄金株が認められるかどうかは,組織法である会社法の問題であり(所管官庁は法務省),黄金株を有する企業の上場を認めるかどうかは,有価証券の流通の規制法である証券取引法の問題である。

 商法では,会社の存在形態として,黄金株を有する株主の存在を認めるかどうか,そのような会社であっても会社の存在が許されるかどうかという観点からの問題である。その観点は,どちらかといえば,会社と取引をする相手方や,会社への出資者の立場が不当に害されることがないか,という面に重点があると思われる。ここでは,広範な出資者を募り,またその株式が流通することで企業価値が評価される大企業から,零細で閉鎖的な小企業までを通じた法規制が考えられている。

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 これに対して,証券取引法の規制の対象は,有価証券の発行と売買その他の取引,すなわち有価証券の流通であり,会社と取引をする相手方の利益や会社設立の際の出資者の立場は,その規律の範囲外である。そして,証券取引所は,証券取引法によって規律されているところ,証券取引法には,証券取引所の開設要件として,取引を公正かつ円滑ならしめ,投資者を保護することが規定されているが,証券取引所は,すべての証券を平等に扱わなければならないという規定はどこにもない。

 現実に,東証1部,2部,ジャスダック,マザーズなどがあるとおり,それぞれの市場が,自ら上場基準を立てて,その基準にあう会社を選別して上場を認めている。当然のことながら,証券取引所が設置される目的は,有価証券等の公正かつ円滑な取引と,投資者保護であるから,ある会社が,自らの定めた上場基準に合わないときは,上場を認めないことは当然である。

 その過程で,東証なら東証が,黄金株を発行している会社の株式は,投資者保護の面からみて問題があると考え,その考えに根拠があるならば,黄金株を発行している会社の上場を認めないということは許されて然るべきだということになろう。

 例えば,この前は,西武鉄道が,少数株主の持株比率が基準を越えるとして,上場廃止になった。与謝野金融相の理屈からすると,商法は,少数株主が会社の株式全部を保有することすら認めているので,少数株主の持株比率が一定割合を超えることによって上場を認めないということは,黄金株の場合と同じく,理屈上あり得ないということになるが,そんな理屈は誰も認めるものではない。

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 私が思うに,株式会社は,(特に上場会社では)不特定多数の出資者の資金からなる組織体であるから,どこかに出資割合による意思決定の機会が保障されていなければならないと思う。確かに,無議決権株も認められるから,無議決権株を発行すれば,出資割合多数決は成り立たないといわれれば,それはそのとおりと答えざるを得ないが,その場合であっても,普通株式では,出資割合多数決が残っているのであるから,単一の株主に,その出資割合にかかわらず,株主総会の決議を覆すことができる権利を与えることは,株主による会社支配に大きな変容を加え,少数者の優先を認めることになって,株式会社の支配の根幹にかかわることになる。そして,それによって権利を害された非黄金株の株主は自らの権利行使の機会を奪われることになる。

 これは,投資家の立場からすると,その会社の株式を取得して株主価値の増大を期待しても,ごく少数者の意思によって,多くの投資家の期待が覆えされるのであり,このような事態は,株式の暴騰・暴落を招くものといえ,投資家に不測の損害を及ぼす可能性がある。そのような不測の損害が生じる可能性があるということは,証券取引法にいう「投資者の保護」にならない場合がある。

 そうすると,黄金株を発行している会社の普通株式の上場を認めことは,東証なら東証において,自らの目指す投資者保護に反するものであるという結論をとることも十分可能であるということになる。この結論は,証券取引法の世界のものであって,会社法(商法)から何の制約を受けるものでもない。証券取引法の世界で,証券取引法の問題として考えれば足りるものである。

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 そういうわけで,私としては,与謝野金融相の発言は,法律の規律の対照ということを十分理解しないもので,大いに疑問だと思うのだが,どうだろうか。




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