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ロプロが日本信用保証を合併へ

2006-02-13 00:16:47 | Weblog
 2月8日の新聞に,株式会社ロプロが日本信用保証株式会社を吸収合併するとの公告が掲載されていた。ふぅ~というか,随分時代も変わったものだという気がする。

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 かつて,商工ローンが社会問題になったことがあった。商工ローンとは,早い話が,いわゆるマチ金なのだが,このうち,特に,ロプロ(旧商号:日栄)とSFCG(旧商号:商工ファンド)が,大手となって全国展開し,高金利と取立ての苛酷さで,一躍政治問題にまで発展した,というものである。

 マチ金の問題は,それまでもあったはずであるが,(この理由は単なる推測だが)元々事業者の規模が小さかったことや,サラ金問題に目を奪われていたこともあって(いわゆる「被害者」の数がずっと多い。)か,それほど問題にならずにすぎてきていたものが,あるとき(いつ頃だったか記憶が定かでない。)急に社会問題にまでなるという急展開の末に,貸金業法の規制強化といった法改正に至ったと記憶している。その経過の一資料として,このようなものもある。

 これによって,というか,これと平行して,全国にまたがる大弁護団が結成され,特に日栄(今のロプロ)に対する不当利得返還訴訟が多発することになる。その資料が,今でもウェブの上に沢山残されている。「日栄,訴訟」くらいで検索すると,結構たくさん出てくる。

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 それはともかく,この日栄訴訟は,平成15年に最高裁の3つの小法廷が,まとめて一時期に同じ趣旨の判決を言い渡したことで,ある意味劇的な決着がつくことになった。

 基本となる判例は,平成15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁である。

 この事件は,日栄と平成5年から平成10年まで,反復継続して貸金の取引をしていた原告が,利息制限法超過利息及び日本信用保証に支払った保証料・事務手数料等を元本充当すると不当利得が生じているとして,その返還を求めたという事案である。ここでの争点は,

(1) 日栄の100%子会社であるが,別法人であることの明らかな日本信用保証に対する保証料等の支払いを,みなし利息として元本充当できるかどうか,
(2) 複数の貸金取引があるときに,1つの貸金取引について過払金が生じたときに,それを直ちに他の貸金の元本に充当できるかどうか,

という2点である。

 原審東京高裁(平成13年4月9日判決・金融商事判例1120号20頁)は,(1)については,100%子会社であることのほか,日本信用保証の業務が日栄の債務者の保障に限られていたことや,社員が極めて少なく,日栄の社員が実質的に業務を行っていたこと,保証料が元本に比して異常に高いこと,日本信用保証自体は代位弁済しても事実上回収業務を行っていなかったことといった事実認定から,原告が日本信用保証に支払った保証料等は,みなし利息に当たるとした。

 しかし,(2)については,貸主である日栄の側が,貸付元本に対する利息を取得できる利益があるとして,過払金が充当されるべき他の貸金の元本の弁済期限が来るまでは,過払金を貸付元本に充当できないという判断をしていた。

 最高裁は,(1)について,原審の判断を是認し,(2)については,原審の判断を否定して,過払い金が生じれば,直ちに他の貸金債務の元本に充当される,とした。(2)の判断の大きな要素が,反復継続する貸金取引では,「借主は借入総額の減少を望み,(債権債務が対立するような)複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられる」という点にあったように読むことができる。

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 このうち,(1)については,法人格否認はちょっと難しいのではないか,銀行だって保証会社を作っているので,保証会社を作ったことで法人格濫用とまではなかなかいえないのではないか,と思っていたが,原審が丁寧に事実認定をしていたことから,法人格否認というまでもなく,経済的な実質といったもので,法人格否認と同一の結論が導かれている。

 ただ,銀行の保証会社だって,銀行の100%かそれに近い支配株主であろうし,保証の相手も,親会社の銀行の債務者に限られるであろう。そうすると,保証料が一般の相場よりも異常に高いことと,保証会社が自ら回収業務を行っていなかったこと,の2点が重要ということになろう。このうち,保証料はリスクと見合いなのだから,保証料が高いから直ちにダメということにはならないと思われる。そうすると,回収業務が決め手か,ということになるが,何か,これだけではね,という気がしなくもない。

 全体として,日栄は,日本信用保証をかませることで,両方合わせて利息制限法違反利息を,少なくとも一部は利息制限法にひっかからないような形にして取得していた,という,全体判断が大きいウエイトを占めているのであろう。

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 (2)については,理屈的には,東京高裁の判断の方が,スジが通っているのではないかと思われる。日栄だって金貸しなのだから,実際に債務者に渡した元本については,その利用の対価を取得できる利益があり,これも法的保護に値する,というのは無理な理屈ではない。住宅ローンの繰り上げ返済に手数料を取るというのも,ひとつはこの点(貸主も,利息を取得できる権利を一方的に放棄させられて,無条件で繰り上げ返済を強いられるわけではない。)に理由があるはずである。

 また,債権者・債務者とも,そのような元本充当がされるとは,一般的には予想していないという方が,事実に即しているだろう。

 しかし,最高裁は,借主保護を優先して,「借主は元本の減少を望んでいる」という理由づけで,過払金が発生したときは直ちに元本充当の対象になるとした。これは,ある意味思い切った判断のように思える。言い換えれば,本当に理論的に詰め切れているか,疑問の余地があるように思える。

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 先に存在だけ紹介した日栄・商工ローン被害対策京都弁護団の意見書の,これらの争点についての最高裁の判断が当然であり,それまでの下級審の見解が分かれていたことが,裁判官の無理解による誤判の蓄積であったという見解は,明らかに言い過ぎであると思える。

 ともあれ,最高裁は,この平成15年の判例で,高利金融について,借主保護の方向を明確にしたと感じられる。先日以来紹介している今年1月の貸金業法の利息制限法超過利息のみなし弁済についての最高裁判例も,その延長上にあるといえる。

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 このようにして,日栄の,本体の利息は低く抑え,高率の保証料を支払わせることによって,実質的に利息制限法超過の高利を支払わせるという,巧妙なやり方は否定された。その後,日本信用保証が,どのような業務を行っていたかは,分からないが,日栄にとって日本信用保証の保証を要求することが,業務の執行方法として適切でないということで,縮小していたのであろう。

 債権者会社が,保証会社を吸収することは,保証人の地位と債権者の地位が混同することになるので,本来おかしなことである。そういう意味で,今回の吸収合併は,日栄(ロプロ)にとって,日本信用保証による保証の意味がなくなったことの現れのように感じられる。

 なお,ロプロの発表によれば,日本信用保証は,230億円を超える株主資本の欠損を計上していたようである。また,日栄は,平成14年3月29日にも,日本信用保証に対する500億円の債権を放棄している。これが何の赤字か確証はないが,基本は貸金の焦げつきであろう。いずれも,引当金を計上していたため,親会社の業績への影響はないということのようであるが,相当の危ない融資をしていたことは間違いないように思える。





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