雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

テスバウ共和国 入国体験記 ・ 第十七回

2011-08-17 11:08:00 | テスバウ共和国 入国体験記 
          ( 2-1 )

石田理事長の講義の後は、若干の休憩時間を挟んで国家組織についての説明となった。
講師は総務部総務局に属する女性で、進行役からは、テスバウ共和国全体の人口動向や組織体への人員配置を統括する仕事のエキスパートだとの紹介があった。

女性講師は自己紹介の後、国家全体の運営体制について説明に入った。配布されている資料にはかなり詳しい組織図も示されており、それに基づいての説明である。

「それぞれの担当部署の役割につきましては、一度にお話しましても混乱するでしょうし、これから先それぞれの担当者から説明があると思いますので、私の方からは私たちの国テスバウ共和国がどのように運営されているかを説明させていただきます。
皆さまが正式に市民になられますと、いずれかの住居が割り当てられることになります。
住居地は大きく分けますと五つのブロックに分かれております。各ブロックには八棟の建物がありますが、本部ブロックは少し形態が別になっています。その理由につきましては別の機会に説明させていただきますが、大半の方は本部以外の四ブロック三十二棟のいずれかに住まわれることになります。

各棟は四階建てで、ワンフロアーに三十二戸、合計百二十八戸あります。これが運営組織の基本体となります。もちろん、各棟は四階に分かれていますし、各フロアーも八戸ずつに区分されていますので、日常生活ではその八戸が一つの組織のようになっているのが実態のようです」
講師は、ここで少し間を取った。参加者の間で少しざわめきがあったからである。

「お話だけでは分かりにくい面がありますでしょうが、順次現地を見ていただきますので、今日のところはお手元の資料でご辛抱下さい。また、ご質問事項もあるかと思いますが、後ほど時間を作りますので、その時にまとめてお受けすることにさせて下さい。
それから、途中で休憩時間は取りますが、お手洗いやお飲み物なのでお立ちになるのは自由にしていただいて結構ですよ。

さて、それでは再びご説明を続けましょう。
一つの棟にはおよそ二百五十人程の市民が生活しております。その中から二人の代議員と八人の地区委員が選出されます。選出される方法は様々ですが、原則は選挙によります。代議員の数は、本部ブロックを加え合計七十人が選ばれます。

地区議員の八人は、一つの棟、つまり二百五十人程のコミュニティの運営にあたります。属している市民たちの生活環境や生活状況などに問題ないかチェックし、全ての市民が心豊かな生活が送れるようにする世話役でもあります。もちろん本部からの支援もありますし、実際に行動するのは後で述べます互助組織の担当者が主体となります。

代議員は、母国の体制に当てはめますと国会議員にあたります。市民から選出された七十人の代議員が、私たちの国テスバウ共和国を運営する中心になるのです。但し、母国の国会議員と違うところは、彼らは選出された地域のために働くのではなく、国家全体のために働きます。
決してこれは皮肉で申し上げているのではなく、母国の国会議員の場合は選出された地区住民の意向を意識せざるを得ない一面がありますが、私たちの国の代議員は国家全体のために働くのが与えられた役割なのです。

選出された代議員からは、十二人の理事が互選により選ばれます。その他の代議員は、国家運営組織である八つの部署のいずれかの担当になります。その任務は、それぞれの分野をより充実させるために監察したり、各部署の希望や不満を理事会に反映させたりすることです。必要に応じて、母国などのノウハウを導入するための立案などもします。

理事に選ばれた十二人は、互選により理事長を選出します。
選ばれた理事長は国家の代表者としての任務に就きます。母国における首相にあたります。理事長は、理事会を統括し各理事の役割を決めます。母国制度にあてますと、大臣を任命するのに似ています。
現在の体制は、石田理事長のもと、三人の副理事長、各部門の担当理事が八人という体制になっています。

私たちの国テスバウ共和国は、理事メンバーが内閣であり、代議員総会が国会という感じで運営されていますが、その性質は母国のものとはかなり違います。詳しい説明は省略させていただきますが、例えば、各部門を担当する理事は、母国の大臣のように部門の最高責任者になるわけではありません。その組織が国家の意とする方向に動いているか、もっと良い運営の仕方がないかなどを部門の長と理事会との意思統一を計るのが主な仕事なのです。

そして、これとは別に、常任委員会という組織があります。
お手元の組織図にもありますように、組織上は、この常任委員会が私たちの国の最高機関ということになっています。
常任委員会は国家の運営に直接携わることはありませんが、代議員総会あるいは理事会が決定した事項のうち重要なものについては、この委員会の承認が必要となっています。例えば、国家予算の決定、理事の解任、市民分担金の変更、財団基金の運用に関する事項、市民権停止の決定などがあります。

常任委員会の構成は、理事経験者の六人と現役の理事四人の十人で構成されています。このうち現役理事の四人は理事長が選任しますが、現在は理事長と三人の副理事長が常任委員を兼務しています。理事経験者からの六人は、自薦他薦とも可能で定員オーバーで調整できない場合は、理事会が決定することになっていますが、これまでそのようなことは一度も行われていません。
理事経験者から選ばれる委員の任期は四年で、再任も可能です。欠員が出た場合は、常任委員会が候補者を選び補充します。
そうそう、常任委員会の現委員長は、昨日ご挨拶申し上げました大月雅文で、私たちの誇りなのです。

先程も申し上げましたが、常任委員会はこの国の最高機関でありますが、むしろ、わが国の良識と考えていただいてよいと思うのです。私たちの国は、市民全員で少しでも住みよい国家になるようにと努力をしておりますが、常任委員の方々はその先頭に立っている人であり、万が一、この国が間違った方向に向かおうとする場合には、最後のブレーキ役になってくれる委員会なのです。
さらに、常任委員会の重要な仕事には、国外の知識やノウハウを吸収することや、寄付を募ること、有能な人材の確保などがあります。

私たちの国テスバウ共和国を将来にわたって心豊かな国家として存続させるためには、すばらしい技術や制度を取り入れていかなくてはなりませんし、国外の善意の人の技術的・経済的支援も必要です。
そして、何よりも、心豊かな方々に次々と市民になっていただかなくては私たちの国は消滅してしまうのです。
何せ、私たちの国では、誕生してくる子供が一人もいないのですから・・・」

会場から笑いが起こった。
おそらく参加者の殆どが予想していなかったような固い講義内容に戸惑っていたと思われるが、講師の言葉に空気が少し緩んだ。
内藤と名札を付けている女性講師も引き込まれるように笑顔を見せ、休憩を告げた。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« テスバウ共和国 入国体験記... | トップ | テスバウ共和国 入国体験記... »

コメントを投稿

テスバウ共和国 入国体験記 」カテゴリの最新記事