雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

テスバウ共和国 入国体験記 ・ 第四回

2011-08-17 11:18:59 | テスバウ共和国 入国体験記 
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席をはずしていた池田さんが、書類ケースのようなものを持って戻ってきた。

「お待たせしました。秋沢和美さん、君枝さん、雅代さん、実のご姉妹でしたね。ええ、ご関係は事前の書類で確認させていただいておりますので、改めて書類を提出していただく必要はございません」
広瀬さんは、三人の前に書類ケースを配り、開けるように言った。
ケースの色は落ち着いたエンジ色で、ファスナーを開けると、A4サイズの冊子が三冊とICカードが入っていた。

「テキストの内容などは午後からの開会式でご説明させていただきます。そのうちの一冊は記録用のノートですので、ご自由に使って下さい。それから、筆記具は入っていませんが、お持ちですか?」
広瀬さんは、三人が頷くのを確認してから話を続けた。

「ICカードは、皆様の身分証になります。すでにデーターは入力されています。体験入国されている間の身分証とキャッシュカードやドアキーなどを兼ねていますので、出来るだけ身につけておくようにしてください。カードケースに長い紐がついていますのは、首に掛けることが出来るようにしているためです。
正式の市民になられますと別のICカードになり、もっと多くの機能が加わったものになります。例えば病院での受診カードとか、互助会活動の記録カードといった機能が加わります。
今お渡ししましたカードもキャッシュカードの機能があると申し上げましたが、正しくは、まあ、プリペイドカードのような機能です。見学などで入国される方などにも同じようなカードを発行させていただくのですが、私たちの国テスバウ共和国内では、原則として母国の通貨は使用することが出来ません。このカードのような、プリペイドカードに事前に入金されている範囲でのみ、私たちの国内で買い物やサービスを受けることが出来る仕組みになっています。
皆様のカードには、すでに二万バウの金額が入力されています。ご存知かと思いますが、私たちの国テスバウ共和国の通貨の単位は[バウ」と言います。母国通貨と完全に連動していまして、二万バウは二万円と同じ値打ちです。今からでもすぐに使えるようになっておりますが、そのあたりのことは午後の説明会で詳しくお話があると思います。
他には・・・、そうですね、他に何か質問はございませんか?」

「入国の手続きは、あと、何をすればいいのでしょうか?」
と、君枝が尋ねた。三姉妹がそろっている時には、交渉事の窓口が君枝になるのはいつものパターンなのだ。

「手続きは、これで終わりです。この先の通路にICカードを読み取らせる場所があります。そこを通過しますと入国したことになります。別の通路になりますが、逆に通過しますと出国したことになります」
「車に荷物を積んでいるのですが、それはどうすればよろしいでしょうか?」

「そうですね。お部屋が決まってから運ばれたらいかがでしょうか。取りあえずの物だけお持ちでしたら、昼食の前後あたりでお部屋が決められるはずです。そのあとに二時間ばかり休憩時間がありますから、その時に運ばれたらいいのではないでしょうか。
他にもお分かりにならないこともありますでしょうが、体験講座中は担当者が丁寧に説明させていただきます。どんな些細なことで担当者の方にお尋ねください。皆様にとっては、とても大切な体験期間になるはずですから、出来るだけいろいろなことに触れていただき、そして、何よりもこの国のすばらしさを感じ取っていただきたいと思います。
それでは、私たちの国テスバウ共和国へご案内いたしましょう」

広瀬さんは立ち上がり、にこやかに左の方向を指した。横に座っていた池田さんも立ち上がり、
「係りの者がご案内いたします」と、広瀬さんにならった。
三人が立ちあがると、その動きに呼応するように、ロビーの一画で待機していた人たちの中から一人が近付いてきた。
「私がご案内させていただきます。さあ、こちらです」と三人を促した。三姉妹は、交付された書類ケースと各自のバッグをそれぞれに持ち席を離れた。

案内に立ってくれたのは男性で、やはり同じ黄緑色のユニフォーム姿なので若々しく見えるが、表情や身体の動きから考えると、三人よりは相当年長に見えた。
三人は、案内の男性の後を一列に並ぶようにして進んだ。まるで決められているかのように、君枝、和美、雅代の順になっていた。
左手へ少し進むと、事務室の真ん中に作られたような通路が真っ直ぐに伸びている。幅は2m程で、長さは20m以上ありそうだ。

「この通路の何か所かにセンサーがあり、皆さんのICナンバー読んでいます。つまり入国のチェックをさせてもらう所なのです。もし、ICカードを持参していない人が通ろうとしますと、ゲートが閉まり担当者にも連絡されるようになっています。
ああ、ICカードは別に提示す必要はありませんよ。金属製のケースにさえ入れてなければ、大体読み取れるようになっています。キャッシュカードとして利用する場合は、タッチさせる必要があるのですがね」

通路を抜けた所も、先程よりはずっと狭いがロビーになっている。
「出国される場合は、あちら側の通路を通って下さい。ICカードを持っていないとストップさせられますが、カードさえ身につけていますと、特別な手続きなど全く必要なく、一日に何度出入りしても差し障りがありません。
さあ、これで皆さんは、私たちの国テスバウ共和国に入国されたことになります。管理センターでは、入国、出国の人数が即座に把握されていて、今現在の国内にいる人の数が分かるようになっています。たった今、皆さん三人の数が加算されたはずです。
それでは、会場までご案内しましょう」





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