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君枝を先頭に、和美、雅代の順に一列に並ぶようにして歩き出すと、黄緑色の鮮やかな色のジャンパーを着た案内人らしい男性が二人近づいてきた。
「入国体験される方ですか?」と話しかけ、二階に受付がある旨説明してくれた。
物腰が柔らかく、ガードマンというのとは少々異質な感じがした。それに、年齢が二人とも七十歳は過ぎていると思われ、防犯面よりも案内を目的としている感じである。
三人は、大きな建物の一画にある入り口に向かった。
大きな建物の一般車両の駐車場となっている方はドライブインになっていて、外から見た感じは、高速道路のサービスエリアにある建物に似ていた。そして、全体の三分の二位がドライブインになっていて、残りの部分は一般客が利用する所ではないらしく、入り口はホテルのような作りになっている。
入り口の上部には、『テスバウ共和国入国管理局』と楷書文字で表記されていて、少し圧倒されるようなものを感じる。
三人は、それぞれにその文字を小さく声に出して読み、確かめ合うように顔を見合わせた。
入り口に入ると、やはりホテルと同じようにロビーになっていて、所々にソファーも置かれている。壁面などには写真や絵画が飾られていて、その部分だけ見れば美術館を思わせるほど優雅な空間になっているが、展示されている絵画などは、いずれもテスバウ共和国の市民の作品らしい。
正面部分には、ホテルのフロントのような低い受付があるが、案内の担当者は座って応対するようになっていて、カウンターはホテルのものよりはずっと低くなっている。受付窓口は幾つかに分けられていて、「総合案内」「入国のご相談」「見学のご相談」などの掲示がある。カウンターの奥は事務室になっていて、何人かの人が働いているが、男性も女性も全員の人が黄緑色のジャンパーを着ている。どうやら、先程の案内人も含めて此処の事務員の制服らしい。
そして「総合案内」の前には、「入国体験講座を受けられる方は二階にお上がり下さい」という掲示板が立てられていた。
三人の姉妹は、入り口を入ったあたりから部屋全体を見渡し、再び顔を見合わせて頷き合った。
「いよいよ入国だ」という気持ちを持った者と、予想していたより立派な設備に安心した者とに分かれているかのような、微妙な差があるようにも見えた。
三人は、やはり君枝が引率するかのように先頭に立ち、案内矢印の方向にあるエレベーターに向かった。
二階も一階と同じような作りになっていた。一流ホテルのような豪華さはないが、例えば、長女の和美がこれまで訪れたことのある高齢者用のマンションなどのロビーに比べても見劣りすることはなかった。
部屋全体が、ロビーと事務室とに大きく二分されていることは一階と同じ仕様であるが、一階に比べロビーは三分の一程の広さであり、その分事務所側が大きなスペースを占めていた。
受付と表示された場所は四か所あり、その二か所にすでに何人かの人が手続きに入っている様子であった。この事務所の人たちも、一階の事務員と同じ色のジャンパーを着ていて、全員が同じ色の制服に統一されていることは間違いないようである。
三人は、案内書に指示されている時間にはまだ大分間があるので、ソファーに座るか、取りあえず受付に声をかけるか迷っていると、ロビーにいた案内役らしい女性が声をかけてきた。
「ようこそおいで下さいました」と、にこやかに会釈をした後、入国体験講座の参加者であることを確認すると、「時間は早過ぎても大丈夫ですよ」と空いている受付場所に案内してくれた。
案内してくれた女性は和美と同年齢位に思われたが、受付に座っている女性は、二人とも少し年上のようである。
「ようこそおいで下さいました」
受付の二人は、まるで声を合わせるようにして、案内してくれた女性と同じ言葉で歓迎の気持ちを示してくれた。カウンターの前に設置されている椅子に並んで座った三人の顔をしっかりと見つめながら軽く頭も下げた。
座ったばかりの三人も思わず腰を浮かせて、「よろしくお願いします」と、それぞれに挨拶した。受付の二人の接客ぶりは、決してスムーズなものではないが、一生懸命接してくれている雰囲気が伝わってくるものであった。
「それでは、これから入国の手続きをさせていただきます。ご案内状と振込領収書を確認させていただきます」
二人の受付担当者のうち胸に「広瀬」という大きな名札を付けている女性が言った。君枝が三人分の案内状と銀行振込の受取書をカウンターに並べると、「確認させていただきます」と言って受け取り、内容を簡単に確認したうえで、隣りの女性に手渡した。隣りの女性は「池田」という名札を付けているが、三人に軽く会釈して席を立った。どうやら広瀬さんが主担当で池田さんが補助役のようである。
「三姉妹でいらっしゃいますのね」
広瀬さんは、今書類を整えていますので、と断わったあと、話しかけた。三人は、それぞれが小さく声を出し頷いた。
「まだ、お若い方々ですのに、よく決断されましたわね。でも、ここにはすばらしい生活がありますわ。ぜひ、体験講座を楽しんでください」
三人は、広瀬さんの「まだお若い・・・」という言葉に、顔を見合わせて苦笑いした。
和美は六十五歳、君枝は六十二歳、雅代が六十歳である。三姉妹などといえば、何とはなく若々しい感じがするが、「まだお若い」と言われると少々面映ゆい気持ちは隠せない。
もっとも、テスバウ共和国の市民権取得の年齢条件は六十五歳以上が基本である。但し、六十五歳以上の人の配偶者や三親等以内の肉親は同居を条件に認められることになっていて、二人の妹の場合は、単独では市民権を取得できないことになっている。
そういう意味では、三姉妹は、この国では若手ということになる。
君枝を先頭に、和美、雅代の順に一列に並ぶようにして歩き出すと、黄緑色の鮮やかな色のジャンパーを着た案内人らしい男性が二人近づいてきた。
「入国体験される方ですか?」と話しかけ、二階に受付がある旨説明してくれた。
物腰が柔らかく、ガードマンというのとは少々異質な感じがした。それに、年齢が二人とも七十歳は過ぎていると思われ、防犯面よりも案内を目的としている感じである。
三人は、大きな建物の一画にある入り口に向かった。
大きな建物の一般車両の駐車場となっている方はドライブインになっていて、外から見た感じは、高速道路のサービスエリアにある建物に似ていた。そして、全体の三分の二位がドライブインになっていて、残りの部分は一般客が利用する所ではないらしく、入り口はホテルのような作りになっている。
入り口の上部には、『テスバウ共和国入国管理局』と楷書文字で表記されていて、少し圧倒されるようなものを感じる。
三人は、それぞれにその文字を小さく声に出して読み、確かめ合うように顔を見合わせた。
入り口に入ると、やはりホテルと同じようにロビーになっていて、所々にソファーも置かれている。壁面などには写真や絵画が飾られていて、その部分だけ見れば美術館を思わせるほど優雅な空間になっているが、展示されている絵画などは、いずれもテスバウ共和国の市民の作品らしい。
正面部分には、ホテルのフロントのような低い受付があるが、案内の担当者は座って応対するようになっていて、カウンターはホテルのものよりはずっと低くなっている。受付窓口は幾つかに分けられていて、「総合案内」「入国のご相談」「見学のご相談」などの掲示がある。カウンターの奥は事務室になっていて、何人かの人が働いているが、男性も女性も全員の人が黄緑色のジャンパーを着ている。どうやら、先程の案内人も含めて此処の事務員の制服らしい。
そして「総合案内」の前には、「入国体験講座を受けられる方は二階にお上がり下さい」という掲示板が立てられていた。
三人の姉妹は、入り口を入ったあたりから部屋全体を見渡し、再び顔を見合わせて頷き合った。
「いよいよ入国だ」という気持ちを持った者と、予想していたより立派な設備に安心した者とに分かれているかのような、微妙な差があるようにも見えた。
三人は、やはり君枝が引率するかのように先頭に立ち、案内矢印の方向にあるエレベーターに向かった。
二階も一階と同じような作りになっていた。一流ホテルのような豪華さはないが、例えば、長女の和美がこれまで訪れたことのある高齢者用のマンションなどのロビーに比べても見劣りすることはなかった。
部屋全体が、ロビーと事務室とに大きく二分されていることは一階と同じ仕様であるが、一階に比べロビーは三分の一程の広さであり、その分事務所側が大きなスペースを占めていた。
受付と表示された場所は四か所あり、その二か所にすでに何人かの人が手続きに入っている様子であった。この事務所の人たちも、一階の事務員と同じ色のジャンパーを着ていて、全員が同じ色の制服に統一されていることは間違いないようである。
三人は、案内書に指示されている時間にはまだ大分間があるので、ソファーに座るか、取りあえず受付に声をかけるか迷っていると、ロビーにいた案内役らしい女性が声をかけてきた。
「ようこそおいで下さいました」と、にこやかに会釈をした後、入国体験講座の参加者であることを確認すると、「時間は早過ぎても大丈夫ですよ」と空いている受付場所に案内してくれた。
案内してくれた女性は和美と同年齢位に思われたが、受付に座っている女性は、二人とも少し年上のようである。
「ようこそおいで下さいました」
受付の二人は、まるで声を合わせるようにして、案内してくれた女性と同じ言葉で歓迎の気持ちを示してくれた。カウンターの前に設置されている椅子に並んで座った三人の顔をしっかりと見つめながら軽く頭も下げた。
座ったばかりの三人も思わず腰を浮かせて、「よろしくお願いします」と、それぞれに挨拶した。受付の二人の接客ぶりは、決してスムーズなものではないが、一生懸命接してくれている雰囲気が伝わってくるものであった。
「それでは、これから入国の手続きをさせていただきます。ご案内状と振込領収書を確認させていただきます」
二人の受付担当者のうち胸に「広瀬」という大きな名札を付けている女性が言った。君枝が三人分の案内状と銀行振込の受取書をカウンターに並べると、「確認させていただきます」と言って受け取り、内容を簡単に確認したうえで、隣りの女性に手渡した。隣りの女性は「池田」という名札を付けているが、三人に軽く会釈して席を立った。どうやら広瀬さんが主担当で池田さんが補助役のようである。
「三姉妹でいらっしゃいますのね」
広瀬さんは、今書類を整えていますので、と断わったあと、話しかけた。三人は、それぞれが小さく声を出し頷いた。
「まだ、お若い方々ですのに、よく決断されましたわね。でも、ここにはすばらしい生活がありますわ。ぜひ、体験講座を楽しんでください」
三人は、広瀬さんの「まだお若い・・・」という言葉に、顔を見合わせて苦笑いした。
和美は六十五歳、君枝は六十二歳、雅代が六十歳である。三姉妹などといえば、何とはなく若々しい感じがするが、「まだお若い」と言われると少々面映ゆい気持ちは隠せない。
もっとも、テスバウ共和国の市民権取得の年齢条件は六十五歳以上が基本である。但し、六十五歳以上の人の配偶者や三親等以内の肉親は同居を条件に認められることになっていて、二人の妹の場合は、単独では市民権を取得できないことになっている。
そういう意味では、三姉妹は、この国では若手ということになる。
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