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三姉妹も、講義内容に違和感を感じていた。特に末っ子の雅代は二人の姉を見つめて肩をすくめた。
「まるで就職試験でも受けるみたい」
と、不満そうにつぶやきながら席を立った。
休憩の後、講師は質問を受け付けた。質問者の数は少なかったが、「代議員や地区委員の方は負担が大きいように思われるが、立候補する人は多勢いるのか」というものがあった。
「残念ながら多くはありません」
女性講師は静かに首を振った。
「私たちの国は、市民一人一人の力で成り立っています。身体や知恵を働かせることが出来る人は、全員が何らかの仕事を持っています。代議員や地区委員もそんな仕事の一つという位置付けですが、やはりご苦労の多い仕事です。代議員七十人のうち半分近くの人が自分から希望してなったのではなく、周囲の人に押されてやむなくなったというのが実態のようです。しかし、代議員でいえば、任期を終える時点では八割以上の人がその任務に誇りとやりがいを感じています。互助部が行ったつい最近の調査でも、そのような結果が出ています。
皆さまが私たちの国の市民になられました節には、ぜひ積極的に代議員や地区議員に名乗りを上げて欲しいのです。一度経験されますと、やりがいのある仕事だということが分かっていただけると思うのですが、これは、私たちの国の宿命なのですが、経験豊かな代議員や理事の方々は次々と身を引かれていきます。やはり、他の職場に比べて責任のある立場ですから、体力の衰えから引かざるを得ないことが多いのです。
私たちの国の市民は、働ける人は全員が仕事を持っています。それも、持病があったり身体の一部が不自由な人も含めてです。実際に市民の生活振りを見ていただくとよく分かると思うのですが、介護を受けながら生活している人がごく短い時間であれ何らかの仕事をしているという例は少なくないのですよ。
私たちの国は小さな国ですが、それでもいろいろな職種があります。市民の方々には、可能な限り希望の職種についてもらうようになっていますが、経験を積んで一つのチームの中心戦力になってきますと、やがて体力の衰えがやってきます。これはどうすることも出来ない現象なのです。
私たちの国テスバウ共和国は、新しく市民になってくださる方々の力なくしては成り立たないのです・・・。
あまり負担を感じられますといけませんが、逆に考えていただきますと、新しく市民になられた方にとって、やりがいのある仕事が満ち溢れているところでもあります。
市民全員が、体力や精神力の許す範囲で生き生きと他の人のために働き、そして余暇には、何の憂いもなく過ごせる楽しみを見つけ出す・・・、私たちの先輩たちは、テスバウ共和国をそんな国に仕上げてくれているのです」
女性講師の熱弁に、期せずして拍手が起こった。初めはためらいがちな拍手だったが、次第にその音が大きくなっていった。
「ありがとうございます」
女性講師もこれほどの拍手は予期していなかったらしく、頬を染めて礼を述べた。
「固いお話が続き恐縮ですが、もうしばらくご辛抱下さい。
ここまでは、常任委員、理事、代議員など、国家の運営の中心になるメンバーについてお話してきましたが、これからは、実際に運営していく組織体がどうなっているかについてご説明させていただきましょう。母国の体制に当てはめますと官僚組織ともいえます。
但し、母国の官僚組織は公務員によって組成されていますが、私たちの国には公務員にあたる者は一人もおりません。全市民がいずれかの組織に属して責任と労力を担っているのです。
私たちの国を実際に運営するための組織は、八つの部に分かれています。具体的にはお手元の資料を見ていただきたいのですが、八つの部といいますのは、総務部、財務部、厚生部、互助部、交通防災部、国土管理部、地域運営部、市民生活部です。そして、それぞれの部には幾つかの局があります。さらに局には幾つかの班あるいはチームがあります。
私たちテスバウ共和国市民は、健康が許す限りいずれかの部署に属して働くことになります。私たちの国には、私営の企業がありません。国営の企業もありません。全てが国家組織の一部になっており、私たち市民は全員が組織の一員として市民サービスに努め、同時に全員が豊かな生活を確保するためのサービスを受けることが出来るのです。
つまり、私たちの国テスバウ共和国は互助組織により成り立っているのです。
例えば私は、総務部総務局の組織班に属していますが、私に与えられている仕事は、この国の組織がどのように成り立っているのか、改善するところはないのか、市民全員に組織について理解してもらうこと、各組織がうまく運営できているのか、組織間の意志疎通は十分なのか・・・、などについて研究や調査を行っています。
本日皆様にお話しさせていただいておりますのも、私たちの国の体制について理解していただくための、私の重要な任務なのです。
私たちの班は八人で構成されていますが、市民の方に直接お世話させていただく機会は殆どありません。しかし私は、毎日の買い物や外食なども便利に利用させていただいております。健康診断も定期的に案内していただけますし、病気になれば入院も簡単に出来ます。部屋の中は自分で掃除をしますが、公共部分や建物全体の管理や補修はそれぞれの担当の方がやってくれます。
図書館や映画館などもありますし、お茶やお花を楽しもうと思えば同好会が幾つもあります。詩吟や合唱、ご詠歌の会さえもあります。もちろん全てが無料というわけではありませんが、市民権を得るのに必要だという経済的条件のぎりぎりしか用意できなかった私ですが、充実した一日一日を送っていくのに何の不自由もありません。
大変大雑把な説明でしたが、私の持ち時間が無くなって参りました。ご理解いただけない部分も多いかと思いますが、順次、個別の部署についてそれぞれの担当者から説明させていただきますし、実際に現場を見ていただくことで理解していただけるようになるかと思います。
どうぞ皆さま、私たちの国テスバウ共和国の良いところ悪いところを十分に見ていただき、その上で、全員のお方が私たちの仲間になられるよう切に願って終了とさせていただきます」
三姉妹も、講義内容に違和感を感じていた。特に末っ子の雅代は二人の姉を見つめて肩をすくめた。
「まるで就職試験でも受けるみたい」
と、不満そうにつぶやきながら席を立った。
休憩の後、講師は質問を受け付けた。質問者の数は少なかったが、「代議員や地区委員の方は負担が大きいように思われるが、立候補する人は多勢いるのか」というものがあった。
「残念ながら多くはありません」
女性講師は静かに首を振った。
「私たちの国は、市民一人一人の力で成り立っています。身体や知恵を働かせることが出来る人は、全員が何らかの仕事を持っています。代議員や地区委員もそんな仕事の一つという位置付けですが、やはりご苦労の多い仕事です。代議員七十人のうち半分近くの人が自分から希望してなったのではなく、周囲の人に押されてやむなくなったというのが実態のようです。しかし、代議員でいえば、任期を終える時点では八割以上の人がその任務に誇りとやりがいを感じています。互助部が行ったつい最近の調査でも、そのような結果が出ています。
皆さまが私たちの国の市民になられました節には、ぜひ積極的に代議員や地区議員に名乗りを上げて欲しいのです。一度経験されますと、やりがいのある仕事だということが分かっていただけると思うのですが、これは、私たちの国の宿命なのですが、経験豊かな代議員や理事の方々は次々と身を引かれていきます。やはり、他の職場に比べて責任のある立場ですから、体力の衰えから引かざるを得ないことが多いのです。
私たちの国の市民は、働ける人は全員が仕事を持っています。それも、持病があったり身体の一部が不自由な人も含めてです。実際に市民の生活振りを見ていただくとよく分かると思うのですが、介護を受けながら生活している人がごく短い時間であれ何らかの仕事をしているという例は少なくないのですよ。
私たちの国は小さな国ですが、それでもいろいろな職種があります。市民の方々には、可能な限り希望の職種についてもらうようになっていますが、経験を積んで一つのチームの中心戦力になってきますと、やがて体力の衰えがやってきます。これはどうすることも出来ない現象なのです。
私たちの国テスバウ共和国は、新しく市民になってくださる方々の力なくしては成り立たないのです・・・。
あまり負担を感じられますといけませんが、逆に考えていただきますと、新しく市民になられた方にとって、やりがいのある仕事が満ち溢れているところでもあります。
市民全員が、体力や精神力の許す範囲で生き生きと他の人のために働き、そして余暇には、何の憂いもなく過ごせる楽しみを見つけ出す・・・、私たちの先輩たちは、テスバウ共和国をそんな国に仕上げてくれているのです」
女性講師の熱弁に、期せずして拍手が起こった。初めはためらいがちな拍手だったが、次第にその音が大きくなっていった。
「ありがとうございます」
女性講師もこれほどの拍手は予期していなかったらしく、頬を染めて礼を述べた。
「固いお話が続き恐縮ですが、もうしばらくご辛抱下さい。
ここまでは、常任委員、理事、代議員など、国家の運営の中心になるメンバーについてお話してきましたが、これからは、実際に運営していく組織体がどうなっているかについてご説明させていただきましょう。母国の体制に当てはめますと官僚組織ともいえます。
但し、母国の官僚組織は公務員によって組成されていますが、私たちの国には公務員にあたる者は一人もおりません。全市民がいずれかの組織に属して責任と労力を担っているのです。
私たちの国を実際に運営するための組織は、八つの部に分かれています。具体的にはお手元の資料を見ていただきたいのですが、八つの部といいますのは、総務部、財務部、厚生部、互助部、交通防災部、国土管理部、地域運営部、市民生活部です。そして、それぞれの部には幾つかの局があります。さらに局には幾つかの班あるいはチームがあります。
私たちテスバウ共和国市民は、健康が許す限りいずれかの部署に属して働くことになります。私たちの国には、私営の企業がありません。国営の企業もありません。全てが国家組織の一部になっており、私たち市民は全員が組織の一員として市民サービスに努め、同時に全員が豊かな生活を確保するためのサービスを受けることが出来るのです。
つまり、私たちの国テスバウ共和国は互助組織により成り立っているのです。
例えば私は、総務部総務局の組織班に属していますが、私に与えられている仕事は、この国の組織がどのように成り立っているのか、改善するところはないのか、市民全員に組織について理解してもらうこと、各組織がうまく運営できているのか、組織間の意志疎通は十分なのか・・・、などについて研究や調査を行っています。
本日皆様にお話しさせていただいておりますのも、私たちの国の体制について理解していただくための、私の重要な任務なのです。
私たちの班は八人で構成されていますが、市民の方に直接お世話させていただく機会は殆どありません。しかし私は、毎日の買い物や外食なども便利に利用させていただいております。健康診断も定期的に案内していただけますし、病気になれば入院も簡単に出来ます。部屋の中は自分で掃除をしますが、公共部分や建物全体の管理や補修はそれぞれの担当の方がやってくれます。
図書館や映画館などもありますし、お茶やお花を楽しもうと思えば同好会が幾つもあります。詩吟や合唱、ご詠歌の会さえもあります。もちろん全てが無料というわけではありませんが、市民権を得るのに必要だという経済的条件のぎりぎりしか用意できなかった私ですが、充実した一日一日を送っていくのに何の不自由もありません。
大変大雑把な説明でしたが、私の持ち時間が無くなって参りました。ご理解いただけない部分も多いかと思いますが、順次、個別の部署についてそれぞれの担当者から説明させていただきますし、実際に現場を見ていただくことで理解していただけるようになるかと思います。
どうぞ皆さま、私たちの国テスバウ共和国の良いところ悪いところを十分に見ていただき、その上で、全員のお方が私たちの仲間になられるよう切に願って終了とさせていただきます」
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