枕草子 第八十七段 内裏は五節のころこそ
内裏は、五節のころこそ、すずろに、ただなべて見ゆる人も、をかしうおぼゆれ。
殿司などの、いろいろの裂栲を物忌のやうにて、釵子につけたるなども、めづらしう見ゆ。
(以下割愛)
内裏は、五節の頃が特に、わけもなく、日頃顔を合わせている人まで、素敵な感じがします。
主殿司の女官などが、いろいろな色の小切れを物忌の札のようにして、釵子(サイシ・正装の時髪を結い上げて差すかんざし)につけているのなども、目新しく見えます。
宣耀殿の反り橋の上に、結い上げた髪の元結のむら染が、とても鮮やかな姿で、この人たちが並んで座っているのも、それぞれに多彩で、まことに風情があるものばかりです。
清涼殿に仕える雑仕や、女房に仕えている童女たちも、「大変晴れがましいことだ」と思っているのも、もっともなことです。
染料に用いる山藍や、冠につける日陰のかずらなどを、柳筺(ヤナイバコ・柳の枝を細く削って作った箱)に入れて、五位に叙せられた男性(大夫。六位の蔵人から無役になった者か)が持ってまわるのなども、大変風情があるように見えます。
殿上人が直衣を肩脱ぎをして、扇やその他の物を拍子に使って、
「つかさまさりと、しき波ぞ立つ」(当時の歌謡か)という歌をうたいながら、五節の局それぞれの前を練り歩くのは、すっかり宮仕えに慣れきっているような人の心中も、ときめくことでしょう。まして、殿上人たちが、どっと一斉に笑いなどしているのは、ひどく恐ろしい。(作者がまだ宮仕えに慣れていないためか)
進行役の蔵人の掻練襲(カイネリガサネ・紅の練り絹の下襲)は、特に目立って美しく見えます。客用の褥などが敷いてありますが、とてもその上に座っていることも出来ず、居並んでいる女房の容姿を品定めしたりして、この頃は、五節所の噂ばかりのようです。
帳台の試みの夜(天皇が五節の舞の試し舞を見る)、進行役の蔵人は大変厳しく取り仕切って、
「理髪の役の女房と二人の童女の他は、どなたも入ってはいけない」と戸を押さえて、憎たらしいほどに言うので、殿上人なども、
「でも、この女房一人ぐらいはいいだろう」などと言われるが、
「不公平になりますから、絶対に駄目です」などと固苦しく言い張っているところに、中宮様の女房が二十人ぐらいが蔵人をものともせず、戸を押しあけて、なだれ込んだので、蔵人はあっけに取られて、
「これは、どうも、無茶な世の中だ」と言って、立ちすくんでいるのが可笑しい。
それにつけ込みましてね、介添えの女房たちも皆入る様子で、それを見ている蔵人はとても悔しげです。
天皇もお出でになられましたが、「可笑しい」と御覧になられたことでしょう。
疲れたのでしょう、灯台に向かい合って居眠りしている舞姫たちの顔も、可愛らしいものです。
少納言さまが宮仕えしてまだ間もない頃なのでしょう、華やかな五節の行事の様子が生き生きと描かれています。
宮中では多くの行事が催されていたのでしょうが、この五節の行事は特に大きな行事だったようで、再々登場してきています。
内裏は、五節のころこそ、すずろに、ただなべて見ゆる人も、をかしうおぼゆれ。
殿司などの、いろいろの裂栲を物忌のやうにて、釵子につけたるなども、めづらしう見ゆ。
(以下割愛)
内裏は、五節の頃が特に、わけもなく、日頃顔を合わせている人まで、素敵な感じがします。
主殿司の女官などが、いろいろな色の小切れを物忌の札のようにして、釵子(サイシ・正装の時髪を結い上げて差すかんざし)につけているのなども、目新しく見えます。
宣耀殿の反り橋の上に、結い上げた髪の元結のむら染が、とても鮮やかな姿で、この人たちが並んで座っているのも、それぞれに多彩で、まことに風情があるものばかりです。
清涼殿に仕える雑仕や、女房に仕えている童女たちも、「大変晴れがましいことだ」と思っているのも、もっともなことです。
染料に用いる山藍や、冠につける日陰のかずらなどを、柳筺(ヤナイバコ・柳の枝を細く削って作った箱)に入れて、五位に叙せられた男性(大夫。六位の蔵人から無役になった者か)が持ってまわるのなども、大変風情があるように見えます。
殿上人が直衣を肩脱ぎをして、扇やその他の物を拍子に使って、
「つかさまさりと、しき波ぞ立つ」(当時の歌謡か)という歌をうたいながら、五節の局それぞれの前を練り歩くのは、すっかり宮仕えに慣れきっているような人の心中も、ときめくことでしょう。まして、殿上人たちが、どっと一斉に笑いなどしているのは、ひどく恐ろしい。(作者がまだ宮仕えに慣れていないためか)
進行役の蔵人の掻練襲(カイネリガサネ・紅の練り絹の下襲)は、特に目立って美しく見えます。客用の褥などが敷いてありますが、とてもその上に座っていることも出来ず、居並んでいる女房の容姿を品定めしたりして、この頃は、五節所の噂ばかりのようです。
帳台の試みの夜(天皇が五節の舞の試し舞を見る)、進行役の蔵人は大変厳しく取り仕切って、
「理髪の役の女房と二人の童女の他は、どなたも入ってはいけない」と戸を押さえて、憎たらしいほどに言うので、殿上人なども、
「でも、この女房一人ぐらいはいいだろう」などと言われるが、
「不公平になりますから、絶対に駄目です」などと固苦しく言い張っているところに、中宮様の女房が二十人ぐらいが蔵人をものともせず、戸を押しあけて、なだれ込んだので、蔵人はあっけに取られて、
「これは、どうも、無茶な世の中だ」と言って、立ちすくんでいるのが可笑しい。
それにつけ込みましてね、介添えの女房たちも皆入る様子で、それを見ている蔵人はとても悔しげです。
天皇もお出でになられましたが、「可笑しい」と御覧になられたことでしょう。
疲れたのでしょう、灯台に向かい合って居眠りしている舞姫たちの顔も、可愛らしいものです。
少納言さまが宮仕えしてまだ間もない頃なのでしょう、華やかな五節の行事の様子が生き生きと描かれています。
宮中では多くの行事が催されていたのでしょうが、この五節の行事は特に大きな行事だったようで、再々登場してきています。
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