Shattered Dreams/砕けた夢

高校生の彼が、わたしのためにどこかから探してきたレコードプレイヤー。

こんなのどこにも売ってないと思うよ。

彼は、ニキビ面の顔をほころばせて、自慢そうに言った。
銀色のパナソニックのロゴが鈍く光っていた。
型番も覚えていない。
わたしが東京から今の街に都落ちのように引っ越してきた時、失ってしまったからだ。

それは、リニアトラッキング方式というスイングするレコードアームがない不思議なレコードプレイヤーだった。
レコード針は、カバーに直接取り付けられていて、驚くべきことに、レコードの回転に伴って水平に動き、常にレコードの溝に対して同じ角度を保つことができた。

知り合いのおじさんに、「僕の大切な彼女の誕生日プレゼントを探している」と言ったら、譲ってくれたんだ。

わたしは、彼のその言葉に身体も心も溶けてしまった。

高校生でお金のない彼が、わたしのために一生懸命、探してくれた宝物。
もちろん、どんな大きな家電量販店にも売っていなかった。

その晩、わたしは、彼をわたしの部屋に初めて招いた。
早速、彼からプレゼントされたプレーヤーを、父の形見であるｏｎｋｙｏのプリメインアンプに繋いで、レコードをかける。
父のレコードコレクションの中から、わたしのお気に入りの１枚をかける。

☆Shattered Dreams/Johnny Hates Jazz


今でも鮮明に覚えているその光景、その音楽。
初めての夜。

それなのに、わたしはその全てを何もかも失ってしまった。

わたしが悪かったのだろうか。
そうに違いない。
あんなに幸せだったのに、幸せと気づかない。
その幸せを当然のことと思い、感謝しなかった。
その驕りと傲慢に対して、罰がくだされたのだ。

失って初めて知る大切なもの。

幸せだったあの頃に戻りたい。
叶わぬ夢と判っていても、

わたしの一番欲しいもの。
あの時、あの頃・・・

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この曲を初めて聴いた時の衝撃は、昨日のことのように覚えています。
でも、彼の思い出にも深く繋がっていたために、長く封印していました。
今、あらためて聴くと、やはりその楽曲や歌詞の素晴らしさに、心が震えました。
曲名もアーティスト名も忘れていたし、レコードも失くしてしまっていたので、
探し出すのに、とても時間がかかりました。
彼らは、どうやらこの傑作を生み出して、すぐ解散してしまったようです。
それだけに、２０年近く時間を経て、再び聴くことができたというのは、
素晴らしいことだと思いました。