田中秀臣 『デフレ不況』 ( p.38 )
FRBは量的緩和どころか、さらに積極的な政策「信用緩和」を行っている。日本銀行には、FRBのような使命感もなければ、政策上の枠組みもない、と書かれています。
著者によれば (バーナンキによれば) 、
量的緩和とは、「貨幣」の発行にコミットしていく政策であるのに対し、
信用緩和とは、「資産」の購入にコミットしていく政策である、
ということになります。
たしかに、日本銀行が述べているように、「金融政策によってはデフレは脱出できない」かもしれません。しかし、中央銀行は (経済政策) 研究機関ではないのですから、日本銀行は「なにか手を打つ」姿勢をみせるべきではないかと思います。
もっとも、使命感や枠組みがあっても、トンチンカンなことを続けていては、何にもなりません。そこで、「信用緩和」について考えるに、
「信用緩和」とは要するに、中央銀行が「資産」を抱えるリスクをとることにほかなりませんが、「無限の資金量」をもちうる (すくなくとも近い) 存在は中央銀行のみなので、非常時には「あり」だと思います。中央銀行のバランスシートが悪化してしまうリスクはありますが、国の経済・財政状況が悪化していれば、中央銀行のバランスシートが健全であっても、何にもならないでしょう (「政府の信認と中央銀行の信認」参照 ) 。
というわけで、私も、(経済理論的には疑問があるかもしれないが、経済状況によっては) 量的緩和はもちろん、信用緩和も「行ってよい」と思います。
なお、グールズビーの講演で言及されていた、「クズ債権を本当の価値より高めに買う」ことについては「さすがにどうか」と思いますが、これも「あり」だと考える余地もあること、もちろんです (「バーナンキの方針は変わらない」参照 ) 。
FRBはリーマン・ショック後、次のような非伝統的金融政策を実施しています。
●財務省証券 (アメリカ国債) の買い入れ
二〇〇九年三月、FRBは長期国債を以後半年間で最大三〇〇〇億ドル購入することを決定しています。
●政府関係機関の発行する政府機関債、および住宅ローン担保証券の買い入れ
政府機関債購入枠は当初の一〇〇〇億ドルを最大二〇〇〇億ドルに拡大し、MBS (住宅ローン担保証券) も当初の五〇〇〇億ドルを年内で最大一兆二五〇〇億ドルとし、両方で一兆四五〇〇億ドルまで増額することを決定しました。
●CP、資産担保CPの買い入れ
●各種ローンを担保とする資金供給
資産担保証券のうち、トリプルA格付けの証券を担保として、FRBから資金貸し出しを行っています。
このように従来、FRBが買い入れ対象としなかった証券の買い入れや、それを担保とする資金貸し出しについて、バーナンキは「信用緩和 (credit easing)」と称しました。
これは日本銀行が二〇〇一年に実施した「量的緩和 (quantitative easing)」を意識して、コンセプトの違いを表明した言葉だといえます。
信用緩和は、中央銀行がさまざまな「資産」を購入するという点で、中央銀行のバランスシートの資産項目の膨張にコミットしていく政策といえます。
それに対して量的緩和というのは、中央銀行がそのバランスシートの負債項目である「貨幣」の発行にコミットしていく政策といえるでしょう。
日本銀行の量的緩和政策は、主に一年以内の事実上の短期国債と貨幣との交換を積極的に進めている政策と考えることができるでしょう。短期国債の金利はゼロに近く、貨幣はまた金利がついていない証券とも考えられますから、これでは同じものを相互に交換しているだけで、長めの金利低下には制約が大きいでしょう。
ところが信用緩和の方は長期国債をはじめ、長期、中期、短期とさまざまな長さの資産を購入し、特に長期国債の積極的な購入を進めることで、直接に長めの金利の低下を促し、市場に刺激を与えることを目指しています。
二〇〇九年三月末のFRBのバランスシートを見ると、これら非伝統的金融政策による信用供与は全体の信用供与の約二六%に達しています。同時期の日本銀行の非伝統的金融政策による信用供与が、全体の二・四%にとどまっていることと比べるまでもなく、FRBの大胆な金融緩和姿勢は印象的です。
先にも見たように、ゼロ金利が常態化してからは、日本銀行はもはや新たな緩和策をほとんど行おうとせず、歴代総裁は「金融政策によってはデフレは脱出できない」と公言しています。
しかしバーナンキ理事長は講演のたびに、「FRBは危機に対し、アグレッシブ (攻撃的) に対策を打ってきた」「いまやFRB金利はほぼゼロとなっているが、FRBにはまだこの危機に対して利用できる数多くの政策手段がある」と強調し、「この経済危機に立ち向かうことこそFRBの使命である」と、真っ向から政策責任を背負う構えを見せています。
この両者の、経済危機に対する当事者意識の違いは、どこから生まれてくるのでしょうか。
FRBは「金融財政政策を政府と協調して行っている」という明確な使命感を持っています。またそのための政策上の枠組みもあります。
日本銀行にはそのどちらもありません。
FRBは量的緩和どころか、さらに積極的な政策「信用緩和」を行っている。日本銀行には、FRBのような使命感もなければ、政策上の枠組みもない、と書かれています。
著者によれば (バーナンキによれば) 、
量的緩和とは、「貨幣」の発行にコミットしていく政策であるのに対し、
信用緩和とは、「資産」の購入にコミットしていく政策である、
ということになります。
たしかに、日本銀行が述べているように、「金融政策によってはデフレは脱出できない」かもしれません。しかし、中央銀行は (経済政策) 研究機関ではないのですから、日本銀行は「なにか手を打つ」姿勢をみせるべきではないかと思います。
もっとも、使命感や枠組みがあっても、トンチンカンなことを続けていては、何にもなりません。そこで、「信用緩和」について考えるに、
「信用緩和」とは要するに、中央銀行が「資産」を抱えるリスクをとることにほかなりませんが、「無限の資金量」をもちうる (すくなくとも近い) 存在は中央銀行のみなので、非常時には「あり」だと思います。中央銀行のバランスシートが悪化してしまうリスクはありますが、国の経済・財政状況が悪化していれば、中央銀行のバランスシートが健全であっても、何にもならないでしょう (「政府の信認と中央銀行の信認」参照 ) 。
というわけで、私も、(経済理論的には疑問があるかもしれないが、経済状況によっては) 量的緩和はもちろん、信用緩和も「行ってよい」と思います。
なお、グールズビーの講演で言及されていた、「クズ債権を本当の価値より高めに買う」ことについては「さすがにどうか」と思いますが、これも「あり」だと考える余地もあること、もちろんです (「バーナンキの方針は変わらない」参照 ) 。