MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

コントロンボーン ②

2009-04-07 00:00:06 | 私のオケ仲間たち

04/07       私の音楽仲間 (42) ~

私のオーケストラ仲間たち (19) ~ コントロンボーン ②





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    (2) グリンカの青りんご ~ カマーリンスカヤ ①

    (3) グリンカの青りんご ~ カマーリンスカヤ ②




   私のオーケストラ仲間たち

     (5) 大いなるアンバランス

    (18) コントロンボーン ①




 人数の少ないオケで、「チューバを吹いてみたい」という、
T.N.君の希望、私は頭を抱えました。



 ご存じのとおり、オーケストラの曲の中には、この楽器を
扱ったものは、ごく僅かしかありません。 メンデルスゾーン
やベルリオ(ー)ズ以前には皆無ですし、またそれ以後も、
近代の曲で使われ始めるまでは、ほんの一握りの曲しか
ありません。



 しかも、チューバまであるということは、当然のことながら、
トロンボーンが一緒に、何本か使われているはずです。

 さらにその上、色彩豊かな打楽器陣、また場合によっては
ハープその他、社会人オケでさえ確保が困難な、特殊楽器
が同時に要求されているというのが、ごく一般的な話です。




 でも、"Viola さえ" 一人もおらず、トロンボーンが一人だけ
という、このオーケストラ。 どうやって曲を探せばいいので
しょう。

 そのトロンボーンというのも教授のA先生で、しかも、片方
の肺を切除しながら参加しておられるという、極めて熱意に
満ちた、また若輩の私など足元にも及ばないほど謙虚な、
年配の方でした。




 私は曲を探しました。 チューバがあって、しかも
トロンボーンに出来るだけ負担のかからない曲を。

 当然のことながら、ホルン、トランペットなど、他の
金管も少なくて済む曲。 打楽器はおろか、弦楽器
の動員もそれほど要らない曲。



 もう一つ、困った条件が。 それは、T.N.君はまた
唯一の Contrabass 奏者でもあったという事情…。



 この、矛盾に満ちた逆境。

 案の定、曲はありませんでした。




 私は考えました。

 「弦楽器だってこんな人数しかいないのに、よりによって
チューバなんて…。 Contrabass で参加できるだけで、
充分じゃないか…。」

 そう言って彼を説得するのは簡単です。



 でも、今回駄目だったら、今後、また当てはあるのでしょうか。
社会人オケにでも入れば、また希望が叶えられる機会が、
確実にあるとでもいうのでしょうか。




 私は、何冊か集めたスコアの一つに注目しました。 ただし、
"チューバ" とは書いてありません。 バス・トロンボーンです。

 でも、ほかのトロンボーンは要りません。 他の金管も最小限
で済みます。

 メンバーに負担をかけず、しかも彼の希望を叶えるには、この
曲を "使わせてもらう" しかありませんでした。

 「この時代には、チューバはまだ行き亘っていないはずだ、
特にロシアには。 もし手軽に入手できたら、むしろこちらを
使ったかもしれない。 バス・トロンボーンよりは…」
などと、勝手な想像さえ巡らしました。



 「作曲者さん、ごめんなさい。 そういうわけなので、今回は
赦してください。 指定されたパート、どうしてもチューバで
吹かせたいんです…。」

 それが、グリンカの "カマーリンスカヤ" でした。




 その年の演奏会は11月。 ちなみにほかの曲目は、

   Beethoven : ピアノ協奏曲第4番ト長調、
   Schubert  : 交響曲 『未完成』、
   Bach     : 『主よ、人の望みよ、喜びよ』 (アンコール)

というプログラムでした。




 ちなみに、私がこの曲と接することが出来た機会、それは
今までのもろもろのオケ経験において、ただこの一度しか
ありません。

 また、今回この場で、『カマーリンスカヤ』を中心にして
何度か記すことが出来たのも、このときの経験があった
からで、その上この曲に格別の思い出があったからに
ほかなりません。

 この体験がもし私に無かったら、この曲についてのみ
ならず、"この曲がチ(ャ)ィコーフスキィに与えた影響" など
について、書くことなど無かったかもしれません。

 また、以下のすべてを書く契機となった記事は、
『私のオーケストラ仲間たち』 (5) 大いなるアンバランスです。

   グリンカの管弦楽曲
    (1) 幻想的ワルツ        ~ ほろ苦いプレゼント
    (2) 幻想曲『カマーリンスカヤ』 ~ グリンカの青りんご ①
    (3) 幻想曲『カマーリンスカヤ』 ~ グリンカの青りんご ②

   (ャ)ィコーフスキィ と 『カマーリンスカヤ』
    (1) (ャ)ィコーフスキィ 交響曲第4番 ~ 地下の白樺
    (2) (ャ)ィコーフスキィ 弦楽セレナーデ ~ ピョートル君の青りんご
    (3) 青りんごのタネ




 「歴史に "たら"、"れば" は無い」と言います。 しかし、
もしT.N.君がチューバを吹きたいと言わなかったら…。

 お互い、人生は分からないものです。




 そして、目を閉じると、また浮かんでくるのは、自分が
まったく未熟だったという悔悟の念。 それはこの直後
からも、幾度となく。

 言い訳が許されるならば、これは私にとって最初の経験
だったのです、アマチュア・オケと接した。

 またそれ以上に、自分自身の楽器演奏が余りにも未熟
だったこと。 それはそのまま外部へ流れ出し、少なからぬ
悪影響を周囲に及ぼしたことが、今となって、よく分るのです。




 私は今でも、かつて指導に当たっていた頃の、ほかの
オケのメンバーと、たまに会うことがあります。 中には、
私とほとんど齢 (とし) の変わらない方々も。



 そんなときの私の決まり文句、それは、
昔の学生さんたち、ごめんなさい」です。

 今だったら、もう少しマシな教え方、マシな音楽の楽しみ方
が伝えられるだろうに…。 そんな思いからの、このセリフ、
お分かりいただけるでしょうか。




 私はいつも一人で後悔しながら、自分を励ますのです。

 「どんな名医だって、ヒトの一人は殺している」、そんな
ひどいブラック・ジョークを思い浮かべながら。



 まことにひどい話ですね。 医療関係に携わっておられる
方がおいででしたら、どうぞお赦しください。




 でも、とても赦してもらえないだろうと確信する理由が、
実はもう一つあるのです。

 それは、その団体が、さる医科大のオケだったから…。




 今私は、当時の一人一人の顔を懸命に思い出しながら、
謝っています。 どうか信じてくださいね。

 Violin のA君、D君、S君、Sさん、チェロのA先生、Hさん、
K君、Contrabass のN君、ごめんなさい。

 Flute のT君、そしてクラのM君、特にごめんなさい。

 ホルンのT君、トロンボーンのA先生、ごめんなさい。
おっと、もう一人、チューバのN君、ごめんなさい。

 そしてほかにも、顔は思い出してもどうしても名前が
浮かんでこない、Flute、クラ、トランペットのあの人…。



 聞くところによれば、この中の数人はすでに逝去して
おられるとのこと。 お詫びしようにも、もう出来なくなって
しまいました。




 ちなみにそのオケは、慈恵医大管弦楽団という団体です。

 今日でも盛んに活動しておられるご様子、心からお喜び
申し上げます。




 もう昔の演奏会記録にも記載が無い頃に、ご一緒した私から、
この場を借りて一言お伝えしたかった次第です。

 まことに遅ればせながら…。




 (この項終わり)



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