MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

グリンカの『カマーリンスカヤ』②

2009-04-02 00:09:06 | その他の音楽記事

04/02      グリンカの管弦楽曲 (3)

 グリンカの青りんご ~ 幻想曲『カマーリンスカヤ』 ②





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   (ャ)ィコーフスキィ と 『カマーリンスカヤ』

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    (2) (ャ)ィコーフスキィ 弦楽セレナーデ ~ ピョートル君の青りんご

    (3) (ャ)ィコーフスキィ 交響曲第1番、第2番 ~ 青りんごのタネ




 この曲には二つの主題があること、そして二つ目のものは、

"カマーリンスカヤ" と呼ばれる踊りで、曲全体の名前

にもなっていることを、前回見てきました。




 "カマーリンスカヤ" という言葉ですが、これは形容詞なので、
おそらく、あとに続く "歌" という名詞が省略されたのでしょう。

 さらに由来を調べてみると、もともとは民族舞踊の一つで、
中世ロシアの放浪芸人の、スカローフという人の伝統を継承
したとされる、陽気で活発な踊りなのだそうです。 主導権は
男性が握ることが多く、自由奔放なので、踊りを競い合うため
の舞曲としても知られているそうです。

 なるほど、音源の⑦や⑧からは、その雰囲気が窺えます。




  音源①~⑧は、すべて、バラライカ踊りなどで、

      伝統的、民族的スタイルによる演奏です。



 音源 ① Red Army Ensemble (2'19")



 音源 ② Russian Quartet 6 (3'16")



 音源 ③ Balalaika music Kamarinskaya (3'10")



 音源 ④ Osipov Folk Orchestra 1962 (LP音源 2'45")



 音源 ⑤ Mamouchka 酔ってる歌と演奏 (2'21")   



 音源 ⑥ "Камаринская" - Russian folk dance
         クマさんの踊りつき (1'21")  



 音源 ⑦ Vila i Dance voyage 歌と踊り (0'42")



 音源 ⑧ Russian Christmas folk concert
      in Nizhny Novgorod on January 7, 2009

        -15°C の熱演 (2'47" 中途まで)



 音源 ⑩ RMS Band UIL Recording - Kamarinskaja
                 (3'52")
         ブラス・バンド用に編曲した短縮版です。









 以上は、グリンカが主題として用いた二つの民謡のうち、
"カマーリンスカヤ" の方でした。




 次の音源⑨も、前回ご紹介したものですが、グリンカの
曲の途中から始まります。 まず最初に聞こえてくるのが、
上と同じ、"カマーリンスカヤ" のテーマです。

 ところが、始まってから一分ほどすると、テンポが落ち、
拍子も 2/4 から 3/4 に変わります。

 この音源の 1'17"~1'56" に当たる部分で、これから
ご紹介する第1テーマが再現されている箇所です。



 音源 ⑨ la Orquesta Sinfonica Juvenil de Mexico
                (3'52")
       (音源へのリンクは、この下の方にもあります。)




 音源 ⑪ 演奏と、『グリンカの手記』朗読 (2) (9'15")
       (音源へのリンクは、この下の方にもあります。)

 これは新しくご紹介する音源で、曲は冒頭の部分だけ
(1分半) が入っています。



 まず語りが 4'30" ほどあり、その後でグリンカの幻想曲が、
冒頭から始まります。



 重々しい序奏が 30秒ほど続いた後に聞かれるのが、

第1テーマ部分です。 この音源では 5'00"~6'00" に当たりますが、

"あと10小節" というところで演奏は中断し、語りになってしまいます。





 音源 ⑫ ソヴィエト国立交響楽団による全曲演奏 (7'56")
               (アニメ・フィルム)




 なおそれぞれのテーマは、『婚礼の歌』(第1テーマ)、

  『踊りの歌』(第2テーマ、"カマーリンスカヤ") と

        楽譜に記されています。




 曲全体の構成と、音源⑪、⑨の範囲を示すと、

         以下のようになります。




[Ⅰ] 序奏 (第テーマと関連)
          (遅い 3/4拍子)



[Ⅱ] 第テーマ 『婚礼の歌』




      ↑ ↑  音源 ⑪ (Ⅰの最初 ~ Ⅱの途中まで)




      ↓ ↓  音源 ⑨ (Ⅲの途中 ~ Ⅴの途中まで)


[Ⅲ] 第テーマ 『踊りの歌 "カマーリンスカヤ"』
          (速い 2/4拍子)



[Ⅳ] 第テーマ 『婚礼の歌』
          (遅い 3/4拍子)



[Ⅴ] 第テーマ 『踊りの歌 "カマーリンスカヤ"』
          (速い 2/4拍子)




 ただし、以上は大まかな区切りに過ぎず、実際には二つの
テーマが、至る所で頻繁に絡み合っています。



 民謡では、"主旋律" が登場した後で、よく "合いの手" が
出てきますね。 この曲でもそうなのです。 "カマーリンスカヤ"
の軽やかなテーマが二度、三度と繰り返されるうちに、色々な
合いの手が登場してきます。

 合いの手は、西欧流に言えば対旋律対位法です。



 しかし、これらは決して無関係な合いの手ではありません。
最初は「"単なる合いの手" に過ぎない」と思っていたものが、
聴いているうちに、いつの間にか "第1テーマの変形" した
ものに移り変わっていることに、お気付きになるでしょう。

 逆に言えば、"最初の合いの手" は周到に準備されたもの
で、実は第1テーマが変形を重ねたものだったことになります。



 この手法は、のちにチ(ャ)ィコーフスキィにも受け継がれて
います。




 この第のテーマが初めて登場する部分に、グリンカは
婚礼の歌 "高い山々の彼方から"』と記しています。

 これは農民の結婚歌で、花嫁が自分の家族から離れ、新しい
家に輿入れするときに周囲が歌うものなのだそうです。



 ただ、あるサイトでは、『ゆったりとした婚礼歌「おぐらい森かげ」』
との記述があります。 [ロシア民謡-秘宝の玉手箱2





 さらに別の資料では、二つ目の主題『カマーリンスカヤ』については、
以下のように記されていました。

          「グリンカが用いたロシア民謡、
     『ヤーブラチカ』 ("Яблочко"、小さなリンゴ)。」

 なるほど、上記の一部の音源 (⑤、⑦) では、 "ヤーブラチカ" と
聞き取れるような気もします。




 あるいは、民謡では、一つの旋律に、地方あるいは状況に
よって色々な歌詞が当てられるからかもしれませんね。





 陽気で飛び回るような踊りの歌と、どことなく悲しげな
祝婚歌。 この二つが交代し、またあるときは絡み合い
ながら、曲は流れていきます。

 作曲者はまた、この二つに類似性を感じながら曲を
作ったとも言われています。



 幼い頃、乳母が歌ってくれた民謡の数々。 それを聞いて
育ったグリンカ。 おそらく、この二つも…?

 この曲がワルシャ(ー)ワで完成されたとき、作曲者は40代
半ばになっていました。




 なおこの音源⑩の最初には、(1) 歌劇『皇帝に捧げし命』、

及び (2) 歌劇 『ルスラーンとリュドミーラ』から抜粋された、

オーケストラによる間奏部分が演奏されています。



 この (1) と (2) の間には、

 「"息子" が "ひ弱" だと知らされた父親が、体質改善の
ために多量の水を飲ませるよう医師から薦められ、水質
の良いコーカサスへの旅行を許してくれた」こと、



 「しかし外国旅行だけは認めなかった父に、"体内で
病気が乱舞しており、温暖な場所での治療が不可欠"
と進言してくれた医師がいたお蔭で、ドイツ、そして
念願のイタリアへ旅立てた」こと、



 …などが語られています。




 しかし、楽しい旅立ちを思わせた、曲 (2) の後では、



 「イタリアでの作曲の作業は大きな成果があったものの、
ロシア的な題材を元にして作曲したいという、以前の夢が
忘れられず、再び北へ向かった」

ことが述べられています。 帰国後は、二つのロシア歌劇
が生まれることになります。




 これに次いで (3) 『カマーリンスカヤ』の冒頭が演奏
された後、帰国後に知り合ったマリーア・ペトローヴナ・
イヴァーノヴナと恋に陥る様子が語られます。

 ここで『婚礼の歌』が奏されているのは、その絡みなのでしょうか。



 再び (4) 『ルスラーンとリュドミーラ』からの抜粋が演奏
された後、「一年ほどで結婚に至る」様子が語られます。




 しかし、その語りの様子からは、どことなく悲しい響きが
伝わってこないでしょうか。

 そう、この結婚は悲劇に終わるからです。 三、四年して。
その兆候は早くから出ていたといわれます。




 次回は、この曲とチ(ャ)ィコフースキィとの関連などを見て
みたいと思います。




 (続く)