MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

音の形と sf

2012-07-29 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

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              音の形と sf




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 楽譜といえば、オタマジャクシだらけ。 個々の音符
は、音の高さや長さを表わしており、数学的にはかなり
厳密です。



 また曲や楽章の始まりには、Allegro、Adagio など
速度記号があります。

 音符に比べると、個々の境界は曖昧。 演奏者の
主観に頼る部分が多くなります。




 さらに難しいのが、強弱記号

 f、ff、p、pp などを用いますが、いくら正確に表現しよう
としても、基本的には相対的な次元に止まります。



 もちろん、それは演奏者次第です。 楽譜に書かれた
“f と ff の差”、“p と pp の差” を敏感に嗅ぎ分け、音で
表現できれば、それに越したことはありません。

 たとえば、提示部では pp だったフレーズが、再現部
では p で書かれているような場合。 “時間差攻撃” の
一例です。

 「作曲者の書き間違いなのか? それとも、何か意味
があるのか?」



 答を得るには、譜面全体をよく読むなど、「作曲者の
内面の世界を感じるように努める」…しかありません。

 そしてそれを弾き分けるのは、簡単ではないでしょう。
こうなると “音量” というより、“音色” の差です。




 強弱に関しては、さらに悩ましい記号があります。

スフォルツァンド (sf、sfz)、② フォルツァンド (fz)、

フォルテピアノ (fp)、④ スフォルツァンド ピアノ (sfp)

などです。



 この場では、①と②③と④を同じものと考え、
それぞれ "sf"、"fp" で表わすことにします。




 演奏例の音源は、Beethoven のある弦楽四重奏曲
からのもので、譜例の2小節目からスタートします。

 いきなり fp が出てきますね。 全部で3回。



 「この “f” は、どのぐらいの大きさなのか?」 曲によって
は、これをよく吟味する必要があります。 ここでは、譜例
の前の音楽が “f” なので、一応 “f” と考えていいでしょう。

 以下も、“f は f” のままが自然です。



 ただし問題なのは、「f の後で、ちゃんと p に聞えるか?」
逆に、「“死んだ p” になってしまっていないか?」 また、
不自然に鋭過ぎはしないか?

 解釈は簡単そうでも、技術面の課題は尽きません。

 「Beethoven は mf、mp を書いていない」…という事実も、
頭の隅に入れておかねばなりません。





          ↑

 そして、この “sf” が問題です。 4回出てきますが、演奏者
4人は以下の諸点で、同じ感覚を共有しなければなりません。

 (1) 音の大きさは?

 (2) 重めか? 鋭めか?

 (3) “sfp” と書いてないので、“強いまま” であるべきか?



 色々な解釈があるでしょうが、今回私が心掛けたのは、
次のようなものです。

 (1) あまり大きくなく、強いて言えば “mf” ぐらい。 理由
の一つは、これに “ff” が続くから。 直前も “p” です。

 (2) どちらかと言えば “鋭め”。 音符1つごとに和声が
変わっているから。 ピアノの鍵盤を叩きながら作曲して
いる Beethoven を、私は思い浮かべてしまいます。

 (3) したがって、この “sf” は、音符の頭だけでなく、末尾
も減衰しながら、切り気味に演奏したほうがいいでしょう。
“p” の有無だけを問題にするのではなく、状況から判断
するほうが適切なことが多いようです。




 この “sf” については、音源の中で私が喋っています。

 「(長い音符は) 終りを diminuendo 気味に、弓をリフト
する感じで。」 これ、「弓を止めて短くする」…のでは
ありません。



 さらに、「続く ff (のスタカート) は長めに」…ともお願い
しています。 「短く、鋭いだけでは、ff は表現しにくい」
…と思ったからです。 (ff に限らないのですが…。)



 音のニュアンスの表現は難しいですね。 たとえ、音符
の “高さ、長さ” が正確でも。




 ちなみに曲は、Beethoven の弦楽四重奏曲 ヘ長調、
作品18-1
、その第Ⅰ楽章です。



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