MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

Brahms の "Presto"

2011-10-11 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/11 私の音楽仲間 (318) ~ 私の室内楽仲間たち (291)



            Brahms の "Presto"




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 まず、ピアノ四重奏曲 第1番ト 短調。 次は、えーと、
ピアノ五重奏曲 ヘ短調か…。



 「何やってんの? maru…!」

 やあ、まだ起きてたの? キミ。


 「そうじゃないよ。 キミがちゃんと終了してくれないから
じゃないか。 ずーっと起動中のままなんだよ? ボク!」

 あ、ごめんごめん。 まだキミのプログラム、閉じて
なかったんだね? ソフト君…。



 「何か他に手伝う事、もう無い?」

 いや、楽譜の作成はもう終わったの。 ありがとう。
それでね、今ちょっとブラームスの曲、調べてるんだ。



 「ブラームス? 今度は何だろう…。 解った!
ブラームスの "mf" でしょ!?」

 惜しい! 違うよ、ブラームスの "Presto" なの。




 「Presto、速いテンポで、急速に。 Prestissimo、出来る
だけ速く、極めて急速に。 ともに、英語化してから、すでに
300年以上が経過し…。」

 凄い、さすが。 よく覚えたね。

 「この前、自分で書いてたばかりじゃないか。」

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 「あのときだって、ボク、ずっと見てたんだよ。 チャラン
ポランだったよね? キミ。 だいぶ酔っ払ってた。」

 ……、…。




 「でもブラームスって、とても慎重な人なんでしょ? Presto
なんていうテンポ指示、書いてるのかな…。」

 ボクもね、最初はそう思ったんだ。 一緒に調べてみようか。
作品番号順に見てみる? と言っても、今回は室内楽作品
だけだよ。



 「それで、数はどのぐらいあるの?」

 弦楽四・五・六重奏、ピアノ三・四・五重奏。 それに、
クラリネット三・五重奏、ホルン三重奏があるから、20
曲ぐらいかな…。

 「えっ、そんなにあるの!?」

 それにまだソナタがある。 ピアノ、チェロ、ヴァイオリン、
クラリネットで、10曲だよ。




 最初は Op.25、ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 (1861年)。

 これは、28歳の年。 ちなみに、ブラームスは1833年生まれ
で、64歳になる直前、1897年に亡くなってるの。



 「それ、どんな Presto ?」

 第Ⅳ楽章 RONDO、2/4拍子で、Presto alla Zingarese
はい、翻訳してくれる? ソフト君。

 「速いテンポ、ジプシー風の。」

 これは、音楽そのものが熱狂的だよね。




 次は Op.34、ピアノ五重奏曲 ヘ短調 (1861~64年)。

 第Ⅳ楽章の、最後の部分だけど。 まずは Poco sostenuto、
2/2拍子の序奏があって、Allegro non troppo、2/4拍子になり、
最後が 6/8拍子、Presto, non troppo

 「それほど速過ぎず。」




 Op.36 は、弦楽六重奏曲 第2番 ト長調 (1864~65年)。
第Ⅱ楽章は Allegro non troppo、ト短調、2/4拍子で始まり、
中間部が Presto giocoso。 3/4拍子で、ト長調なの。



 「嬉々として、おどけた Presto…。 あれっ!? でもこれ、
"アガーテ" の曲でしょ?」

 そう。 でも、また元の寂しい音楽が帰って来る。 最後は
"Animato" と書かれ、雪崩を打ったような短調で終るの。

 「そうか。 "裏" があるんだね…。」

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 この後は、しばらく室内楽の作曲から離れていた時期があるの。

 Op.87、ピアノ三重奏曲 第2番 ハ長調 (1880~82年)。

 第Ⅲ楽章が SCHERZO で、Presto、6/8拍子。




 次は、Op.88、弦楽五重奏曲 第1番 ヘ長調 (1882年)。

 第Ⅱ楽章だよ。 最初は "Grave ed appassionato"、3/4拍子で、
長調と短調の間を行き来し、別の短調で終る。

 「ゆっくり重々しく、情熱的に。」

 "Allegro vivace"、6/8拍子のイ長調の部分を挟んで、元の音楽
に戻るんだ。



 するとね、先ほどのイ長調の音楽が、Presto、2/2拍子で軽やか
になって現われるの。 一時は ff まで盛り上がるんだよ。

 最後はまた元の音楽に戻り、最後はイ長調で終るの。

 「"イ長調" には、特別な意味でもあるのかな…。」

 "F" と "A"…。 調べてご覧? ついでに "E" も。



 「何だか、複雑だなぁ。」

 そのせいかどうか、あとは、次の第Ⅲ楽章で終りなんだ。
この楽章も、最後は軽やかな Presto で終るの。

 全体に、とっても手の込んだ音楽に聞えるんだ。 だから、
こういう軽やかな部分が無いと、バランスが取れないのかも
しれないね。

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 「これで、50歳を越したよ、ブラームス。」



 Op.101 は、ピアノ三重奏曲 第3番 ハ短調 (1886年)。

 第Ⅱ楽章が、Presto non assai、2/2拍子。



 「また 2/2拍子なの?」

 うん。 でも音楽は p で、弦楽器には弱音器まで要求
している、不思議な楽章だよ。




 Op.108、ヴァイオリン ソナタ 第3番 ニ短調 (1886年)。

 第Ⅲ楽章、Un poco presto e con sentimento、2/4拍子。
 第Ⅳ楽章、Presto agitato、6/8拍子。

 「Ⅲ、テンポは速めに、意識を保ち、慎重に。
  Ⅳ、速いテンポで、動揺、興奮して。」

 うん、はっきり違うんだ。 ⅢとⅣの Presto は。



 「Presto は、ソナタでは初めて出て来たの? この後は、
Op.120-1、2 の、クラリネット ソナタ (1894年) になるよ?」

 どこにも無いんだ、Presto は。 2曲のチェロ ソナタには
もちろん無いし、初期のピアノ ソナタ 3曲 (1852~53年) も
そうなの。 意外でしょ? 3つの弦楽四重奏 (1865~75年)
にも、やっぱり無いんだ。




 Op.111、弦楽五重奏曲 第2番 ト長調 (1890年)。

 第Ⅳ楽章、Vivace ma non troppo presto、2/4拍子。
これは、"速過ぎず" という意味で使われてるね。




 クラリネット五重奏曲 ロ短調 Op.115 (1891年)。 これが
最後の室内楽作品だよ。

 第Ⅲ楽章は 4/4拍子、Andantino。 ゆっくりめに始まると、
2/4拍子、Presto non assai, ma con sentimento …に
変わり、そのまま終るんだ。



 「多少速め、しかし意識を保ち、慎重に。 何だ? これ!」

 先ほどは "un poco presto"。 ここでは "poco presto" と
書きたかったんじゃないかな、本当は。 でも、それじゃ幾ら
何でも伝わりにくいよね、自分の意図が。



 「…これだって、"充分" 伝わりにくいよ…。」

 そう言えば、"充分" っていう意味だったね、"assai" は。




 「それ、実際はどういうテンポで演奏すればいいの?」

 楽章はゆっくり始まるから、軽やかでスピード感が無いと
いけないよね。 気分は、完全に吹っ切れてないと。

 でも、あまり滅茶苦茶に速くされると、困るんじゃないかな、
作曲者としては。 客観的に自分を捉える余裕が大事なん
だろうね。 …そういう安定感のあるテンポだよ。



 「難しいな、ボクには…。 そう言えば、この曲、最近
やったんでしょ?」

 やったことはやったけど…。 音源は聞かせないよ。

 「演奏家なら、どんなテンポか聞かせてくれればいいのに…。
じゃ、ボクが代わりに演奏してあげるから、その部分のスコア、
見せてくれる?」

 いいよ…。




 「でも、どうしてブラームスさん、若い頃よりたくさん書いた
のかな? Presto の指示。 室内楽では。」

 どうしても "身軽な音楽" を書きたくなって、しかも的確に
伝えたいと思ったんじゃないかな。 どう見ても "興奮する
Presto" じゃないもんね、晩年の "Presto" は。 唯一の
例外は、Op.108 のソナタだけど。

 「それでも、慎重な姿勢は崩さないんだなぁ、彼は。」

 …ソフト君、鋭いね! ボクもそう感じるよ。




        第Ⅲ楽章 後半部分の演奏例]

            (談笑の声が入っています)




 ソフト君!? でもこの音源、どうして "談笑の声" が入って
いるの?

 それに聞き覚えがあるよ、これ…。 編集までしてあるぞ!

 「…、エヘへ…。」



 ひどいよ、ひどいよ…。



 「クラリネットは K.さん、Violin は maru と O.さん
Viola が C.S.さん、チェロ Y.さんでした。」

 「一度だけ通したときのもので、しかも初対面の演奏
だから、赦してあげてね?」





 「こちらは、ちゃんとした音源サイトです。」

 …、…。



     [音源サイト    [音源サイト