MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

La Valse ⑤ なかまとワルツを

2009-04-24 03:38:15 | その他の音楽記事

04/24      La Valse ⑤ なかまとワルツを




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     ラ・ヴァルス

   ① みんなでワルツを
   ② ふたりでワルツを
   ③ ひとりでワルツを
   ④ みんなにめまいを
   ⑤ なかまとワルツを
   ⑥ ワルツといったら
   ⑦ わたしのめまいを





 「私は、ウィンナ・ワルツのアポテオーズとしてこの曲を
書いた」、ラヴェルはそう記しています。

 辞書によれば、"アポテオーズ" は「神にまつること、極度
の崇敬、讃仰」とあります。 ラヴェルの言葉を信じるならば、
彼が身を低くしてワルツを讃美しているのは明らかです。




 アルフレード・カゼッラというイタリアの音楽家をご存じで
しょうか。 ラヴェルとも親交があった、8歳年下の作曲家は、
この曲の構成を次のように解釈しています。 そして作曲者
自身も、これを認めたそうです。



 (1) ワルツの誕生

 (2) ワルツの主部

 (3) ワルツのアポテオーズ



 これらが具体的にどの範囲なのかは不明ですが、おそらく



 (1) 約2分半、[B (まばゆいシャンデリア) の後の [18] まで

 (2) 約5分間、練習番号 [54] まで

 (3) 約4分間、最後まで



を指すと思われます。




 曲の冒頭に現れた "半音のぶつかり" は、やがて長2度、
短3度、長3度と広がり、雲は晴れ、明るくなります。

 また曲が進むに連れて、メロディーの中の "音程の跳躍"
も増し、踊りのステップは広くなっていきます。



 印象的なテーマの一つに、"Si  La#    Si C#"
という、四つの音から始まるものがあります。






 音程は、"半音"、"半音"、"下降7度" ですが、この "7度"
の部分が、ついに "オクターブ" にまで広がる箇所があります。
それは曲のちょうど中ほどで、上記で言えば (2) ワルツの主部
の後半に当たる部分です。



   




 全オーケストラで四回も繰り返される、このオクターブの跳躍。
第九 (BEETHOVEN) のⅡ楽章のようだ」と、 (ふたりでワルツを)
の回で私が書いた箇所です。




 彼がここで何を意図しているのかは解りません。 しかし
それまでに、2度、3度、4度など、様々な音程が現れて
いました。

 それら "音程という素材" の "おおトリ" として登場した、この
下降8度。 これを "記念碑" 的 (monumental) に扱いたいと、
もし作曲者が考えたとすれば、その心情は充分に解るような
気がします。

 もちろん Beethoven とワルツとは、直接の関連は無いでしょう。
しかしオーケストラに携わる者が、この "La  ↓ La La " という、
音程もリズムも同じ動きを聞けば、どうしても『第九』 を連想せざる
を得ないのです。



 ラヴェルがもし、ヴィーンとゆかりのある Beethoven に何らか
の敬意を表しているならば、ヴィーンの人々の "三拍子好き" を、
彼は充分承知していたに違いありません。 それに、『第九』の
初演の際、この第Ⅱ楽章だけが三度、四度とアンコールされた
ことも。




 このすぐ後に、(2) ワルツの主部の中でもっとも長い "山道" が
あります。 そこで初めて登場し、40小節間に亘って活躍するのは、
次のワルツ・テーマです。 オクターブの跳躍にもご注目ください。







 このテーマは36小節をかけて、長いクレシェンドを形作って
います。



 これを聞いてどうしても連想してしまうのは、次の曲です。
Beethoven から、時代はだいぶ跳んでしまいます。







 これは、リヒャルト・シュトラウスの歌劇『ばらの騎士』の
有名なワルツで、譜例は第二幕の最後の部分です。

 二つの八分音符の間の音程は、まず6度に始まり、以後、
4度から8度の間を行き来しています。

 これに対してラヴェルの曲では、ほとんど常に6度です。

 しかし両者のリズムの形はそっくりですし、また執拗に反復
される点も似ています。



 こちらのシュトラウスは、ご存じのとおりヨーハン、ヨーゼフの一家
とは全然関係が無く、ミュンヘンに生まれた、ドイツの作曲家です。

 歌劇の作曲年代は1909年から1910年にかけてで、"La Valse"
の作られる10年ほど前に当たります。 初演は大成功で、以来、
今日に至るまでヴィーンの人気歌劇となっています。


 歌劇の舞台は18世紀のヴィーン。 上記のスコアには、「二つの
八分音符を、とろけるようなヴィーン風グリサンドで終始」弾くように
との指示が見られます。




 音源中の数字は "分・秒" で、上の譜例の部分が始まる
箇所です。



Rosenkavalier; Genève; Act II Finale 2nd Part;
    Ochs: Markus Hollop - "Ohne mich...."

      4'40"



Richard Strauss - Der Rosenkavalier - Fantasie part 1
  Wiener Philarmoniker Conductor:Herbert Von Karajan

      7'00"



Rosenkavalier-Suite, Op.145 - Waltz
   (Schönbrunn 2008 Prêtre)

  Wiener Philharmoniker Georges Prêtre

      4'20"




 "La Valse" の音源は、



オーケストラ版 ⇒ La Valse ① みんなでワルツを

4手ピアノ版   ⇒ La Valse ② ふたりでワルツを

2手ピアノ版   ⇒ La Valse ③ ひとりでワルツを



をそれぞれご覧ください。




 今回は、(2) ワルツの主部の中で、私には BEETHOVEN や
R.STRAUSS に聞こえる部分について記しました。

 作曲者の真意は不明ですが、もしこれらが何らかの引用
であるとすれば、風刺などとはまったく思えず、ましてや盗作
などでは絶対にあり得ません。 少なくとも何らかの敬意の
念が込められているのは明らかです。




 記す内容もそろそろ尽きてきました。 これで "一件落着"
となれば私も楽なのですが、どうもそうは行かないようです。
やはり、(3) "アポテオーズ" の部分がどうしても気になる
のです。

 前回触れた "音の濁り" は、彼の計算どおりなのか、
それとも外からの影響なのか…。




 「何だ、"ラヴェルは時代の影響を受けていない" と、前回
自分で言ったばかりだろう!」 そうお叱りを受けそうですね。

 はい、彼は "外からの影響を受けにくい" タイプであるばかり
か、努めて "影響を受けないように" 生きた音楽家ではないか、
私はそう考えています。



 そうなると、あとは外から見えない、彼の "内部の" 問題に
なりますね。 まったく想像の域を出ないので、どんなことに
なってしまうのか心配です。 




 (続く)