MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

La Valse ① みんなでワルツを

2009-04-20 01:03:49 | その他の音楽記事

04/20      La Valse ① みんなでワルツを




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   雲の渦巻く中に、かすかに見えるのは、ワルツを
  舞うカップルたち。 雲が少しずつ散っていくと、


   [] 実はそれは巨大なダンス・ホール。
  ぐるぐる旋回する、おびただしい数の人々。




   場面はどんどん明るくなる。

   [シャンデリアの光はffで輝く。



   1855年頃の宮廷。




 モーリス・ラヴェルは、ラ・ヴァルスの楽譜の見出しに、
こう記しています。

 []、[]の活字も、このまま文中に書かれており、さらに
楽譜中にも、練習番号の⑨、⑰の箇所に、それぞれ印刷
されています。



 "La Valse" はもちろんワルツのことで、彼はウィンナ・ワルツ
の大の讃美者でした。 題名も当初は『ウィーン』を考えていた
ほどだと言われています。

 依頼したのは、かのディアギレフです。 それは二人が初めて
顔を合わせた、1909年5月のことだったといいますから、ちょうど
100年前になりますね。

 ただし曲の完成はだいぶ後で、1920年12月にパリで初演
されています。 またバレェ音楽としての初演はさらに遅く、
1929年5月になってからのことで、ディアギレフとラヴェルの
間に行き違いが色々あったからだと言われています。



 作曲者はこの曲を『舞踊詩 (Poeme choregraphique)』と
名付けています。 "舞踊音楽" ではなく…。




 下記の音源では、番号の若い、上のものほどテンポが速く、
下へ行くに連れて遅めになります。



 また、ご覧の数字 (分・秒) は、作曲者が記した

] ダンス会場、舞踊る人々、

] シャンデリアのまばゆい光

の、音源中での場所です。




① 演奏者不明

    (1)  A: 1'13"、 B: 2'24"

    (2)




② Simon Rattle, BPO

    (1)  A: 1'36"、 B: 2'57"

    (2)




③ Charles Dutoit; Montreal Symphony Orchestra.

    (1)  A: 1'12"、 B: 2'35"

    (2)




④ Rene Leibowitz conducts The Orchestre de la Societe
      des Concerts Symphonique de Paris (1960)


    (1)  A: 1'12"、 B: 2'32"

    (2)




⑤ Orchestre de la Suisse Romande
      / Armin Jordan (1987)


    (1)  A: 1'11"、 B: 2'33"

    (2)




⑥ 管弦楽の為の舞踏詩 「ラ・ヴァルス」1977年
      亜細亜大学吹奏楽部
(短縮版)

        A: 1'28"、 B: 2'52"







 以下は曲の一部だけが聞かれる音源です。



⑦ The Philharmonia Orchestra
    conducted by Igor Markevitch


        A: 0'12、 B: 1'29"




⑧ London Philharmonic Orchestra
    conducted by Yannick Nézet-Séguin


        B: 0'19"




⑨ Gary Bertini conducts
    Cologne Radio Symphony Orchestra


    後半の 4'24" 間




⑩ Bernstein Dancing

    最後の 2'35" 間




 上記の音源、

④ではルネ・レイボヴィッツ
⑦ではイーゴリ・マルケーヴィチの名前が見られます。



 ルネ・レイボヴィッツはユダヤ系ポーランド人、パリで活躍した音楽家で、
ラヴェルの弟子に当たります。 各方面の理論書も、極めてたくさん残して
います。



 イーゴリ・マルケーヴィチはご存じの方も多いでしょう。 ウクライナ生まれ
の作曲家、指揮者で、何度も来日し、日本フィルなどを指揮しています。

 私自身も某オケ在団中に、自作からなる演奏会を指揮される姿に接し
ました。 口の悪い仲間が "鶏のガラ" と呼んだほど痩せておられ、我々
も体調が気がかりでしたが、温かい態度で誠実に音楽作りをされる様子
に心を打たれました。 ところが日本を離れた直後に亡くなられてしまい、
「きっと俺たちのせいだ…」、そう言い合ったのを思い出します。





 ラヴェルがウィンナ・ワルツを讃えて作ったといわれる、
この曲。



 作曲者の言葉には、「旋回する人々」という字句も見られ
ますが、私自身も聴いていると目が回ってしまい、まるで
悪酔いしそうな感じにさえなります。 舞踏会に付き物の、
シャンパン、ワインというよりは、濁り酒で二日酔い…、と
いったところでしょうか。

 ウィンナ・ワルツと言えば、もっとすっきり、単純に耳に
快いものだ、そう期待するのが普通でしょう。 しかし、
先へ進めば進むほど、曲には "しがらみ" が纏わりつき、
不自由になるような観があります。

 これは一体なぜなのでしょうか。



 曲がこのようなものになった原因として、よく指摘される
のは、「1855年のオーストリア帝室の、爛熟、崩壊寸前の
姿」、「第一次大戦直後の不安・無力・焦燥感」などです。

 それらは史的真実であり、また作曲者も体験した、時代
の雰囲気であり、否定は出来ません。

 しかし、本当にそれだけなのでしょうか? 彼の音楽観、
あるいは彼自身がそこに顕われている…というようなこと
は考えられないのでしょうか。



 また、この曲が "舞踊音楽" ではなく、舞踊詩『ラ・ヴァルス』
と記されているのは、なぜなのでしょうか?




 もう一つの私の疑問。 それは、まるで場違いなことなの
ですが…。 曲の中ほどに、"第九" (BEETHOVEN) の第Ⅱ
楽章冒頭のモティーフが出てきますよね…。

 「ラ―っ ラ ラ 」とオクターブ下がる、あの形です。 もちろん、
同じ3/4拍子で。

 練習番号38番。 木管、弦の全員、ホルン、ティンパニで。
それも四回も…。



 考えすぎでしょうか…?




 (続く)



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   ⑥ ワルツといったら
   ⑦ わたしのめまいを