MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

無理が通れば道理引っ込む

2014-08-21 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

08/21 私の音楽仲間 (605) ~ 私の室内楽仲間たち (578)



          無理が通れば道理引っ込む


         これまでの 『私の室内楽仲間たち』


 

 続く第Ⅳ楽章は、Violin の軽やかな動きで始まります。
曲は、シューマンの弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 で、
パート譜では次のように書かれています。

 “♩=126” と指定されていますが、例によって若干
遅いテンポで始めました。 とは言うものの、正確に、
そして軽やかに弾くのは、かなり大変です。 3人の
仲間の協力が無くては出来ません。



 (みんな、着いて来てくれるといいんだけどな~。 もし
合わなかったら、どうしよう…。)

 そんな心配を抱きながら始めたところ、やはり大変な
ことになってしまいました。 その際の音源です。

 

 お聞きいただいて、他の3パートがどういう動きをしているか?
おそらくお解りにならないでしょう。 曲をご存じない限りは…。

 私は弾きながら悩みました。

 (とんでもないことになったぞ! 今すぐ止めて、原因
を徹底的に直そうか? でも始めたばかりだしな…。)


 そこで私は、前回と同じように、止めずにそのまま行く
ことにしました。

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 (とにかくもう少し辛抱して、この先の “繰り返し記号” まで
頑張ろうか。 そうしたら、もう一度頭の部分に戻れるからね。
何度も出て来る形だし、そのうち合うかもしれない…。)


 しかし実際はそうなりませんでした。 チェロのXさんが、
この後、すぐ止めたからです。

 「テンポが速すぎる。 小節の頭にアクセントを付けて
弾いてもらわないと、テンポがつかめない。」


 それが、Xさんの言い分でした。

 私は唖然としましたが、とにかく注文どおりに
努力してみることにしました


 私がなぜ呆れてしまったか。 だってこの部分は、次のように
書かれているから…。 同じ音源です。

 以下は技術的解説が続くので、適当に読み飛ばしてください。

 

 

 お聞きのとおり、“音符 ” の食い付きが、あまりにも遅い。
原因は、“音符 ” が、後半になっても音が重いままだから
です。 こうなると、2拍目 (八分休符) を意識するタイミング
も遅れやすい。

 “音符 ” も同じことが言えるので、続き2拍目の意識が
遅れます。 また “音符 ” は、同じ八分音符でも、さらに
軽く弾く必要がある。 そうしないと、次の音符が遅れる。

 小節線を跨いで音符が二つあるわけですが、このような
パターンのリズムは、すべて同じ結果になっています。

 

 上の[譜例]には、“>” の記号が書き込んでありますね。 
これは音の軽さ、弓の圧力を “減らす” 意識を表わしたもの
で、こうしないと、このリズムは正確に弾けないのです。

 別の表現をすれば、【音を抜く】ということ。 ところがXさん
は、音符の最後まで〔重い音のまま〕弾こうとしているので、
これが、正確なテンポ感を狂わせてしまっているのです。


 問題は、〔私のテンポが速い〕のではない。 Xさん
の【リズムが、したがってテンポも不正確】なのです。

 「拍の頭に弓でアクセントを付けて弾け。」…なんて、
とんでもない! (長く弾け…なら、まだ解りますが。)

 これは、拍ごとにリズムを “ガチガチ” 刻むような
音楽ではない。 そんな “引っ掻く” ような弾き方は
避けるべきで、少なくとも Violin の2小節フレーズ
感じながら、流れに乗る必要があります。

 

 音を出す前に、私が「ワン、トゥー」…と言っているの
は、何のためか、お解りでしょう。 それでもテンポに
乗れないなんて、私には信じられません。

 〔聴いて一音符ずつ合わせる〕のではなく、むしろ
自分が半分リードしながら、確認のために Vn.Ⅰを
聞く。 そう表現したほうが的確でしょう。


 とにかくここでは、チェロには Vn.Ⅰに寄り添って
もらわねばなりません。 もし私が、理不尽にテンポ
を揺らしているのでなければ。

 あとのお二人、Yさん、Zさんは、この日は本当に
お気の毒でした。 外声がリズム、テンポの骨格を
作ってくれなければ、どうしようもないからです。


 全員の努力は、この後も続きました。 しかし結果
的には、ほとんど進歩は見られませんでした。

 この後の模様の音源です。 私の右手も左手も、
さらにヨレヨレになっています。 もう拷問に近い。

 (アンサンブルなんか、やらなきゃよかった…。)
そう感じたほどですから。

 



 Xさん。 貴方がこんなブログを覘くことはないでしょうが、
もしご覧になったときのことを考えて、少し書かせてもらい
ますね。 勝手なことを申し上げましたが、私にも確かに
謝ることがあります。 「ゆっくり弾け」と言われたのに、
どうしても最初のテンポに戻ってしまったことです。

 そのことについては、あのときみんなの前で頭を下げて
謝りましたよね? でもね、やらされればやらされるほど、
焦ってしまうものなんです。 それも、あんなリズムでは。


 それに、ちょっと考えてみてください。 これ、私には簡単
なパッセジではないので何度もさらいました。 その結果、
この音楽を表現するのに “一番弾きやすいテンポ”…という
と、あのぐらいになってしまうのです。

 これがもし、「自分には速すぎてリズムが入れられない、
頼むから少しゆっくり弾いてくれ」…というなら、また話は
別です。 “その練習” のつもりで、自分も弾きますから。

 しかし貴方の言い方は一方的で、いわゆる “上から
目線” です。 「悪いのは私の Violin だけだ」…としか
聞こえません。



 余談ですが、聖書には以下のような句があります。


 〔さばいてはいけません。さばかれないためです。

 あなたがたがさばくとおりに、あなたがたもさばか
れ、あなたがたが量るとおりに、あなたがたも量ら
れるからです。

 また、なぜあなたは、兄弟の目の中のちりに目を
つけるが、自分の目の中の梁には気がつかないの
ですか。

 兄弟に向かって、『あなたの目のちりを取らせて
ください。』などとどうして言うのですか。 見なさい、
自分の目には梁があるではありませんか。

 まず自分の目から梁を取りのけなさい。 そう
すれば、はっきり見えて、兄弟の目からも、ちり
を取り除くことができます。


 こんなことを書いたのは、貴方に気付いてほしいから
です。 私がゆっくり弾けなかったことと、貴方のリズム
が悪かったことと、どちらが重大だと思いますか?

 



 「そんなことなら、なぜその場で指摘してくれなかったのか?

 もしそうおっしゃるのなら…。

 私が言い返したら、ただ弁解しただけだと貴方は思うに
決まっているし、全体が気まずい雰囲気になるだろう…
感じたからです。その意味では、“先に言った者が勝ち
なんです。 たとえ内容が誤りでも。


 それに貴方は普段から、少なくとも私の言うことに
は耳を傾けてくれないから。

 演奏が中断したときに、ときどき幾つか提言
をさせてもらっているが、貴方はそんなとき、いつも
チューニングをしたり、何かしら音を出している。
貴方だけですよ、そんなふうに人を無視するのは。
これ、俗に “傍若無人” と言われる態度です。

 ちなみに、そのときの “音の出し方” は、いつも
同じです。 低音を何度も短く弾きながら、弓と弦
の “引っ掛かり” を確認している。 圧力の大きい
弾き方なので、(ちょっとまずいな…)と私は感じて
います。

 これは、今回の事件にも大いに関係しているから
です。 ご自分の好きな感触だけで、すべての音楽
を処理しようとすると、テンポ感まで狂うのですよ?
音それぞれには、相応の重さや軽さが必要です。

 あるときなどは、鼻でせせら笑われたことがあり
ましたね。 他愛の無い雑談のときでしたが、話題
が気に入りませんでしたか?

 

 そんな貴方に対して、「リズムが悪い原因は…」などと私が
口にすることが出来ると思いますか? いくら丁重に言葉を
選んだとしても。 おそらく喧嘩別れになり、演奏など続ける
雰囲気ではなくなったでしょう。 私はそれを避けたのです。

 ちなみに、貴方に対して気付いたことを口にしたのは、
一回しかありません。 もちろん、何の曲の、どの箇所か
も覚えています。 そのときは、何度やっても同じように
聞こえたので、最後に一度だけ指摘させてもらいました。
失礼にならないよう、表現には気を遣ったつもりです。



 今回は、貴方に悪意があって “私を虐めた”…とは思って
いません。 〔貴方が気付いていなかったから。〕 原因は
ただそれだけです。 “そうでない解釈” も可能ですが。


 口を開くタイミングって、本当に難しいですね。 思ったら
すぐ口にするんじゃなくて、その前に色々考えることがある
はずだから。

 「今言うべきかどうか。 自分はこう思うが、本当にそれで
正しいのか? 頭ごなしに言うのでなく、ちゃんと対等な形で
表現できるか? 相手を傷つけることになりはしないか?
…などなどです。 要するに、発言の前の “自己吟味” です。


 アンサンブルには技術も必要でしょうが、根本は “相手の
言うことを聞き、音に合わせてあげること” です。 貴方が
それをしていない…などとは言っていません。 それは今
まで何度もご一緒した際に、よく理解しているつもりです。

 でも貴方は、絶対に譲ってくれないことも多い。 貴方の
言葉を借りれば、「こちらは十六分音符の連続で動けない
から、全員これに合わせてくれなければ困る」…です。


 でも今回は、私が “その立場” だった…とはお考えになりま
んか? 技術的にも余裕が無い箇所なんです。 もちろん、
『建前と現実が違う』ことだってあるから、たとえ自分は十六分
音符ばかり弾いていても、相手に合わせてあげることだって
幾らでもあるんですが。

 でも、もし自分が遅いテンで弾けたにしても、違うリズム
弾く貴方に合わせる余裕など、ありません。

 



 この曲ではないが、いつか貴方とやった曲がありましたね。

 Beethoven の作品132 ですが、問題の箇所は、ここでした。



 Vn.Ⅰ以外は、3人でリズムを刻んでいますね。 この前にも
同じような箇所がありましたが、そのときも弾きにくかったので、
この楽章を二回目に通したとき、次のように頼みました。

 「直前と同じテンポで弾きたいが、いつもここから急に重くなる
ので、やりにくい。 同じテンポにしてください。」


 するとあるかたが、次のように答えました。

 「テンポが前へ行かないように、ブレーキをかけています。」


 …それじゃ困るよ! 〔急にテンポが重くなりやすい形だ〕…と
いうことに、気付いていない。 タッチの軽い音が必要なんです。
このとき答えたのは、貴方ではありませんが。

 〔私が突然急いだ〕…と言うなら、まだ解りますが。 ここはね、
速くされても遅くされても弾けなくなり、止まってしまうかどうか…
というほどの難所なんです。 頼むから合わせてよ…。


 この曲、ちなみに先日、別のチェロのかたとやりました。
そのときは、(えっ! こんなに簡単に弾けちゃうの?)…
と自分で驚くほど、スムーズに弾くことができましたよ。

 もちろんお上手なかたです。 でも多分、「Xさん? とても
じゃないけど、私など及びません。」…と答えることでしょう。
そういう謙虚なかたなんです。

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 上手で自信家であるほど、合わせてくれないものなんで
しょうか? 

 とにかく、今のままでは、貴方とご一緒するのは怖い。
しばらくご遠慮させていただこうと思っています。

 〔貴方が私を人間として対等に扱ってくれる〕…と感じ
られるまでは。

 



        音源ページ






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