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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

みんな酔っ払い

2014-10-30 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/30 私の音楽仲間 (629) ~ 私の室内楽仲間たち (602)



              みんな酔っ払い



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 ここは野外のビアガーデン。 見上げると、アルプスの峰々

が、彼方遠くまで連なっている。 山の向うは、もうイタリアさ。

 おや? 聞こえて来るのは、楽師の奏でる調べ。 どうやら
レントラーのようだぞ。


 周りは森と緑の草原。 自然の懐に抱かれて、気分は最高。
いつしか酔いも回るんだよね。 開放的なこと、この上ない



 演奏している楽師たちは、ここからよく見えるよ。 1、2、3…。
我々と同じ五人組だな。 お、一人が立ち上がったぞ。 こちら
を向いて何か力説している。

 「これは Mozart の最後の弦楽五重奏曲 変ホ長調 K614 で、
第Ⅲ楽章 メヌエットのトリオの部分だ。 憐虎ーではない。



 なんでもいいじゃないか。 そんなこと、こちトラには関係
無い。 さっさと演奏を続けろ。

 どちらにせよ、音楽はレントラーにそっくりじゃないか!
うるさい人間もいたものだ。

 まあ考えてみれば憐れなものさ。 こっちはいい気分な
のに、ヤツらは仕事中。 飲むわけにゃ行かんもんね。


 でも可哀そうだから、ほら、差し入れに一杯持って来て
やったぜ。 さあ、楽器なんか置いて、この大ジョッキを
一気にやってみろよ。

 ……え? そんな必要、無い??


 もう酔っ払ってるんだってさ。 これ以上指がもつれると、
どうしようもないからな…。 ほらほら、楽器を落とすよ!

 何? 特殊な構え方をしているから、手を離しても楽器
は落ちない? 酔っ払いめ、わけの解らんことを口走り
やがって。


 とうとう弾くのを止めちゃったよ。 今度はスコアを見ろ
って? そんなに乱暴に楽譜を叩いたら、弓が折れる
ぞ。 なに、そのぐらいじゃ折れない? この近くに工場
があって、そこで出来た? なんだ、それ。

 

 ロレツの回らない口で、よく喋るものだ。

    ↓             ↓

    ↑             ↑

 最初に現われる【Si♭ La♭ Sol】、【La♭ Sol Fa
のような3音符の形は、第Ⅰ、第Ⅳ楽章の冒頭でも
聞こえる…と言ってるらしい

 


 

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 それは解ったよ。 だから?

 「……。 ………。」

 あ、そう。 はいはい。


 なんでもメヌエットの終わりには、これと反対に “上へ向かう”
形がチェロに、そして Viola にも出てくるらしい。

 最初の譜例には、その最後の部分が見られる…んだってさ。

                   ↓


 …あ~あ、せっかくいい気分だったのに、酔いが醒めちゃったよ。


 何? こういう話を、もっと一緒に続けないか…って?
冗談じゃないよ! こっちは仲間と楽しくやってるんだ。


 じゃあ、みんなで一緒に着いて行く…って? さっきの
お礼に、大ジョッキを一人2杯の10杯分、振る舞うから?
計算だけは正確だね。

 ……う~ん、そう来たか…。 悪くないな…。

 




      [音源ページ ]  [音源ページ




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              疾走する Mozart … など

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              呼び交わすニ長調 など

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              興醒めは得意さ
              みんな酔っ払い
              どっちでもないさ
              過剰な負担を強いるな




興醒めは得意さ

2014-10-28 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/28 私の音楽仲間 (628) ~ 私の室内楽仲間たち (601)



              興醒めは得意さ



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 Mozart の最後の室内楽曲は、弦楽五重奏曲でした。

 変ホ長調 K614ですが、その第Ⅱ楽章は不思議な
形で書かれています。 全体は大きな三部形式ですが、

変奏曲、あるいはロンドに見えないこともありません。


 晩年の “自由な境地” でしょうか。

 といっても、35歳ですね…。



 [譜例]は、この第Ⅱ楽章の Vn.Ⅰのパート譜です。

変ロ長調テーマが、ゆったりと2拍子で始まります。




 演奏例の音源]は、この少し後の箇所です。

 Violin は私、M.さん、Viola W.さんSa.さん、チェロ M.さん

 主題の提示に続く、エピソードふうの部分に当ります。


 6小節が経過し、次の譜例に入ります。 すると
今度は、テーマをVn.Ⅱが歌い始めます。           ↓

                                    ↓


 これに纏わり付くのは、Vn.Ⅰ。 身のこなしの、なんと
自由で軽やかなことか! 弾いていても痺れるほどです。


 「この動きから連想するのは、男性か、女性か?」

 もしそう訊かれたら、貴方は何とお答えになりますか?


 私なら、もちろん “女性です”…と答えるな

 もし、こんなふうに纏わりつかれたら痺れちゃう…!


 …夢の、また夢。 言うだけはタダです。

 



 ところで、この自由な動き。 よく見ると…。

 先ほどの[譜例]にを入れてみました。



 すぐ下の Vn.Ⅱと見比べてください。

 Si♭ - La、Re - Do、……。 同じ音で動いているだけです。
オクターヴ上で。


 とは言いながら、もちろん “並行8度” ではありません。

 もし同時に動いたら、和声学の初歩的な違反になる。
タイミングが微妙にズレているだけです。

 しかも、同じ音で動いている…とは気付きにくい。


 作曲家たちにとっては初歩的な手法なのでしょうが、
ただただ感嘆するのみです。

 



 さて[譜例]には、塗り絵もう一箇所ありますね。


    

 この第Ⅱ楽章のテーマの、中心的な形です。

 



 そこで次の2つの[譜例]をご覧ください。 既出のものです。

          関連記事 変ホ長調の輪


 まず第Ⅰ楽章の冒頭です。



 そして第Ⅳ楽章です。



 ともに下降。 音の向きこそ今回とは違いますが、素材的
には同じものですね。

 ちなみに今回の第Ⅱ楽章にも、“下降” の形が出てきます。



 …ああ……。 せっかく美女に纏わりつかれたというのに…。

 X線透視したら、骨しか見えない。


 こういうのを “興醒め” といいます。





      [音源ページ ]  [音源ページ




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沈黙は禁

2014-10-22 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/22 私の音楽仲間 (627) ~ 私の室内楽仲間たち (600)



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                    沈黙は禁



 譜例は、Beethoven の弦楽四重奏曲 ハ短調 作品 18-4
から第Ⅳ楽章の冒頭です。 いきなり Vn.Ⅰが、最初のテーマ
弾き始めます。

 演奏例の音源]も、譜例の最初からスタートします。


 譜例には、○で囲んだ部分が3箇所ありますね。

 【3つの分音符 + 長い音符】です。 第Ⅰ、第Ⅱ
楽章では 分音符が3つ” でしたが。

関連記事 神業も第一歩から しっかり区別するのだ


 

 あっという間の激しい音楽! 『嵐と共に去りぬ』だな…。


 …おっと、余計なことを言っている場合ではない。 『沈黙は金』。

 譜例音源一致していないようです。


 そうですね。 繰り返し記号に従って、“戻った後” がおかしい。
一段目前半)も、二段目(後半)も、楽譜どおりではありません


 お気付きのとおり、この音源は冒頭部分の演奏ではない。
後に、テーマが二回目に現われた際のものでした。


 正しい譜例は次のとおりです。

 まず、以前もご覧いただいた[譜例2]です。

 二段目が “繰り返し” に当る部分です。


             前半 ←  → 後半

                 ↑

 ここまでが “前半” です。


 後半の続きは、次の[譜例3]へ。

 特に激しいのが、“後半の繰り返し” に当る部分です。

                     ↓

                          → → →


 sfffp が入り乱れている! 強弱記号の “嵐” です。

 sf の後の “>” は、私が書き加えたもので、ディミヌエンド
つもり。 なぜなら、1小節ずつのフレーズが2つあるから。


 でも、ここで音量落とすのは、それ以上の意味がありますね。
音量を上げっ放しでは、次の ff との対比が困難だからです。

 その後の、突然の p も易しくはありません。


 これらの記号は、演奏者4人に共通で、同時に現われる。 誰か
一人でも違うことをやると、“足” が出てしまいます。

 今回は3人の仲間が、少なくとも同じ音楽を目指してくれました。


 特に難しいのが、突然 p に落とすことですね。 これ、
“有り余る演奏意欲” とは相容れないことが多いから。

 自分の音量を “控える” のは、色々な意味で全体が
見えていないと出来ない。 アンサンブルの世界も同じ
なんです。


 でも、まるっきり音を出さないのは駄目だよ?

 沈黙は禁。


 技術的には、もっと難しいかもしれないけどね。 




  [音源ページ    [音源ページ 



しっかり区別するのだ

2014-10-20 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/20 私の音楽仲間 (626) ~ 私の室内楽仲間たち (599)



            しっかり区別するのだ



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                しっかり区別するのだ
                    沈黙は禁



 譜例は Beethoven の弦楽四重奏曲 ハ短調 作品
18-4 から、第Ⅱ楽章の一部で、Vn.Ⅰのパート譜です。

 演奏例の音源]も、譜例の最初からスタートします。


 最初の小節には、八分音符が3つあります。 スタカート
記号付いていません。 

 二段目に入ると、“スタカート” や “スラー スタカート” 
現われます。


 

  スタカートの意味は、正確には “切れた、分離した”…ですが、
俗に “短い” と誤解されます。 その間には大きな差があるの
ですが、今回は立ち入りません。

         関連記事 スタカートの誘惑 など

 

 

 スタカートの有る音符、無い音符。 それに “スラー スタカート”。

この3種類を、【切れ具合】の順に並べると、次のようになります。


(1) “スタカート” (2) “記号無し” (3) “スラー スタカート” (4) “レガート

             【切れた ⇔ 繋がった】


 (2) と (3) の順序には異論があるかもしれません。

 いずれにせよ、スラー スタカート” は、レガートに近いと考える
べきでしょう。



 ちなみに、これは Henle 版による譜例です。 今回問題
になった箇所については、幸い他の版との差はありません。

 ただし Peters 版を見ると、三段目の “2つの八分音符”
にはスタカートが書かれています。 おそらく後世の誰かが
書き加えたのでしょう。

 



 次の譜例は、楽章の冒頭の様子です。

 やはり Henle 版ですが、Peters 版との差はありません。



 ここでは八分音符に、いずれもスタカートが! 音程が動く場合
も、動かない場合も。 この楽章で作曲家は、スタカートの有無・
種類などを入念に書き分けています。

 うち スラー スタカート” は、楽章の終わりにも “再現” します。

        関連記事 反目のアンサンブル


 

 “Scherzoso” と指示された、この楽章。

 決して、始終 “歯切れがいい” わけではありません。

 

 ところで第Ⅰ楽章で頻出した “3つの八分音符” が、
ここでも顔を出していました。

        関連記事 神業も第一歩から





    [音源ページ    [音源ページ 



神業も第一歩から

2014-10-18 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/18 私の音楽仲間 (625) ~ 私の室内楽仲間たち (598)



             神業も第一歩から



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                 神業も第一歩から
                しっかり区別するのだ
                    沈黙は禁



 弦楽四重奏のジャンルで 80 もの作品を残した Haydn。

晩年は、その名声が国際的に高まりました。

 でも、イギリス旅行では交響曲、そして帰国後オラトリオ
の作曲に追われてしまった。 こよなく愛した四重奏の作曲
をしばらくは許されず、大いに嘆いたといわれます。


 後輩の Beethoven は 16曲。 数の上では及びません。

 ただ晩年には、いわゆる “後期の四重奏曲” に打ち込み、
「このジャンルを “神との対話” にまで高めた」…と讃えられ
ています。

 

 しかし楽譜を詳細に検討すると、“打ち込んだ” というより、
“遊び気分” で作っているフシもありますが…。

 そこが “神業” なのでしょう。

 



 Beethoven の最初の四重奏曲集は、“作品18” です。
ハ短調 作品 18-4 は最後に作られたといわれます。


 演奏例の音源]は、第Ⅰ楽章の冒頭から。 譜例
は Vn.Ⅰのパート譜です。

 Violin は私、San.さん、Viola T.さん、チェロ Su.さんです。



 この後 13小節が経過すると、下の譜例で第二主題が
現われます。  の箇所がそれで、最初は Vn.Ⅱです。

 二段目の最後では、Vn.Ⅰがこの主題を引き継ぎます。


 ご覧ください。 上の “第一主題”、下の “第二
主題” の間には、どうやら関係があるようです。

        関連記事 調性がコントラストさ

                             ↓    

                                  

 さて塗り絵には、もう一色が見られます。 3つの “Si♭”
の音です。

 見ると、一段目の最後にもありました。 同じリズムの形
は、譜例の後半で頻繁に現われています。


 もうお解りですね。 同時期のピアノ ソナタにも見られる
形で、あの “ハ短調交響曲” に繋がるリズムです。

 差し詰め、実験的精神の顕われでしょうか。


 これをどの程度、演奏の際に強調すべきか? 迷うところ
です。

 今回の音源をお聞きになり、どう感じられたでしょうか。

                                  



                                  

 「さほど強調はしないが、意識はした。」 それが私の
今回の演奏でした。

 「“はっきり” は弾くが、特に強くしない。 むしろ、その
リズムの後を控えめに弾く。」 そんなところでしょうか。


 演奏解釈において、先入観は禁物。 でもこのリズム
が現われるのは、第Ⅰ楽章だけではないようです。




    [音源ページ    [音源ページ