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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

逆立ちで走るのだ

2014-10-15 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/15 私の音楽仲間 (624) ~ 私の室内楽仲間たち (597)



             逆立ちで走るのだ




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




       関連記事 Beethoven の 四重奏曲 作品130

                  割り勘ドンブリ
                 不自由な輩め…
                 ドイツもこいつも…
                  最後の作品
                  酔いに任せて
              知識も無しに作れるか!
                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                 深刻めいた遊び
                   感じる殺気
                 逆立ちで走るのだ



 [譜例]は、Beethoven の弦楽四重奏曲 変ロ長調
 作品130 から、第Ⅵ楽章の最初の部分です。

 一度ご覧いただいた、Vn.Ⅰのパート譜です。

         関連記事 最後の作品

 


 最終楽章は、舞曲調の気軽な足取りで、淀み
なく流れていきます。

 「あの “いかめしい” 作曲家が最後に書いた
音楽とは思えない。」

 そんな感想も、ときおり聞かれます。


 演奏例の音源]は、その少し先の部分。

 しばらく行くと、次の[譜例]の箇所に差し掛かります。
      (この[音源]では【17秒】の辺りです。)


 まずチェロ、そして Viola が、前の音楽の、最後の
部分を繰り返す。 Vn.Ⅰも加わりますが、すぐ新しい
音楽始まります。

                              ↓

 

 連続する3度の降下が特徴的ですね。

 すると二段目の最後で、急に cresc. が現われる! 続いて
新しい音楽が、f の十六分音符で走り回ります。


 この形、見覚えがありませんか? これまでも、以下の
記事で登場しています。

      割り勘ドンブリ 不自由な輩め…

     酔いに任せて 知識も無しに作れるか!

      お伴は忍者でござる 感じる殺気


 もうお解りですね。 正体は、第Ⅰ楽章の主部で
登場した “忍者” なのです。

              ↓   ↓ ↓ ↓ ↓


 当初こそ、主題の “従者” 役に甘んじていました。
しかし他の楽章では、様々なテーマのモティーフと
して活躍することになる。

 中には “逆立ち” までして、上下の向きが逆に
なっているものもあります。 今回もそうです。


 この第Ⅵ楽章は、ロンド、あるいはロンドソナタ形式
ですから、色々なテーマが代わる代わる顔を出します。

 ここでは、“忍者” が f で走り回る。 この主題全体
は、「単純な4音符モティーフだけで出来ている」…と
言ってもいいほどです。

 

 さて、このテーマが現われる直前には、cresc. が
書かれていました。 なぜ?


 おそらく、“場面の急転換” を強調するためでしょう。
「新しい音楽が突然 f で現われる」…演出も、それは
それで面白いのですが。

 一昔前の Beethoven なら、cresc. は無しに、
いきなり f だけを書いたかもしれません。 でも
ここでは、音楽の流れはあくまでも自然です。


 忍者を操る首領、頭目としての Beethoven。
その “眼” は、まだまだ健在なようです。

 

 さて、先ほどの連続する3度の降下を見てみましょう。
役割としては、主題同士の繋ぎの部分にすぎないのですが。

                                                                                  

 

 

 これに先立つ冒頭部分には、連続する3度の上昇
ありましたね。 下の譜例のモティーフが “逆立ち” する
と、上の3度の降下になります。

             ↓                    ↓


 今回お読みいただいた、このような作業は、いわゆる
“アナリーゼ”。 楽曲の分析です。

 その響きは、アカデミックで冷たい


 しかし貴方が演奏者の一員なら、それに止まってはいけない
でしょう。 問題は、「そこから何が得られるか?」…です。

 机上の学問に終るのでは意味が無い。 いつも考えさせられ
る、難しい問題です。


 今回も、それなりの収穫はありました。 でもいつも
痛感することがある。 やり終えてみると、こんな作業が
すべて無駄に思えることが多いものです。

 なぜなら、すべてが、いとも自然に行われているから。
大作曲家の手にかかると…。


 大家は自然にして変幻自在。

 凡人は策を弄して馬脚を露わす。 

 

 


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感じる殺気

2014-10-12 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/12 私の音楽仲間 (623) ~ 私の室内楽仲間たち (596)



               感じる殺気




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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                  割り勘ドンブリ
                 不自由な輩め…
                 ドイツもこいつも…
                  最後の作品
                  酔いに任せて
              知識も無しに作れるか!
                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                 深刻めいた遊び
                   感じる殺気
                 逆立ちで走るのだ



 Beethoven の弦楽四重奏曲 変ロ長調 作品130
その第Ⅴ楽章は、“Cavatina” と記されています。

 演奏例の音源]は、その始まりの部分です。


 カヴァティーナ。 手元の辞書で “cavatina” を引くと、
【オペラの主役を性格づける抒情的なアリア。 器楽曲
では、抒情的な旋律の緩やかな曲。】…とある。

 解説書によっては、【アリアとレチタティーヴォ (語り)
の中間の性格の曲。】…と記すものもあります。


 いずれにせよ、歌であることに変わりはない。 [音源]
1分半足らずのものですが、器楽作曲家 Beethoven
の抒情性が窺えます。

 でも、“たまに” 美しいメロディーを作ると、「歌の苦手
な彼には珍しく…」などと書かれてしまいます。 決して
苦手” なのではなく、求める “美” の種類が違うから
だと思うのですが…。


 そこで、以下の楽譜を見てみました。

 “歌うプリマ ドンナ” だけ主役ではない
ようです。 気になる点を挙げてみると…。


 (1) チェロには半音の進行が目立ちます。
  1小節目と3小節目に。

 (2) 次の、“音階で動く音符” については、
  のちほど触れます。

 (3) 幅広い6度の動き。 まず Vn.Ⅰに。
  そして二度目はチェロにも。

                              


 上の (1) と (3) は、クレシェンドなど (<>) を伴っています。
作曲者が強調したい動きなのでしょう。

 この二つは、第Ⅰ楽章の冒頭で現われた、大事な音程でした。
半音の連続” と “6度の跳躍” です。

         


        関連記事 知識も無しに作れるか!



 この第Ⅰ楽章では、序奏が終わって主部に入ると、
Vn.Ⅰが忙しく動き始めます。 十六分音符です。


                

 これは、主題そのものではありませんが、まるで
影のように、主題に付添っていました。

      関連記事 お伴は忍者でござる


 この音符に、4つずつ色を塗れば…。

 先ほどの “音階で動く音符” と同じものが
出来ます。


 抒情的なカヴァティーナにまで、構成美を持ちこんだ
Beethoven。 もちろん、最初からそのつもりだった
に違いありません。


 これ、一生懸命に歌おうとするんですが、どうも乗り
きれないんです。 背後に、作曲者の視線を感じて…。

 作曲者の “意志の力” は、演奏の場にまで!
 


 そして、演奏する側にも強固な意志が
必要なのが、彼の曲でしょう。

 それは、この楽章でも同じでした。

 

 


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深刻めいた遊び

2014-10-10 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/10 私の音楽仲間 (622) ~ 私の室内楽仲間たち (595)



              深刻めいた遊び




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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                  酔いに任せて
              知識も無しに作れるか!
                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                 深刻めいた遊び
                   感じる殺気
                 逆立ちで走るのだ



 演奏例の音源]は前回と同じもの。

 Beethoven の弦楽四重奏曲 変ロ長調 作品130
の第Ⅲ楽章で、その5小節目から始まります。

   ↓


 この譜例も前回と同じです。

 Beethoven がジグソー パズルよろしく、音階、3度、
4、5度、6度などの音程をあちこちに配置している
様子をご覧いただきました。


 同じ[音源]が、ちょうど【1分】のところに差し掛かると、
次のような箇所が現われます。

 2小節目、3小節目にご注目ください。

                     ↓     ↓


 突如現われた、半音の連続。 そして全員が cresc. した後は
Vn.Ⅰが一人だけ残り、またしても半音が現われます。

 他の三人は沈黙して見守る。 どうやら大切な瞬間のようです。
ここまでの部分では、半音はこのようには扱われていません。


 Poco scherzoso (少々ふざけて、おどけて) と指示
された、この楽章。 大半は “の音程”
が跳ね回っていて、まさに “おふざけ” です。

 それを急停止させたの半音でした。


 実はこの半音、楽章の冒頭にも現われている。


 [音源]5小節目からだったので、“深刻めいた” 半音
は、あいにく今回はお聴きいただけませんでした。

       ↓      ↓



 この形は、もちろん第Ⅰ楽章の冒頭と関連があります。

 まず長い音から、そして短い音符で半音が続きます。 今回
の最初の譜例とは、ちょうど順序が逆になっていますが。

          ↓



 無邪気に遊ぶ作曲者。 そして、自分でそれ
にブレーキをかける作曲者。

 どちらが本当の Beethoven なのでしょうか。


 あるいは、この “静 ⇔ 動” の転換こそが、
彼の “遊び” なのかもしれません。


       関連記事 深刻な問題

 

 


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ふざけた曲さ

2014-10-07 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

10/07 私の音楽仲間 (621) ~ 私の室内楽仲間たち (594)



              ふざけた曲さ




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                 深刻めいた遊び
                   感じる殺気
                 逆立ちで走るのだ



 Beethoven の弦楽四重奏曲 変ロ長調 作品130
その第Ⅲ楽章には、“Poco scherzoso (少々ふざけて、
おどけて) と書かれています。 しかし、テンポが速い
わけではありません。

 演奏例の音源]は5小節目から始まります。

                                ↓


 「なんだか、とりとめの無い音楽だな…。」

 お聴きになって、きっとそう感じられるでしょう。
もちろん演奏が拙いからですが。

 この[音源]は2分ほど続きます。


 下にあるのは、[音源]の最初の部分のスコアです。

 例によって、私の塗り絵遊び…。 ごく一部だけに止める
つもりだったのですが、ご覧のようになってしまいました。


 各色は、下降音階上行音階下降5度上行4度
下降4度表わしています。 3度6度は同じものとして
扱っており、上行/下降の区別もありません。

 

 色が、あちこちで入り組んでいますね。 まるで、“音程” 
いうピースを用いて、ジグソーパズルを楽しんでいるみたい
です。

 ふざけ、おどけて、遊んでいるのは作曲者自身か?

 

                               

 

 各音程は、なぜそこに配置されたのでしょうか。 「偶然
出現した」…と考えてもいいのですが、なんとなく規則性も
窺えます。

 部品が、あちこちにバラ撒かれている…。 “とりとめの
ない音楽” に聞こえるのも、無理はありません。


  の箇所をご覧ください。 平行8度の進行です。 Vn.Ⅰと
チェロに、二回も現わいますね。

 最初の動きは【Mi♭-La♭】、次は【La♭-Re♭】が、“独立
して動くべき2声部” に共通して、同時に鳴っています。 これ
は目立ちすぎる進行なので、和声学では初歩的な禁則です。


 さらに跳躍の音程幅を見ると、4度や5度! 和声の解決を促す
決定的な進行です。 それも、最高音と最低音のパートですから、
これ以上聴き手の耳を刺激する動きはありません。


 「同じような進行が聞かれる曲の例は?」…と訊かれて思い付く
のは、Mahler の交響曲第1番、その第Ⅱ楽章の冒頭でしょう。

              [音源ページ]

 【La-Mi-La】の進行が頻出し、メロディーと低音に同時に顔を
出すことが、何度もあります。



 あの Beethoven が和声学を知らないはずがない。
「彼はもう耳が聞こえなくなっていたので…」などという
説明は、もちろん見当外れです。

 



 今回は4度、5度の進行を中心にお読みいただきました。

 「そういえば、似たような記事をお前は書いていたな…。」


 はい、よく思い出してくださいました。

      関連記事 お伴は忍者でござる


 その際の譜例です。 第Ⅰ楽章の冒頭では、耳に付く
下降5度や、形を変えた上行4度が頻出していました。



 さて、この譜例では、半音が連続して下降しながら始まって
いますね。 今回の記事では、まったく触れられていません。

 “ふざけて”、“おどけて”…という第Ⅲ楽章とは、どうも雰囲気
が合わないようですが。

 

 


     [音源サイト    [音源サイト



お伴は忍者でござる

2014-09-26 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/26 私の音楽仲間 (620) ~ 私の室内楽仲間たち (593)



            お伴は忍者でござる




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                深刻めいた遊び
                 感じる殺気
               逆立ちで走るのだ




 完全5度は、クラシック音楽に付き物です。 楽譜
のあちこちで5度の下降進行を見かけても、ちっとも
不思議ではありません。

 しかしこれは、決定的とも言える “強い進行” です。
和声の解決を導くことが多いので、低音で多用しすぎ
ると、音楽はギクシャクしてしまう。


 何度かご覧いただいた下の譜例にも、この5度進行
見られます。 一段目では頻出していて、それもチェロ!
「早く終わらせ帰りたい」…のでしょうか。

 でも、曲はまだ始まったばかり。 Beethoven の弦楽
四重奏曲 変ロ長調 作品130 の第Ⅰ楽章で、その冒頭
ですから。



 二段目に入ると、音域の高いパートに、今度は “上行4度” と
して現われます。 印象は柔らぐが、その目的は…?


 演奏例の音源〕も冒頭からスタートし、下の譜例に続きます。

 いよいよ主部に入り、第一主題が…



…聞こえてきたのですが、どれが主題でしょうか?

 (1) 十六分音符の動き? それとも、(2) Vn.Ⅱの音符5つ


 私の考えでは、主題は (2) です。 上行4度を含んで
いますが、これは先ほどの序奏でも出てきました。

 音程の動きは、この上行4度が基本です。 しかし下降
3度や下降4度、オクターヴ跳躍、さらには減4度、減5度
など、不自然音程も出てきます。


 音程が頻繁に動かず、形が単純なのは、他の要素
と並立させやすいからでしょう。

 そのうち、頻出する要素は (1) の十六分音符です。
しかし展開部再現部では、他の要素も見られます。


 したがって、大事なのはリズム。 これだけは変わりません。

 「第一主題リズム動機であり、他の要素を従えている。
パートナーは替わるが、十六分音符の走句である場合が
多い。」…と言うことが出来るでしょう。


 主題が複数の要素から成っている。 このこと自体
は、それほど珍しいことではありません。

 しかし【組み合わせを変える】ことも、作曲者の企み
の一つです。 聴く者は “捉えどころが無い”…印象を
受ける。 真面目に聴いていると、肩すかしを食います。

 作曲家は、そんな音楽を狙ったのかもしれません。


 ちなみに、この十六分音符の走句は、第二主題で聞かれます。

 ただし先導したり、合いの手を入れたりするだけ。 常に鳴って
いるわけではありません。

        関連記事 知識も無しに作れるか!

 

 

 主題は単純だが、十六分音符が絡みついている。
絶えず動き回り、落着きが無い。

 至る所で現われたかと思うと、お伴はいつの間にか
別の者にすり替わっている。


 まさに神出鬼没です。

 聴く者煙に巻かれてしまいます。

 

 


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