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心の息杖

2012-10-05 | Weblog
遺産相続人がいない!? 空き家、空き地が激増する「独居老人国・日本」(ダイヤモンド・オンライン)

遺産相続人がいない!?

空き家、空き地が激増する「独居老人国・日本」
12345日本の人口は今、何人くらいか、君は知っているかな。2010年の国勢調査を見てみるとだいたい1億2806万人。でも、この人口はこれからどんどん減ってしまうんだって。

国立社会保障・人口問題研究所では、将来の人口について3つの見方で予測を立てている。このうち、「中位推計」――人口の増減が中程度と仮定した場合の予測――を見てみると、2030年には1億1522万人、さらに2060年には8674万人となっている。これは、第二次世界大戦後の人口とほぼ同じ規模だ。

どんどん人口が減り、縮んでいく日本の社会。いったい私たちの行く手には何が待ち受けているんだろう?

この連載では、高齢になった未来の私たちのため、そしてこれからの時代を担うことになる子どもたちのために、日本の将来をいろいろな角度から考察していきます。子どものいる読者の方もそうでない方も、ぜひ一緒に考えてみてください。

2012年10月5日 西川敦子 [フリーライター]

この記事は、大月先生のお話を参考に執筆者が記事を構成、編集しています
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東京大学大学院 准教授
大月敏雄先生の話
おおつき・としお
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。東京大学工学部建築学科卒業。東京大学大学院博士課程単位取得退学。建築計画、住宅地計画、ハウジング、まちづくりが専門。特に集合住宅計画、住宅地計画、海外のスラムのまちづくりなどを主たるフィールドとしている。著書に『同潤会のアパートメントとその時代』(共著・鹿島出版会) 『集合住宅の時間』(王国社)『奇跡の団地 阿佐ヶ谷の住宅』(共著・王国社)など。 
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:空き家はこの10年で180万戸も増加、2050年、所有者不明の土地は約4万以上に!?

・ちょっと想像してみてほしい。今、自分が住んでいる町が空き家だらけになった光景を。こわれかかった家や雑草の生い茂った庭ばかりがやたらと目立つ。誰かが住んでいるらしき家も人が出入りする様子はなく、近所ともおつきあいはないみたいだ――。
・2010年12月、国土交通省は衝撃的(しょうげきてき)なレポートを発表した。タイトルは「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」。2050年の日本の国土がどうなっているか、シミュレーションしたものだよ。「現在、人が住んでいる地域の約2割は誰も住んでいない土地になってしまう」「都市圏でも多くのエリアで人口が激減し、その約2割は人口が半分以下になる」などなど、ショッキングなデータがたくさん並んでいる。
・このレポートにはもうひとつ気になる予言が書かれている。「“所有者不明の土地”の激増」だ。
・“所有者不明の土地”――いったいどんな土地だと思う?
・ある土地、またはその土地に建っている建物の所有者が亡くなったとする。ところが、その人には妻や子といった相続人がいない。あるいは、いるのかもしれないけれど、どこに住んでいるのかわからない。
・そういう場合、家庭裁判所では、残された財産を管理する人を故人(亡くなった人)の関係者の中から選ぶ。その手続きの件数は近年、急増していて、今や1万5000件近く。この20年ほどの間におよそ3倍になっているんだ。
・そうでなくても最近、空き家はどんどん増えている。総務省によると、2008年時点の全国の空き家は757万戸。10年間で180万戸も増えた。放置された空き家は、ゴミを投げ入れられたり放火されたりしやすいから、近所迷惑のもとになる。
・空き家が増える理由はいろいろ考えられるけれど、そのひとつとして、固定資産税という税金の仕組みがある。「住宅用地特例」という税金の法律があって、住宅の敷地に利用されている土地については、税金が安くなるのが決まりなんだ。だから親が死んで、人が住まなくなった家も、取りこわさず残しておく人が少なくない。
・でも、中には相続人がわからないまま、取り残されている家もあるんだよ。空き家対策に悩む埼玉県所沢市役所の担当者がこんな話をしてくれた。
・「なんとかしてもらおうと所有者を探してはみるものの、結局わからずじまいの空き家もありますね。生前、ご近所とのおつきあいがあれば、いろいろ情報を教えてもらえるのですが、それすらないという場合もある。こうなるともう追跡のしようがありません」
・結婚しない人や子どもを持たない人が増えていることを考えると、これからもこういうケースは増えるかもしれない。国土交通省では、“所有者不明の土地”の手続き は、2050年には今の4倍、約4万5000件に達すると見込んでいるよ。
・2050年、君が暮らす町はどうなっているんだろう?君のお父さん、お母さんはいくつになっているかな。70代?それとも80代?君たちとは仲よく暮らしているかな。近所に友だちはいるんだろうか……。

:限界集落は「戦後のハウジング政策」が生み出した

・所有者不明の空き家、空き地が象徴するように、最近、ご近所や家族とのつながりがないまま、自宅で一人ぼっちで亡くなってしまうお年寄りが増えている。
・こんなことになってしまった原因は、国の「ハウジング政策(せいさく)」にある、と僕は思っているんだ。「ハウジング(housing)」には「囲い」という意味があるんだけど、その言葉通り「1つの家族を1つの住宅で囲う」のが、かつての日本のやり方だった。ふつうの家族のふつうの人生を想定し、それに合った住宅を大量に作って、人々を囲ったんだ。
・国が考えた「ふつうの人生」は、ちょうど双六(すごろく)みたいなものだった。実際、君たちのおじいさん、おばあさんがまだ若かった1973年、朝日新聞に「現代住宅双六(すごろく)」という記事が載ったことがある。内容は、当時のサラリーマンがどんなふうに家を住み替えていくかを、双六形式で説明するというものだ。
・独身時代はアパート暮らしをする。結婚して子どもが産まれたら公団や賃貸マンションに移り住み、頭金が貯まったらマンションを買う。やがて出世し、給料も上がったら郊外の庭付き一戸建てを買って、めでたく「上がり」というわけ。
・こんなすごろくが成り立ったのは、当時、「給料は年齢とともに上がっていくもの」という暗黙(あんもく)のルールがあったからだ。今じゃ、同じ会社に長年勤めたからといって、お給料が上がるとは限らないけどね。
・そしてあらゆる住宅は、まさにこの「現代住宅双六」をなぞる形で作られていった。若い工場労働者のためには、工場近くの畑を潰して大量のアパートを作る。新婚さんのためには大規模な公団を用意する。一戸建てがほしい人には閑静な戸建ての住宅街を……といった具合。
・こうして、まるでおおざっぱなパッチワークを作るように、大規模な住宅開発が行われ、住宅群が作られていった。そしてそれぞれの住宅群では、同じような年代の同じような収入を得ている人々が暮らすことになる。
・でも、こうした大規模開発のおかげで、後に思わぬ落とし穴が生まれてしまうんだ結。
・たとえば、都会の限界集落(げんかい しゅうらく)の問題。都会の限界集落とは、都会にありながら、人口の多くが65歳以上のお年寄りになってしまった住宅群のことだ。かつて、若いファミリー世代がいっせいに入居した団地や大規模住宅地がこれにあたる。たとえば、東京・高島平団地や戸山団地、多摩ニュータウンなど。
・これらの住宅群で、お年寄りの孤独死のほか、近所に商店がないために買い物できない「買い物難民(なんみん)」が続出しているのは、ニュースでも取り上げられている通りだよね。

:大理石のエントランスに主婦が集まらないワケ

・さらに、プライバシーを重視した最近の住宅は、人々からコミュニティ(ご近所づきあい)を奪ってしまった。
・たとえば、最近のマンションはオートロックで防音もばっちり。しっかりプライバシーが確保されている。そのかわり共用空間として広いエントランスがあったりするんだ。中には、床が大理石でできた立派なエントランスも――。でも、大理石張りのエントランスは共用空間にはちっとも向いていない。なぜなら、大理石の床の上で立ち話なんかしたら、あたりに声が響きわたっちゃうから。だからみんなそそくさと部屋に帰るんだ。
・そもそも大理石のエントランスは、住み手がおしゃべりするためにあるんじゃない。デベロッパー(マンションを開発する会社)にとっては、見学にやってきた買い手に「かっこいい!ここに住みたい!」と思ってもらうための装置だからね。つまり、デベロッパーが提供する住居というのはデベロッパーの論理で作られている、ということ。住み手にとって、心地いい人間関係が生まれる場とは限らない。
・でも、こうしてコミュニティを失ってしまうことは、じつは僕らにとってとても大きな痛手なんだ。なぜって、人口が減少すれば税金による収入がますます減るから、行政もあまりたよりにならなくなる。だから、近所に味方がいるということはすごく心強い「保険」になる。
・自分も家族も元気で自立している間は、こんな保険なんていらないだろう。でも、子どもが生まれたり、親が倒れたり、自分が年取って病気になったりすれば、そばにいて助けの手を差し伸べてくれる生身の人間がどうしても必要になってくる。

:「21世紀型家族」は「近居族」、家族と“スープの冷めない距離”に暮らそう

・じゃあ、コミュニティを持つためにはどうしたらいいだろう?
・1つの方法は、離れて暮らす家族と「近居族(きんきょぞく)」になること。
・2011年6月に総務省が発表した調査結果によると、今や1人暮らしの世帯の数は1588万5000世帯。総世帯に占める割合は32.1%で、初めて3割を超えた。
・じつはこの32.1%の中には「仮面単身者」が含まれているんじゃないか、と僕は思っている。というのも、以前、地方都市にあるニュータウンで、過去10年の間に出た空き家に、どんな人が入居しているか調べたところ、3割程度がもともとそのニュータウンの出身者だったことがわかったんだ。おそらくは、結婚して子どもが生まれ、両親に子どもの面倒を見てもらうために故郷に帰ってきた息子、娘たちだろう。
・千葉県の公団で行ったアンケート調査でも同じような結果が明らかとなった。一人暮らしの住民に、いざというとき頼れる近親者が徒歩30分圏内に住んでいるかどうか尋ねたところ、「住んでいる」と答えた人は約2割に及んだ。
・この調査結果からわかるのは、現代の「家族」は必ずしも同じ家に住んでいるわけではない、ということ。「スープの冷めない距離」に暮らしながら、何かあればお互い支え合っているケースが多いんだ。
・家族も「ご近所さん」として付き合う。まずはそうやって、自分の味方を増やしていくといいだろう。
・大規模開発された均一な住宅群のかわりに、いろいろな住まいの選択肢がある町を作れば、こうした「近居族」はもっと増えるだろう。団地、マンション、一戸建て、アパート、サービス付き高齢者住宅――こうした住まいが集まって建っていたら、親が暮らす高齢者住宅のすぐ近くの一戸建てに長男夫婦が、賃貸マンションに二男が暮らせたりするよね。
・その反対に、赤の他人と家族一つ屋根の下で一緒に暮らすという手もある。実際、フランスでは「受け入れ家庭制度」という国の制度があって、一人暮らしのお年寄りや障がい者を、赤の他人の家族が受け入れ、一緒に暮らしたりしているんだよ。日本でも、夫婦でも家族でもない人たち同士、同じ家で暮らす「シェアハウス」が、最近、広がりつつある。
・もう1つの方法は、みんなが自然に交流できる共用空間を、住み手が自ら作ることだ。デベロッパーの論理で作られた住まいに安住せず、自分たちの共用空間を自分たちで工夫する。町の人口が減って、空き地や空き家が目立つようになったら、そこを活用して近所の人たちと楽しめるスペースに変えればいい。「菜園を作る」「みんなでお店を開く」――アイデアはいくらでも出てくる。そう考えると、空き地、空き家だらけの2050年が、なんだか楽しみになってくるよね。
・ほんとうに怖いのは、人口減少や高齢化そのものではない。怖いのは、周りの人とのつながりが断ち切れたまま、住まいという密室の中でひとりぼっちになってしまうことじゃないだろうか。








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