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[ユニクロ多国籍事業] まずグローバル人材確保、そのための新制度の導入(世界同一賃金)

2013-04-24 | Weblog

記事:「年収100万円も仕方ない」ユニクロ柳井会長に聞く

4/23 ASAHI

 「世界同一賃金」は、社員のやる気を生むものなのか、はたまた「現場の疲弊」をさらに強めるものにならないのか。導入の狙いや、社員を酷使する「ブラック企業」との批判に対する見解を、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長に聞いた。

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ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長

 

ユニクロ、「世界同一賃金」導入へ世界規模のふるい、成長か死か:

 ――「世界同一賃金」を導入する狙いは何ですか。

 「社員は、どこの国で働こうが同じ収益を上げていれば同じ賃金でというのが基本的な考え方だ。海外に出店するようになって以来、ずっと考えていた。新興国や途上国にも優秀な社員がいるのに、同じ会社にいても、国が違うから賃金が低いというのは、グローバルに事業を展開しようとする企業ではあり得ない」

 ――中国などに比べて賃金が高い日本は下方圧力がかかって、逆に低い国は賃金が上がるわけですか。

 「日本の店長やパートより欧米の店長のほうがよほど高い。日本で賃下げをするのは考えていない。一方で途上国の賃金をいきなり欧米並みにはできない。それをどう平準化し、実質的に同じにするか、具体的な仕組みを検討している」

 ――いまの離職率が高いのはどう考えていますか。

 「それはグローバル化の問題だ。10年前から社員にもいってきた。将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」

 ――付加価値をつけられなかった人が退職する、場合によってはうつになったりすると。

 「そういうことだと思う。日本人にとっては厳しいかもしれないけれど。でも海外の人は全部、頑張っているわけだ」

 「僕が心配しているのは、途上国から海外に出稼ぎにでている人がいる、それも下働きの仕事で。グローバル競争のもとで、他国の人ができない付加価値を作り出せなかったら、日本人もそうやって働くしかなくなる。グローバル経済というのは『Grow or Die(グロウ・オア・ダイ)』(成長か、さもなければ死か)。非常にエキサイティングな時代だ。変わらなければ死ぬ、と社員にもいっている」

■「ブラック企業の批判は誤解」

 ――「グローバル企業」として成功していますが、社員を酷使する「ブラック企業」だとの批判もでています。

 「我々が安く人をこき使って、サービス残業ばかりやらせているイメージがあるが、それは誤解だ」

 「大半が途中で辞めた人などの一部の意見だ。作業量は多いが、サービス残業をしないよう、労働時間を短くするように社員には言っている。ただ問題がなかったわけではなかった。グローバル化に急いで対応しようとして、要求水準が高くなったことは確か。店長を育てるにしても急ぎすぎた反省はある」

 ――売り上げは増やせ、その一方で残業はするな、では生身の人間は壊れませんか。

 「生産性はもっと上げられる。押しつぶされたという人もいると思うが、将来、結婚して家庭をもつ、人より良い生活がしたいのなら、賃金が上がらないとできない。技能や仕事がいまのままでいいということにはならない。頑張らないと」

 ――ユニクロ的なビジネスモデルの成功が、賃金が低く抑えられている元凶という批判もありますが。

 「それは原因と結果を逆にしての批判だ。安い労働力を活用し、製品価格を下げて売っているのは欧米のカジュアル衣料のH&MやGAP、中国の企業も同じだ」

 ――結局、日本の働き手も途上国や新興国が作る製品やサービスと同じものしか生み出せないなら、同じ賃金でやるしかないと。

 「先進国は同じ問題に直面している。戦略やマーケティングとか、もうかる付加価値の高い部門を日本におくことだ。世界中の企業が最適地企画、最適地生産、最適地販売に移っている」

 「日本の電機の一番の失敗は日本に工場を作ったことだ。安くて若い圧倒的な労働力が中国などにある。関税も参入障壁になるほどの高率ではないから、世界中にもっていける。本当は(安い労働力を使って世界中の企業から受託生産する)鴻海(ホンハイ)精密工業のような会社を日本企業が作らないといけなかった。個人も国内で仕事をしたいなら、付加価値をつけないといけない。単純労働で時間給の仕事でいいのか、それだと下がる可能性もあるのだから」

     ◇

 〈ファーストリテイリング〉 1949年「メンズショップ小郡商事」として創業。カジュアル衣料の「ユニクロ」ブランドを中心に、世界で衣料の生産・販売を手がける企業グループ。「セオリー」などの高級ブランドを買収するなど積極的な事業展開で知られる。13カ国・地域に出店し、2012年8月期のグループ売上高は9286億円。正社員やアルバイトも含めた従業員は、13年2月末で4万2431人に上る。柳井会長兼社長は、米TIME誌の13年版「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。

 

記事:ユニクロ、「世界同一賃金」導入へ 優秀な人材確保狙う

4/23 ASAHI

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ファーストリテイリングの「世界同一賃金」

 

 「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、店長候補として採用した全世界で働く正社員すべてと役員の賃金体系を統一する「世界同一賃金」を導入する考えを明らかにした。海外で採用した社員も国内と同じ基準で評価し、成果が同じなら賃金も同水準にする。

 すでに役員や上級部長らは実施し、今後、一部の店長まで広げる。企業のグローバル展開が加速するなかで、賃金体系の統一にまで踏み込む企業が出てきた。

 日本の働き手たちは、新興国や欧米の社員と共通の土俵で働きぶりが評価され、世界規模の競争を強いられることになる。新制度が根づけば、給与水準が全世界で均一化していき、比較的高い日本の給与が下がる「賃金のフラット化」につながる可能性もある。

 新制度では、欧米や中国など13カ国・地域で店長候補として採用した社員すべてと役員を「グローバル総合職」とし、職務内容で19段階に分けた「グレード」ごとに賃金を決めた。

 このうち上位7段階に入る執行役員や上級部長は、どの国でも同じ評価なら報酬や給与を同額にした。対象は約50人(海外採用は10人)で、年収は最低でも平均約2千万円になる。各グレードの賃金は、日本より高い欧米の水準に合わせて統一した。最上位は柳井会長で4億円。将来は対象を2段階下の約60人いる部長級にも広げる計画という。

 そのほかの「グローバル総合職」のうち、上位8~14段階にあたるスター店長ら約1千人(海外採用は約300人)についても「実質同一賃金」にする。店長以上なので、残業代は出ない。国によって名目の額は違うが、それぞれの国の物価水準などを考慮し、実質的にはどの国でも同じ生活ができる水準にする。少なくとも各国の同業の上位企業の賃金水準までは引き上げる。調整が複雑なため、具体的な制度づくりには時間がかかる見通しという。

 役員らと同じように賃金を名目で同一額にしないのは、対象人数が多いからだ。各国間の賃金の差は大きく、先進国の水準に合わせると新興国の賃金が大幅に上がり、収益を圧迫する。逆に新興国の水準に合わせれば、先進国で優秀な人材を集められなくなる。

 ただ、当面は「実質同一賃金」にしない社員も含め、「グローバル総合職」の約4900人(同約2200人)はすべて、評価基準を一本化した。国境を越えた人事異動をやりやすくするためで、職歴や将来目標など社員のデータも一括管理し、同じ基準で競わせる。

 新制度を導入する狙いは、「世界各国で優秀な人材を確保する」(柳井会長)ことにある。2020年までに店舗数をいまの4倍の約4千店に増やし、そのうち約3千店を海外店にすることを計画している。短期間で海外店舗網を急拡大するには、高水準の給与を払い、これからは新興国でも優秀な人材をひきつける必要があるとしている。

 グローバル化のもとで、生産や消費の中心になり始めた新興国では賃金が上がり、先進国では逆に下がったり伸び悩んだりすることがいわれてきたが、ファーストリテイリングの新制度は、「賃金のフラット化」を企業の賃金体系のなかで具体化させることになる。

 ただ現段階では、例えば中国で採用された店長は、米国や日本の店長になれば賃金を上げるが、逆の場合は「誰も行きたがらなくなる懸念もある」と賃下げはしない考え。日本の賃金水準自体も「賃下げは考えていない」(山口徹人事部長)という。

 だが、競争激化や中国などアジアの賃金の上昇で、全体の収益が圧迫される可能性もあり、これまでのような高収益が確保できなくなった時は、新興国に比べて割高な賃金水準が下がる可能性について「今は考えていないが、理屈上はありうる」(山口徹人事部長)という。

 「世界同一賃金」の対象は社員全体約2万人の4分の1にあたる。

 新制度について、柳井会長は朝日新聞のインタビューで「世界どこでも、やる仕事が同じだったら同じ賃金にするというのが基本的な考え方。海外にも優秀な人材がいる。グローバルに事業を展開するのに、あまりに賃金が違いすぎるのでは機能しない」と話す。

     ◇

 〈企業の賃金体系〉 従業員の給与を決める基準やルールのことで、昇格や昇級の仕組み、評価制度なども含まれる。海外で手広く事業をするグローバル企業は通常、各国に現地法人を設け、それぞれの国の事情に合わせた賃金体系をもつ。新興国で賃金の安い社員を雇えば、人件費を抑えてもうけを増やすことができるからだ。だが、ユニクロの新制度は逆に、どの国で雇っても同じ賃金体系にして、新興国でも日本でも同じ評価なら実質同額の賃金を払う。大手企業では極めて異例の制度といえる。


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