この制度は、経済学者竹中平蔵が、労働市場の構造改革「労働ビッグバン」の一環として、安倍の第一次内閣発足のときに提唱したものだ。さらに言えば、もともとは、米政府が世界的に進めるグローバル資本主義導入の一環として日本政府に導入を要請してきたものだ。まさに米国の要請に応えたハーグ条約加盟と同じだ。首相安倍には深い考えなどない。
正社員と非正規社員の格差是正のため、年功賃金の見直しのためと、わからないでもないが、一言でいえば、日本(企業)にはまだなじまない。またTPPや普天間の問題と同じで議論も不十分だ。
まず、日本には制度をうけいれるための素地が必要だ。その素地とは米国のような「契約社会」だ。米国はホワイトカラー、とりわけプロフェッショナルと呼ばれる専門職は、雇用の際に会社との条件交渉が基本だ。だから、米国の会社では、社員一人ひとりが、異なった雇用条件のもとで契約を結んでいる。同じ社内で机を並べていても、隣のAさん,Bさん、Cさん、それぞれの待遇が異なっている。いってみれば、米国企業に勤める専門職社員は、親方日の丸的な自営業者だ。残業代なしの契約給与で就業時間の配分も社員本人(の能力)にまかされている。
記事:導入検討の残業代ゼロ法案 欧米とは似て非なるただ働き制度
安倍晋三政権が、サラリーマンを直撃するとんでもない法案を導入しようとしている。「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)制度」だ。
これは一定収入以上のホワイトカラーを労働基準法の労働時間規制の対象から除外(エグゼンプション)し、管理職同様、何時間働いても会社は残業代を支払わなくていいようにするものだ。ひと言でいえば、「残業代ゼロ制度」である。
首相が鳴り物入りで設置した産業競争力会議で、民間委員の三木谷浩史・楽天会長は「WEの欧米並み適用」を主張しているが、日本で検討されているのは裁量労働制と呼ばれるものだ。ホワイトカラーに勤務時間の裁量権を持たせるかわりに労働時間制限(週40時間まで)を撤廃し、何時間働いてもその社員の裁量とすることで会社は残業手当・割増賃金の支払い義務を負わないという、企業に都合のいい論理である。
それは欧米の仕組みとはまるで違う。
WE制度が生まれた米国には勤務時間の規制はなく、雇用主が労働者に週40時間以上の時間外労働をさせる場合には5割増しの賃金を支払うことを義務づけている。ただし、一定の収入と役職以上のホワイトカラーはその割り増しを除外されている。社員はそれでも困らない。米国企業に出向経験がある商社マンが語る。
「米国では原則として社員を契約で決めた以上の時間は働かせないし、社員も残業代をあてにしていない。エリートビジネスマンには土日も休まずに働くケースは少なくないが、それは成果主義が徹底されていて働くだけ収入が増える見込みがあるからです」
しかも、サービス残業は絶対タブーだという。
「経営者は契約した労働時間でどれだけ仕事を処理できるかで社員の能力を判断し、そのプロジェクトに何人のマンパワーが必要かを計算する。それなのに、社員の1人が無給で残業して仕事を進めるとどうなるか。
経営者にはその仕事が実際より少ない人数でできるという間違った認識が生まれる。それでは次に同じ仕事をするメンバーが正確な評価を得られなくなる。だからチームで仕事をする場合はサービス残業は厳禁なのです」(同前)
逆に欧州諸国は失業を減らすためにワークシェアリングを重視し、労働時間に厳しい規制をかけて残業を「悪」とみなしている。ドイツには残業の割増賃金制度がなく、管理職は労働時間の規制が適用されないというだけだ。フランスやイギリスのWEに相当する制度も、管理職や専門職を労働時間規制の対象外とし、「残業代ゼロ」でただ働きさせるわけではない。
いかにも欧米の制度を導入するかのようにいいながら、日本のWEは名前だけを利用した日本独自の「社員ただ働き制度」なのだ。
(WEEKLY-POST)
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