3月5日、
カズコさんが心筋梗塞で救急搬送された。
おはようございます。
「胸が痛い」と訴えるが、それほど酷い様子には見えなかったが、
その顔に冷や汗が湧いているのを見て、救急を要請をした。
午前9時に119番に電話かけ、
11時半には、病院でカテーテル手術を終えていた。
救急隊員さん達と病院の迅速な対応のおかげで、
カズコさんは、無事命を取り留め、とても元気に過ごしている。
なんと・・・実家で!!
本来ならば、当然、まだ入院中だ。
最低2週間は入院が必要な状態だ。
そこを、大幅に短縮して、入院は二泊三日と相成った。
(怒涛の数日間だったので、一泊二日と勘違いしておりました。)
去年の硬膜下血腫の時と、同じだ。
カズコさんが、大いに暴れたからだ。
日曜日の夜、病院から電話を受けた。
「ご家族が側にいると落ち着いてくださるかもしれないから
来ていただけますか?」
とのことだった。
このご時世、面会禁止なわけだが、
それ以上に、カズコさんは絶対安静の必要があった。
看護師の苦渋の決断により、私は面会を許された。
というより、カズコを抑え込む人間の増員といった様相を呈した。
「何で帰れんのや!帰る!放して!触らないで!」
鎮静剤のせいか、ろれつは回っていないまま、
腕に繋がる管を引きちぎろうとする力は凄まじい。
「カズコさんは、鎮静剤を使っても全く効かないんです。」
私は、その看護師さんの言葉にハッとした。
カズコさんの認知症の主治医は、
「アルツハイマーとアスペルガーは投薬の種類が全く逆。
認知症患者を鎮静させる時に使う薬は、
アスペルガー患者に使うと、逆に脳の興奮を誘発させるんです。」
と言っていた。
「あの・・・うちの母、
認知症の診断を受けた時、同時にアスペルガーだと言われたんです。」
私は、看護師にそう伝えた。
カズコは、自閉症スペクトラム障害である。
それを診断された時、私はまったく驚かなかった。
カズコは、ボケるうんと前から、とっくに規格外だった。
産まれてこの方、カズコはずっとカズコなのだ。
それを聞いた看護師は、
「それで腑に落ちました。そういうことなんですね。
うちの病院にも専門の科がありますから、
今後は、そこと相談をしながら、カズコさんになんとか
このまま治療をさせてもらえるように頑張ります!」
と言ってくれた。
私は即座に倒れ込む勢いで土下座をしたくなったが、
カズコの腕を離せないから、そのままの姿勢で
「ご面倒をお掛けして、本当にすみません。
どうしても難しい場合は、いつでも迎えに来ます。
これで落ち着くなら、いつでも来ます。どうぞ、お願い致します。」
と伝えた。
泣くな!ここで泣いたらダメだ!
そう思ったが、私はとっくに泣いていた。
泣きながら、暴れるカズコを抑え込んでいた。
救急救命病棟は、殺人的に忙しいだろう。
それでも、この暴れる老人に、懸命に医療を施そうと奮闘している。
家族の私にも、嫌味を言うどころか、
「夜に来ていただいちゃって、すみません」と謝ってくださる。
そして、当のカズコだって、真剣だ。
カズコの正義を貫くために、弱まった心臓を抱えたまま、
管だらけで闘っている。
「どうして?どうして帰してくれんのや?わしは何も悪い事しとらんのに」
と何度も叫ぶ。
魂の叫びだ。
私は、土曜日の朝、あのままカズコさんをそっとしておいてやろうかと、
一瞬過った時のことを思い出した。
カズコがカズコである事を貫くには、
そのほうがいいのではないかと、過ったのだ。
けれど、私はそれが出来なかった。
私は、
「こうなる事は予想できたのに、カズコさん苦しめてごめんね。
皆様にもご面倒をおかけして、すみません。」
と頭を下げた時、汗と涙が飛び散った。
この日は、睡眠薬でどうにか眠った。
しかし、どうあっても太陽は昇る。
月曜日はやってきた。
そして、医師の決断は、
「自宅療養に切り替えましょう。
このまま病室でストレスをかけることのほうが、
カズコさんの命を脅かしてしまう気がします。
カズコさん、通院してね、
大丈夫、もう入院はしないからね。」
ということだった。
私は深々と頭を下げて、カズコを受け取った。
体は硬いほうだが、こういう時の最敬礼は、
なんと180度に達するくらい腰を屈曲できるんだから、
まったく不思議なものだ。
帰り道の太陽は、いつになく柔らかな光を放っていた。
「カズコさん、今日は気持ちいい日だね~。」
そう話し掛けると、カズコはまだ鎮静剤が効いているせいか、
ろれつが回らないまま、
「ほうやな~。ええ天気やな~。」
と、呑気な声で言った。
こんな日のくせに、優しい日射しは、本当に気持ち良かった。
そんなわけで、
カズコさんは、通院にて療養続行となりました。
ご心配おかけして、大変申し訳ありませんが、
きっと、おそらく、カズコは大丈夫です。
だって、カズコはカズコだから。
のん太?
きみは大丈夫?
のん太「なにがら?」
炬燵が熱くて、のぼせてない?
のん太「のんは熱いくらいのほうが、気持ちいいんら!」
我慢して熱い湯に入る人の思考みたいだね・・・