野戦病院でヒトラーに何があったのか: 闇の二十八日間、催眠治療とその結果 | |
Bernhard Horstmann,瀬野 文教 | |
草思社 |
本書の中で、印象に残るシーンがある。著者自身のささやかなヒトラー体験だ。列車の窓をへだてて、総統と直接対面する。「……むかいの線路にヒトラーを乗せた特別列車が停車していた。偶然にも私と彼とは同時に車窓をひきさげた。そのためほんの二メートル半ほどの距離を隔てて私たちは顔を合わせることになった。私が挨拶すると、彼は腕を折り曲げてこちらの挨拶にこたえた。ほんの三秒足らずの出会いだった。ヒトラーの瞳は射貫くように鋭くデルフト陶器のように鮮やかな青色をたたえていた。彼の瞳はたいへん大きく、それを見たものはだれでも魅せられた。私も例外ではなかった。よほど強靭な意志の持ち主でないかぎり、あの瞳の輝きにさからえるものはいないとだれもがいっていたが、私もこの体験以来それを信ずるようになった……」。
ヒトラーは1918年10月第一次大戦末期ベルギー戦線で毒ガス攻撃に遭い失明し、ドイツ東部のパーゼヴァルク野戦病院に収容される。そこで精神医学の権威エドムント・フォルスター教授に催眠治療を施され回復した。戦争が終わりミュンヘンに現れたヒトラーは以前の「卑屈で目立たない」男ではなく、異様な目の光を持った政治家・大衆扇動者に変貌していた。パーゼヴァルクの28日間に何があったのか?
以上