Steve Burton Magicが1997に出版した「Hocus Pocus Junior」です。1638年、初版が発行された「Hocus Pocus Junior」をSteve Burton氏がカリフォルニア州にあるHenry Huntington Library(https://huntington.org/)の許可を得て「reproduce」したハードカバー65ページの本です。少し小さめの本です。
完全に複製なのか、少し修正しているのか不明ですが、Jamy Ian Swiss氏のレビューでは「The publisher has painstakingly cleaned up the aged type」とあり、その作業は間違いなく大変な作業だっただろうと書いていますので、完全複製ではなく、整えながらの複製だったのかもしれません…
この本は限定発売ですが、ノーマルエディション(300部)とデラックスエディション(25部)の2種類があります。共に、最後のページに番号とSteve Burton氏のサインが直筆で書かれています。両エディション共に表紙には金の文字とカップが箔押しされています。デラックスエディションは箔押しに22kを使っており、触感も滑らかです(革なのでしょうか?)さらに函がついてます。また、小さな説明カードも付いていました。
こっちがデラックスエディションで、
こちらがノーマルエディションです
この本にはいくつかのトリックが解説されているのですが、表紙にはカップの絵が使われています!原本では表紙はないらしいので、Steve Burton氏の思いなのでしょう。世界最古の本格カップ&ボール手順の解説が書かれている、というのに加えてこの表紙のデザインに惹かれてこの本を購入しました(;^ω^)
発売当初の値段はノーマルエディションが60ドル、デラックスエディションが150ドルと上記Jamy Ian Swiss氏のレビューにあります。氏は苦労して作った割に60ドルという値段に対して良心的だと述べています。恐らく当時(1990年代)は「Hocus Pocus Junior」を今ほど簡単に読めず、約300部とはいえ、この貴重な文献を読めるようにしてくれたこの本は価値があったのだと思います。また、この本は「Hocus Pocus Junior」の複製だけでなく、最後の11ページにSteve Burton氏の「EXCURSUS」が書かれており「Hocus Pocus Junior」に関する多くの情報が含まれており、興味深い内容でした。例えば、「Hocus Pocus Junior」は本当にタイトルなのか?など…
出版当時「Hocus Pocus Junior」を読むことは簡単ではなかったかもしれませんが、今では割とお安く電子版が手に入ります。例えばLybrary.comでは7ドルで読むことができます…他の多くの古い本もそうですが、良い時代になったものです(;^ω^)
Hocus Pocus Junior by unknown
This book includes detailed work on the "Cups and Balls," and the first version of the "Stack of Pence" (i.e., "Stack of Quarters")...
Lybrary.com
とはいえ、この本の内容は古い英語なので、私の英語力では正直理解ができませんでした…。そもそも表紙の「IVNIOR(Juniorのこと)」とか「Difcovered(Discoverdのこと)」からして、もう読めない…。どうしたものかと思っていると、カップといえばこの人、Bill Palmer氏が自身のサイトで「Hocus Pocus Junior」のカップ&ボールのところだけを現代風英語に直した文章(しかも複数エディションを足したもの)を作成して、ダウンロードできるようにしてくれていました!これでようやく、翻訳機の力も借りながら世界最古と呼ばれるカップ&ボールの本格的な解説を読むことができました…
Bill Palmer氏のこのドキュメントの最後の「How this book came to be」にはSteve Burton氏との話も出ており面白いです。1993年に二人でHarry Ransom Research Libraryに行ってはじめて「Hocus Pocus Junior」を見たことがきっかけでSteve Burton氏は本を出版するに至ったという感じのことが書かれています。また、第2版と第3版にはカップとボールに関する追加資料があったと書かれています。
「Hocus Pocus Junior」とその内容について少し書かせて頂きます。「Hocus Pocus Junior」は世界ではじめてカップ&ボールの技術を教えた本であり、その後に続く手順(ルティーン)も恐らく印刷された最初の「実際の」カップ&ボールの手順であるといわれています。世界最古のマジック種明かし本と言われることが多い(もうそんなことは無いですか?)レジナルド・スコットが1584年に出した「妖術の開示」(The Discoverie of Witchcraft)が「観察者」の視点からマジックを述べているのに対し、「Hocus Pocus Junior」は実演できる「マジシャンの視点」からマジックを解説しているのです。そしてそのカップ&ボールの技法・手順は現代にも通じます。
このように「Hocus Pocus Junior」は本当のマジック解説本であったため、かなりのベストセラーとなります。先に述べましたように、初版から、第2版、第3版と進むにつれカップ&ボールに関する追加資料があったのですが、初版から第3版までの期間はわずか4年です。さらに第13版が60年の間に出版され、「Hocus Pocus」という言葉が含まれる派生作品は200年以上に渡り継続的に出版され続けたそうです。相当影響力があった本だと言えますね…
次に書かれているカップ&ボールに関してです。まずカップについてですが、「真鍮製で作られ、曲がったレーンプレートのカップ(←ここちょっと意味不明です)で、すべて同じ大きさのカップを3つ持たなければならない。これらのカップは全て同じ大きさでならなければならず、それぞれのカップのそこはカップの中に少し入っていなければならない。」と書かれています。
図を示します。
おlカップについては図を見ると今の紙コップのような形に見えます。現在の紙コップより少し傾斜が大きい感じでしょうか。「カップの底が中に少し入っていなければならない」のは手順において、さかさまにしたカップの底にボールを置くからかと思いました。そうでないと転げ落ちてしまいますよね。興味深いのはショルダーが無いことです。確かに古いカップ&ボールの演者を描いた絵や版画で使われているカップも昔はショルダーがありませんでした。いつからかステップのショルダーが作られ、現在ではショルダービードが主流となりました。ここに書かれている手順でもカップをスタックし、カップとカップで作られる空間いわゆる屋根裏部屋にボールを置きますので、カップは底までぴったり重なるような形ではダメなんですよね。でも、ショルダーが無いですので、ちょっと上から強く抑えてしまうと、抜けなくなるなんておとが起こりそうですよね(;^ω^) 次に、ボールについては、「ナツメグほどの大きさのコルク製のボールを〇個用意しなければならない」(※〇としておきました(;^_^A))と書かれています。ボールはニットボールではありませんが、現在のニットボールの芯としてよく使われているコルクだったようです。テンヨーのカップの非常に初期なバージョンではコルクボールだったようですので、意外と最近まで純粋なコルクボールも使われていたのかもしれません。
最後に手順ですが、大きく4つの現象で、体に入れたり、空中に投げ上げたり、カップに向けて投げ入れたりすることでボールが消えて、カップから出てくるというものです。1個ずつそれぞれのカップから現れるバージョンと、1つのカップに集まって現れるバージョンがあり、それが、テーブルに置いたカップの下か、積み上げたカップの底かの2バージョンあるため、計4つの現象となります。面白いなと思ったのは、カップを積み上げるので悟空の玉のように貫通現象なのかと思いきや、集まるという現象だということです。また、ウォンドを使わないのか、とも思いました。もっと古いカップ&ボールが描かれている絵や版画では多くのマジシャンがウォンドを持っています。しかし、この解説ではウォンドを使っていません。消すときには体を使ったり(口や耳に入れる)、投げ上げたりします。これはなぜなのか…、当時ウォンドを使うのは主流じゃなかったのでしょうか…少し気になります。
と、ここまで来てよくある展開になります(;^ω^)。
苦労してカップ&ボールの部分だけなんとか読んだのですが、日本語の訳があるではありませんか(T_T)。はい、ご存じの方も多いと思いますが、「誰得 奇術研究」の記念すべき第1号ですね。2023年3月18日発行です...。この中で「現代訳ホーカス・ポーカス・ジュニア①」という章があり、そこで「ホーカス・ポーカス・ジュニアとは」から始まり、カップ&ボールの解説手順が日本語に訳されています...。非常に読みやすい...(T_T)。ホーカス・ポーカス・ジュニアのカップ&ボールに関する記載に興味のある方には是非お勧めします。
誰得奇術研究1:冊子版
商品の説明 独自の視点でマジックと向き合う新プロジェクト、始動!面白いなと思ったマジックやデックに関する話を少しずつ書き溜めていきます。 ★こちらは冊子版になります...
プレイフェア
ちなみに、ホーカス・ポーカス・ジュニア関係は、3号、5号、9号では「現代訳ホーカス・ポーカス・ジュニア②、③、④」として、ホーカス・ポーカス・ジュニアに書かれているいくつかのトリックの訳があり、5号では「『Hocvs Pocvs Ivinor』初版本と著者名の秘密」が書かれています。興味のある方はご覧頂ければと思います。
私の調べれる範囲など非常に狭い範囲なのですが、いろいろ面白かったです。書けなかったこともたくさんあるのでまたどこかで触れられればと思います。