暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

6年前に書いたショートショート、書き直してみた。その3

2012年07月03日 20時19分12秒 | 小説系
ショートショート
【山川】

原作:加辻後 石矢
加筆・修正:無酩

(2のつづき)

   3

 そこからは単なる自殺競争だった。どちらが先に死ねるか。私と弟は、文字通り最期のゴールを目指して争った。
 弟は約束をたがえた私に非難の声を発したりはしなかった。その精神的ダメージが死を早める可能性があるとかそんな冷静な判断ではない。ただ単純に会話をおこなうような時間的余裕がなかったせいである。だから私たちは必然、無言になった。その代りに互いの視線がぶつかり合いせめぎ合う。弟の死ぬことに対する熱心さが太陽よりも熱く燃えたぎっているのが見てとれた。
 水しぶきが同時にふたつあがる。水面は一度しずまり、しかしすぐに気泡でぶくぶくとなった。息を止めるよりも吐いて水を飲みこんだほうが早いに決まっていたからである。
 が、しばらくして体に衝撃が走り私は水中から出てしまった。すでにもぐるのをやめていた弟のしわざだった。
 兄貴、ずるいぜ。同時に水に入ったら軟弱な兄貴のほうが先に死ぬに決まってるじゃあないか。
 弟は凶悪な笑みを浮かべてそう言った。
 私はちっ、と舌打ちした。
 つまり普通に競争すれば日頃鍛えていない帰宅部の私に分があるわけである。同時に自殺を始めてはいけなかった。
 先に自殺するには相手を気絶させて行動不能にしておくのがよい。
 そう考えたのが弟の凶悪な瞳から読みとれた。
 まずい。そうなると普段体を鍛えている弟のほうが強いのだから私が不利である。
 そう思ったときにはすでに弟の中段突きが私の腹をとらえようとしていた。私は昔ならった拳法の要領でそれをかわした。
 二人は一度距離をとり、硬直した。
 弟は身体能力に優れていたが瞬発力がいまひとつだった。私は身体能力に劣るが瞬発力と野生の勘には定評があった。
 正直、組み手をしてどっちが勝つか、二人ともわからなかった。
 相打ちではいけないのだ。その場合、よりダメージの多いほうが先に死んで勝ってしまう。いかに相手を傷つけずに気絶させるか、それがポイントだった。
 私たちは動かなかった。時間が間延びしたように、長く感じられた。
 決着は一分一秒を争うというのに、その焦りから思考が空回りする。頭は真っ白。お先は真っ暗?
 ――と。そのうちになにかが弟の体にとまって、また飛んでいった。
 弟は、すぅっと気が抜けたように、後ろに、力なく倒れた。水しぶきがひとつ、ばしゃーと上がる。
 ぷかんと浮かぶ弟の体。
 一瞬で理解する。
 私は、負けたのだ……
 そう確信して、私はその場から逃げた。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げ出した。

(4へつづく)



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