暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

【目眩く儚い日々はこんな】第拾陸夜~拾捌夜+あとがき

2009年10月13日 21時03分14秒 | 小説系
     疫幽儚(えきゆらはかな)の真実

 霊(たま)の記憶から、ほとんどすべての謎が解けた。
 どうやら私は、もうすぐ疫幽儚として生き返るらしい。
 そのリハビリのために健介の魂の半分を私の体に込め、一日様子を見ている最中なのだ。
『そのとおり。はじめまして、健介の父の石動鉋(いするぎかんな)です』
 いつの間にか闇の中にいた私に、健介のお父さんは思念波とやらでそう言った。
 は、はじめまして……。
 緊張する。
 相手は著書多数の大先生様なのだ、仕方がない。
『自覚はないだろうけれど、きみは疫幽儚の魂だよ。いま見た通り、きみの体は蘇生の準備段階にある。体はね。しかし魂はまだ準備できていない。いいかい、私の言う通りにするんだ。いいかな?』
 今は体の準備、次は魂の準備……と、段階をおって来ているわけだ。
『心構えは出来たみたいだね。
 それでは、魂の融合を試みよう』
 …………。
『まずはいつものように、霊(たま)の意識に入ってごらん』
「さぁ、おいで」と、霊の声がした。
 私は霊の中に、するりと入り込むことができた。
 …………。
 いつもとは違う感覚。
 霊の中ではないような気がした。
「ここは僕の、言ってみれば裏門だよ」
 霊の声がいやに近くに感じられ、次第(しだい)に視界が広がっていった。
 暗いけれど見える世界。霊の姿が左下に見えた。前を向くと、3メートルはあろうかという巨大な門が……
「ほら、そこにきみのなくした魂のかけらがあるよ」
 門に挟(はさ)まった状態で、巨大な青紫の輝きがあった。
 目映(まば)ゆく煌(きら)めいている。
「あの光りがきみの自我の魂のかけらだよ」
 自我の魂……。
「あの光りを受け入れるんだ。そうすれば、きみの魂は完全になる」
 かけらと一つになる。
 ……待て、何かがひっかかる。
『おや、気づいたみたいだね。そう、かけらがなくなれば、霊のことは見えなくなる』
 そうか。
 あの暗闇の中で血の繋がりのない霊が見えたのは、このかけらが霊の中にあったからなのだ。
 このかけらが自分と一緒になったとき、暗闇の中で霊を視認することができなくなる――つまり、霊とはちょっとしたお別れなのだった。
「大丈夫。きみはすぐに蘇って、僕に触れることだってできるようになるんだよ!」
 しかし。
 生き返る保証はないと言っていたではないか。
 それに、蘇ってただの人間になったら、霊とおしゃべりできなくなる。
『それどころか、きみは今の状態で過ごしたすべての体験を忘れることになるんだよ』
 なんと……!
 では、蘇ったとき、私の記憶は死んだ時点にまで戻るというのか。
『そのとおり。きみは本来普通の人間だしね。知らなくていいことは忘れるのさ』
 すべて忘れる?
「そう。だってきみはあの日死んだのだから。あの日からきみは生き直すんだよ」
 だったら死んでからの私はなんだったんだ!
 何もなくなるんなら、なぜこんな……
 この十日間はなかったことになってしまう!
『無かったんだよ、なにも。これはきみの生きる世界とは別の世界の出来事なのだから』
 別の世界……?
『そう、別の世界。世界が違う。次元が違う。位相が異なる。異世界。だから気にする必要はない。きみは、死ななかったんだ。ただ眠っていただけなんだよ』
 寝ている間にも世界は動く。
 寝ている間に変わっただけ。
 そんな……
『今頃になって生き返りたくないと、きみは思うのかい』
 そうかもしれない。
 だって私にとって世界とは、ほんの十日前に始まったばかりなのだから。
『ならやめるかい? みんな、きみが生き返るのを待っているのに』
 …………
『抵抗してもいいんだよ? 無理矢理にでも蘇生させるから』
 …………
「きみは、今の生活が楽しいかもしれない。普通ではない生き方をしているのだから、そう感じるのも当然だ。
 だけど考えたことはないかい?
 私はいつまでこんなままなのか。いつか終わりが来るんじゃないか……と」
 そうだ。私は、このまま蘇生せずに漂っていれば、あとどれくらいこの状態でいられるのだろうか。
『残念ながら、あと二十日ともたない。胸、腹、脳、臓器、腕、脚、など。肉体を示す漢字には「月」が用いられているだろう? これは魂を失った肉体が、ほぼひと月しか保てないからなんだ。そしてそれ――肉体の損失は、魂にも影響する。肉体を失った魂は、冥界へ送られるシステムになっているからね』
 冥界とはどんなところなのだろう。
『誰も知らない』
「生きとし生けるすべてのモノはね」
 冥界から帰って来た者はいない、ということか。
「オーライ、そのとおりだよ」
『そう。帰って来るということはできない。また、いつか必ず行かなければならない場所でもある。
 いつか行かなければならないなら二十日後に行く、とでも言うのかな。しかし残念。きみに選択権はないんだよ』
 拒否権もないわけか。
『ないね』
 ………………だったらさっさと蘇生させればいい。
「それはオーケーということでいいかな?」
 いちいち確認を取らなくてもいいだろう。
『一応、同意があったほうが楽なんだよ、色々とね』
 その色々というのを今聞いても、どうせ忘れてしまうんだよなぁ。
『そういうことだ。
 さぁ、まずは魂を完全にしてみようじゃないか』
「さあ、早く」
 隣りで、霊は私を促(うなが)した。
 光り輝く魂に、ゆっくりと近付く。
 霊は私に忘れられても淋しくないのだろうか……。
「淋しくなんてないよ。いつも一緒に暮らしているじゃないか。さぁ早く、生きなさい」
 生きなさい。
 その言葉が、私のあとを押す。
 私は私に還るだけ。
 そうして。
 ようやく、私は光りの中に身を委(ゆだ)ねた。





     疫幽儚(えきゆらはかな)の真実2

 一瞬のうちに。
 闇の中で目覚めた。
 疫幽家の人間――私の家族が見える闇。
 ――疫幽儚(えきゆらはかな)。
 私はもうすべてわかっていた。記憶と自我を取り戻したのだ。
 闇の中に霊(たま)の姿はない。
 もう……
「まーだだよ!」
 霊の声!
「まだきみは蘇っていない。ただ自我と記憶を取り戻しただけなんだ」
『いまのは魂の融合。欠けていたものを取り戻したんだ。そしてこれからが本番だよ』
 すでに深夜。私が死んで11日目に入っていた。
 私の体は、ぐっすりと眠っている。
『はい。リハビリ終了。これから肉体をまず空(から)っぽにする。おいで』
 私の体が家から抜け出し、石動鉋のもとへ移動した。
 それを追って私も移動する。
『あぁきみ、もうちゃんと見えるんだから、闇の中から出なさい』
 パチン、と。石動鉋が指を鳴らすと、視界が一気に開(ひら)けた。
 石動家の庭。
 鉋の目前に私の体が横たわっている。隣りには健介が立っている。
 その横で、霊が見守ってくれていた。
「今日も満月だし、ちょうど中秋の名月だから、成功しますよね」
『晴れているし、お日がらがいいのは確かだね。魂は完全になったし、肉体もだいぶいい具合だ。いける……いけるよこれなら……!』
 思わず興奮する石動鉋。
 そぉっと。
 肉体から光る魂を掬(すく)い出す。
『これが健介の記憶の魂。よいしょ。ん。これで健介も元通りだ』
 簡単に。
 そばにいた健介の魂も元に戻す。
『すぐ戻せるようにきれいに切っておいたからね。くっつくのも早い』
 その場で眠り始める健介。
『これで完全な肉体と完全な魂が二個揃(そろ)った。
 準備万端。さて始めよう』
「力を貸しましょうか?」
『借りるのはしゃくだからいいよ。一人のほうがいい』
「では」
『結界(けっかい)か。もう張ってあったのに。まぁ、多いに越したことはない、か』
「儚(はかな)」
 霊に名前を呼ばれるのは初めてで、なにか変な感じがした。
「ここでお別れだよ」
『色んな意味でね』
「あなたは黙っていて下さい。
 儚。僕はきみのことは忘れないよ。だから無かったことになるわけじゃない。ただ、きみとこうして話せるのは最期になるんだ」
 霊……。
「楽しかったよ。きみの魂が上から降ってくるとは思ってなかったけど、僕は無事だったし、何も知らずにさ迷うきみは面白かった」
 なんかぴくりとくる言葉。
「あはは。でも楽しかったよありがとう」
『そろそろ……』
「はい。
 儚。きみとこうして話ができてよかった。また会おう」
 こちらこそ。

『闇(あん)!
 音(いん)!
 運(うん)!
 圓(えん)!
 怨(おん)!!』

 宙に五芒星を描きながら、石動鉋はそう唱えた。
 視界が白銀に染まる。
 しばらく、真っ白な世界を漂った。





     生贄(いけにえ)

 私、疫幽儚(えきゆらはかな)は生きている。
 記憶を無くしていたらしく、元に戻った私のことを家族は喜んでくれた。
 お母さんなんて泣きじゃくって。
 おかえりー! と。
 ギューッと、私は抱き締められた。
 ただ……
「健介くんは不幸があってね……」
 石動健介の葬式。
 遺影の中で、健介くんは穏やかな笑みを称(たた)えていた。
 思い残したことは何もない、と。
 そう語っているような、人を安心させるような笑みで……。
 石動健介の葬式で、泣く者はいなかったという。

 初めて見る健介くんのお父さんは、鋭い瞳で一度だけ、こちらを見た。
 その時。
『ハナちゃん、元気でね』
 そんな健介くんの声が、聞こえたような気がした。
 いやにはっきりとした空耳だった。
 元気でね……か。
 うん、元気に頑張るよ。健介くんのぶんもね。
 ありがとう。

 にゃあ……と。
 霊(たま)が運ばれてゆく棺桶に向かって鳴いた。
 猫にも、人の死がわかるのだろうか。健介くんの死が……。
 うちに他人が来るたびに姿を晦(くら)ましていた霊が、今日はどうしてだか人前に出て来ていた。
 そのことに驚いて、健介くんが死んだことから意識が外れた。
 健介くんは柩(ひつぎ)の中で眠っていた。
 私は、健介くんが死んだということを実感できなかった。
 健介くんはただ外国に行ってしまったのだと。
 ただそれだけのような、そんな気がして……。
 夏が終わり秋がその深みを増す。
 暑さは過ぎ、すっかりと涼しくなった。
 朝晩は冷える。
 そんな時期だった。
 健介くんさようなら。
 そして私は強くなる。
 いつも助けてもらっていたから。
 これからは一人で頑張ろう。
 それ以来、健介くんはずっとずっと、笑顔だった。
 どんなときも、
 ずっと、ずっと。
 ただ――笑っていた。

               <了>
――めくるめくはかないひびはこんな――













     あとがき

 実に微妙な物を書いてしまったな、と読み直して思った。
 これはもう少し書き直すべき作品だと、そう思うのである。
 ちゃんと推敲しているのに文章が微妙だ。稚拙である。
 まぁ出来はさておくとして。
 これは「えきゆらはかな」という名の少女にまつわる物語である。
 元ネタの人に悪いので詳細は省くのだけれど、ちょっとした思いつきから産まれた話で、まぁ、最近小説スランプだったしリハビリにいいかなと思って書いてみたという、そういうどうでもいいいきさつなのだが。
 いろいろと書かなかったところが多く、後半がザツだが許して欲しい。
 ただ、この世界観は朧(おぼろ)げながら、もっと細部までこだわりたいところで、だから今回は支障のないようにテキトーに綴(つづ)ってしまった。
 すみません。
 またいつか、気力と機会があって気分が乗った時、気を引き締めて書こうと思う。
 そして最後に、この作品を読んで下さった貴方に、多大なる感謝を。
 ありがとうございました。



     2009年10月13日火曜日 いしや

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