「よぉ。あんたが《ブラッドライカー》さんかい?」
タイチは、屋上の扉を唐突に開け放ちつつ、言った。相手の存在など確認せずに。
屋上には人影がなく、ただ、ぽつんと1人の男がこちらに向かって立っていた。
大柄で筋肉質な男。少し背の低いタイチと比べると、頭二つ分デカい。
その顔は、遅いぞ、と言わんばかりに怒りの形相を形作っている。
「遅かったじゃねえか! 何ちんたらやってたんだよッ!」
顔もそのままに、怒鳴り散らしてきた。
しかし、その男――《ブラッドライカー》――は、やってきた人物の顔を見て、困惑の表情を浮かべる。
「な、なんだてめぇ? 小林将太はどうしたッ? まさか逃げやがったんじゃねぇだろなッ!?」
また怒鳴る。
タイチは、その騒音に等しい怒鳴り声に片耳をふさぎつつ、手の中の紙切れに目を落として、
「小林将太? ……あぁ、お前の今回のターゲットは将太だったのか。ワリぃな。こんな紙切れが教室に落ちてたんでオレが拾ったんだ。宛名がなかったから一応、届けに来たんだが――」
「そうか。そいつはご苦労さん。代わりにお前が殴られていけッ!」
――いきなり、右ストレートがとんで来た。
タイチは、
(あぁ、昼休みももうすぐ終わるってのに)
と、のんきな事を思いながら、予想通り大振りなそれを、軽く体を捌く事で回避した。
瞬間、《ブラッドライカー》の顔が驚愕に歪む。
イジメとは、強者が弱者に対して行うものであり、イジめる者は必ず弱い相手を選ぶものだ。
彼も、今回は選んだわけではないが、相手――タイチが弱そうだったから殴ろうとしたのだ。
まさか避けられるとは思ってもみなかったのだろう。
一方、タイチは避けると同時に反撃もできたが、相手がキレると厄介なので、回避のみにとどめた。
そして、余裕の笑みを漏らす。
《ブラッドライカー》はその自信満々な笑みを見て、何故かケンカを中断する。
タイチは、突然構えを解いて両手を軽く上げた彼を見て、不審な顔をつくり、
「あれ、どうしたんだ? オレを殴るんじゃなかったのか?」
挑発するようで、しかし探るような調子で言う。
「どうやら……お前はターゲットには相応しくないようだ。俺はほんの少しでも負ける可能性のあるケンカはやらねぇ。
俺の目的はただ一つ――他人の血を見る事なんだからな。それで、自分の血を見てちゃ、ざまぁねえだろ」
一度ケンカを始めると相手の血を見るまで絶対にやめない、というのが《ブラッドライカー》の特徴で、だからこそこんな異名を持っているのだが、例外もあるらしい。
結局のところ、イジメっ子は弱い者イジメしかできない臆病者でしかないのだ。
ただ、そこらへんのイジメっ子は頭が悪い上にプライドが高く、キレやすい。たとえ相手の方が強かったとしても、ヤケになってかかっていく。
だが、《ブラッドライカー》は違う。
彼は小学校時代は優等生だったらしい。どういう理由でイジメっ子になったのかは定かではないが、元々頭は良いし冷静な性格なのだ。
だから、いまのタイチの動きを見て十二分に評価し、あっさりケンカをやめる事ができたのだ。
「それは助かった。もうすぐ昼休みも終わる。授業に遅れると、オレの優等生ぶりが不完全なものになるからな。
じゃ、そういう事だから、オレは教室に――」
「そこで何をしてるんだッ!?」
タイチの言葉をさえぎるように、タイチが開けてそのままになっていた扉から緊迫した声が響いてきた。
それなりに威圧感のある野太い声だ。
屋上の入り口を見ると、眉間にしわを寄せた顔の中年男性が現れていた。
(あれ? なんで生徒指導の竹内先生がいるんだ?)
その疑問は、竹内教諭にコソコソと隠れる少年を見つけて解決した。
(将太が呼んだのか……)
そして、タイチは思案顔になってうつむく。
(この状況をどう説明したものか……あくまで優等生であるオレが、こんなヤツと一緒にこんな所にいるのはマズイ……なんとか上手く言い訳しなきゃ、せっかく上手く演じてきた優等生というオレの評価が下がっちまうな。
………まぁ、なんとかるだろ)
タイチの思考は、一瞬でお気楽モードに突入した。
しかし、スグに真面目顔を作って竹内教諭に近づきながら、
「何もしていませんよ。……ほら、この通り。僕には何の異常もありませんし、」
いったん言葉を切り、《ブラッドライカー》の方へ顔を向けて、
「彼、山岡優太くんも、見ての通り異常ありません。
僕は話し合いで解決しようと、ここへ出向いたのですが、到着後すぐに先生が駆けつけて来て下さったおかげで、何事もありませんでした」
そう言い終わってから、将太に目を移してうなずく。
話を合わせろ、という事だ。
「そ、そうか。それは良かった……」
教諭は急いで駆けつけたのだろう。肩でゼェゼェ息をしながら、安心した顔で言った。
そしてすぐ、
「君達2人は授業に行きなさい。まだ間に合うだろう」
時計に目を落として、やさしい口調で言った。
タイチと将太は、「はい」と頭を下げて、屋上を後にした。
タイチは、屋上の扉を唐突に開け放ちつつ、言った。相手の存在など確認せずに。
屋上には人影がなく、ただ、ぽつんと1人の男がこちらに向かって立っていた。
大柄で筋肉質な男。少し背の低いタイチと比べると、頭二つ分デカい。
その顔は、遅いぞ、と言わんばかりに怒りの形相を形作っている。
「遅かったじゃねえか! 何ちんたらやってたんだよッ!」
顔もそのままに、怒鳴り散らしてきた。
しかし、その男――《ブラッドライカー》――は、やってきた人物の顔を見て、困惑の表情を浮かべる。
「な、なんだてめぇ? 小林将太はどうしたッ? まさか逃げやがったんじゃねぇだろなッ!?」
また怒鳴る。
タイチは、その騒音に等しい怒鳴り声に片耳をふさぎつつ、手の中の紙切れに目を落として、
「小林将太? ……あぁ、お前の今回のターゲットは将太だったのか。ワリぃな。こんな紙切れが教室に落ちてたんでオレが拾ったんだ。宛名がなかったから一応、届けに来たんだが――」
「そうか。そいつはご苦労さん。代わりにお前が殴られていけッ!」
――いきなり、右ストレートがとんで来た。
タイチは、
(あぁ、昼休みももうすぐ終わるってのに)
と、のんきな事を思いながら、予想通り大振りなそれを、軽く体を捌く事で回避した。
瞬間、《ブラッドライカー》の顔が驚愕に歪む。
イジメとは、強者が弱者に対して行うものであり、イジめる者は必ず弱い相手を選ぶものだ。
彼も、今回は選んだわけではないが、相手――タイチが弱そうだったから殴ろうとしたのだ。
まさか避けられるとは思ってもみなかったのだろう。
一方、タイチは避けると同時に反撃もできたが、相手がキレると厄介なので、回避のみにとどめた。
そして、余裕の笑みを漏らす。
《ブラッドライカー》はその自信満々な笑みを見て、何故かケンカを中断する。
タイチは、突然構えを解いて両手を軽く上げた彼を見て、不審な顔をつくり、
「あれ、どうしたんだ? オレを殴るんじゃなかったのか?」
挑発するようで、しかし探るような調子で言う。
「どうやら……お前はターゲットには相応しくないようだ。俺はほんの少しでも負ける可能性のあるケンカはやらねぇ。
俺の目的はただ一つ――他人の血を見る事なんだからな。それで、自分の血を見てちゃ、ざまぁねえだろ」
一度ケンカを始めると相手の血を見るまで絶対にやめない、というのが《ブラッドライカー》の特徴で、だからこそこんな異名を持っているのだが、例外もあるらしい。
結局のところ、イジメっ子は弱い者イジメしかできない臆病者でしかないのだ。
ただ、そこらへんのイジメっ子は頭が悪い上にプライドが高く、キレやすい。たとえ相手の方が強かったとしても、ヤケになってかかっていく。
だが、《ブラッドライカー》は違う。
彼は小学校時代は優等生だったらしい。どういう理由でイジメっ子になったのかは定かではないが、元々頭は良いし冷静な性格なのだ。
だから、いまのタイチの動きを見て十二分に評価し、あっさりケンカをやめる事ができたのだ。
「それは助かった。もうすぐ昼休みも終わる。授業に遅れると、オレの優等生ぶりが不完全なものになるからな。
じゃ、そういう事だから、オレは教室に――」
「そこで何をしてるんだッ!?」
タイチの言葉をさえぎるように、タイチが開けてそのままになっていた扉から緊迫した声が響いてきた。
それなりに威圧感のある野太い声だ。
屋上の入り口を見ると、眉間にしわを寄せた顔の中年男性が現れていた。
(あれ? なんで生徒指導の竹内先生がいるんだ?)
その疑問は、竹内教諭にコソコソと隠れる少年を見つけて解決した。
(将太が呼んだのか……)
そして、タイチは思案顔になってうつむく。
(この状況をどう説明したものか……あくまで優等生であるオレが、こんなヤツと一緒にこんな所にいるのはマズイ……なんとか上手く言い訳しなきゃ、せっかく上手く演じてきた優等生というオレの評価が下がっちまうな。
………まぁ、なんとかるだろ)
タイチの思考は、一瞬でお気楽モードに突入した。
しかし、スグに真面目顔を作って竹内教諭に近づきながら、
「何もしていませんよ。……ほら、この通り。僕には何の異常もありませんし、」
いったん言葉を切り、《ブラッドライカー》の方へ顔を向けて、
「彼、山岡優太くんも、見ての通り異常ありません。
僕は話し合いで解決しようと、ここへ出向いたのですが、到着後すぐに先生が駆けつけて来て下さったおかげで、何事もありませんでした」
そう言い終わってから、将太に目を移してうなずく。
話を合わせろ、という事だ。
「そ、そうか。それは良かった……」
教諭は急いで駆けつけたのだろう。肩でゼェゼェ息をしながら、安心した顔で言った。
そしてすぐ、
「君達2人は授業に行きなさい。まだ間に合うだろう」
時計に目を落として、やさしい口調で言った。
タイチと将太は、「はい」と頭を下げて、屋上を後にした。
予告通り、かなり遅れての更新となってしまいました。
実は、前回の更新時も風邪をひいていて、“とにかくフロッピーに書いておいた文章をコピペしただけ”という、なんとも苦し紛れの投稿でした。
今はだいぶん治っていますが、どうやら風邪をぶり返してしまったようで、治りが遅いです。
まったく、この軟弱な体には困ったものです。
これでも、小学校時代は「運動神経抜群」と思われていたのですが(苦笑)。
高学年あたりから全く運動をしなくなって、気がつけばこのざまです。
やはり、少しは動いていないと、弱る一方のようです。
皆様は、このような事のないよう、適度に運動するよう、心がけて下さいね。
さてさて、今回の場面ですが。
いわゆる、「クライマックス」とかいうヤツですね。
にしては、かなりしょぼいのですが(汗)。
実はこのシーン、第1話の中で最も速く書けたシーンだったりするのです。
“非力な人間がいかにして暴力漢に勝つか?”というのがテーマだったのですが、
作者自身、拳法を習っていた(1級でやめちゃったけど)ので、問題は即解決。
あとは、色々設定をいじって、強引にまとめてしまいました。
しかし、コレは、あくまでも“タイチだからできた事”です。
危険ですので、マネだけはしないように。
やはり人間、格上の相手と対峙して、緊張しないわけがありません。
体は強張り、思う様に動けなくなります。
しかし、タイチは異常なほど冷静なのです。
それはもちろん、『2重人格』のおかげであって、
片方の人格『建前』だけでは、なしえなかったことです。
“やっぱり、この設定は便利だなぁ”
と、自賛しています(笑)。
「クライマックス」と、先述しましたが、
あくまでも「第1話の――」という事です。
「アルバイトがやってきた」という作品全体からみれば、
物語はまだ、始まってさえいないのです。
昨夜、友人から鏡貴也さんの「伝説の勇者の伝説」の最新巻を借りて、勉強そっちのけで読破しました。
その「あとがき」で、作者の鏡さんは、こんなことを語っていました。
(要約)
この作品は物凄く大きく複雑な設定の上で作られました。今巻で、沢山の謎・伏線が明らかになりますが、これでようやく舞台が整い始めた、ってとこです。僕は最初、こんなに複雑な設定で作品を書くことに不安がありました。小説を書く、というのは、読者なしにはできないのです。“作品を書き上げる前に打ち切りになってしまうんじゃないだろうか”という思いがあったのです。しかしこうして、僕はこの作品を続けられています。それは、読者の皆さん一人ひとり、みんなのおかげです。どうもありがとう!
(以下、略)
そう、プロ作家というのは、読者なしに作品を続けられないのです。
がけっぷち。
全ての作家に、その危機感があります。
しかし、ボクの場合はどうでしょうか。
はっきり言って、だ~れも来なくてもやっていけます。
それが、「遊び・趣味」と「プロ」の大きな違いですね。
そんな過酷さ・厳しさとは全く無縁のこの状況で、四苦八苦しているボクはなんとも情けない(苦笑)。
規制が無い分、自由に書けるはずのこの状況で、独創的なものが書けないボクは、ホント、情けない。
いや、それでも……
まだ、「小説への挑戦」は始まったばかり。
いまは、自分の不甲斐なさを逃げずに受け止めて、少しずつでも成長していく事が大切だと、ボクは自分で思います。
いつまで続くか分かりませんが、どうぞ、末永く、
皆様……よろしくお願い申し上げますm(__)m