僕は思う。
故に僕あり。
この物語りはフィクションであり、登場するすべての事象は、実在する人物・団体・組織などとは、なんら関係ありません。
という前置きをして。
さぁ、語ろう。
通行人の少ない街角。
すっかり暗くなった空、夕闇。
僕はただ一人きりで、ただ妄想に浸っていた。
それが。
その妄想が、
まさか全世界に向けて発信されるなどとは、知る由もなしに……。
日の暮れた街頭。
人気(ひとけ)は殆どない。
夜の帳(とばり)も降りていて。
あぁ暗い。
目を閉じても大差ない。
そう。
そのとき。
僕は目を、
閉じてしまっていたんだ。
「だーれだ♪」
誰かに後ろから両手で目隠しをされる。
そう。
それはどこか。
夢のような儚く冷たい夜で。
というより。
本当に夢であるかのように。
美しい旋律のような声音(こわね)が、そう言ったんだ。
「だれって、お前以外に俺にこんなことしてくる奴、他にいるわけないじゃん」
そう。
他にいない。
いるわけがない。
彼女以外にはいるわけがなく、
彼女だけいればもう、
なにもかもが十分だった。
十分。
いや、10分。
「……………………」
僕たちは沈黙した。
それは。
それは、なにか理由があったわけでなく。
これといって理由もない。
ただ話すことが何もなかっただけのことで。
そう、ただそれだけで、それだけだった。
「にいさん」
何を思ってか、彼女はきっかり10分、間を空けて、そう吐き出した。
「なんだよ。俺達キョウダイでもないのにさ」
そう。
兄妹なんかじゃない。
僕は彼女の兄ではないはずだ。
彼女は――
――そう、
彼女は――
「俺がロリコンだからって、妹役しなくていいんだぜ?」
そう。
ロリコン。
ロリータコンプレックス。
幼女を愛したと言われるロリータ氏の哀しい愛の逸話から出来た言葉である。
だっていうのに。
現代人ときたらこぞって、ロリコンを駆逐しようと喧嘩を吹っ掛けてきたり、蔑んだり。
まぁ。
別にどうでもいいけどな。
「ロリータコンプレックスの何がいけないの……?」
たぶん、わからないという表情で彼女は言ったのだろう。
そんな予想が十分に現れた口調だった。
「……所詮、少数派だから」
そう。
嫌われるのは、弾かれるのは、軽蔑されるのは、白い目で見られるのは、いつも少数派だ。
それが民主主義?
だったら僕は、民主主義に反対する。
少数派の意見を尊重してくれたっていいじゃないかと。
多数決ばかりの世の中に反抗心が湧く。
だっていうのに。
「少数派なの……? エロ本にはよくロリコン幼女が出て来るのに?」
あぁ……。
そう。
この国は、少数派をむしろこぞって取り上げる国家だった。
マスコミ。
その人数の多さから、一部ではマスゴミなんて言われているが。
彼らは珍しい物を探求する。希求する。
少ない方が、珍しい。
つまり少数派のほうが、価値が高い。
レア。
貴重。
大枠で少数派を切り捨てながら、裏では少数派を重宝する。
それがニッポンて国か?
外国もそうなのか?
さておき。
学校にはメディアはない。
あっても学校新聞くらいのもので。
発表されるのはいい成績をとった生徒だとか、とにかくいいことだけを書き出す。
裏で、どこの学校にでもあるイジメって奴が蔓延(はびこ)っているのに。
そういう悪い事実はひたかくしにして……。
まぁ。
僕の学校には学校新聞なんてなかったし、あったとしても読まないだろうけれどもね。
だってただ妬ましいだけじゃないか。
学校を出て、社会に出ると、スキャンダルとか不祥事とかが取り沙汰される世の中へと変貌する。
それまで一歩引いて見えていた世界のニュースが、すっと、近づき身近なものになる。
なんで。
なんで学校には、イジメっ子を刑に処す機会があんなに少ないのだろうか。
だから。
罰がないから、みんながやっているから、イジメが発生する。
そうして、悪もバレなければいいのだと知った少年少女らは、悪知恵の働くずる賢い大人へと成長するのだ。
変。
変な人。
変人。
変質者。
普通ではない少数派の人物。
彼らはどこへ行ってもつまはじきにされる。
どこへ行っても酷い扱いを受けるだけ。
なにもしていないのに。
標的にされてしまう。
誰も助けてくれない。
親も相手にしてくれない。
どこにも仲間や味方がいない。
誰も信頼できない。
信頼しても、いつか裏切られる。
そう。
そうやって可哀相な世界で幼少期を過ごした子供は、大人になって反抗する。
ずっとずっと溜め込んだ、やり場のなくなった怨嗟の炎を、ほとばしらせる。
そう。
僕も、そのような者だった。
ほんの、
ただほんの、ちょっと前までは。
知っている?
世界には。
この世の中には。
それがたとえどんなに惨めで苦しい人生だったとしても。
世界のどこかには。
類人がいるって。
類人猿ではない。
どんな人にも、等しく似た存在――つまり味方がいるんだよ。
それを。
僕はそれをつい先日、知ったんだ。
まさかとは、
いまでも思う。
でも信じれば。
諦めなければ。
類人に会える。
それが常。
たぶんそう。
だから。
どんな、
たとえどんなに悪い状況になっても、最後の最期まで諦めないほうがいいよ。
絶望の中に、希望はいる。
絶望の中でこそ、光り輝く希望が見える。
そう。
そうなんだ。
それで、
そうして、
狂ったような最悪の世の中の中で、
僕はどうして、
出会ってしまった。
「女の子がエロ本なんて言うなよ」
と。
あはははは、と。
二人で笑う。
これといって、可笑しくもないのに。
END
故に僕あり。
この物語りはフィクションであり、登場するすべての事象は、実在する人物・団体・組織などとは、なんら関係ありません。
という前置きをして。
さぁ、語ろう。
通行人の少ない街角。
すっかり暗くなった空、夕闇。
僕はただ一人きりで、ただ妄想に浸っていた。
それが。
その妄想が、
まさか全世界に向けて発信されるなどとは、知る由もなしに……。
日の暮れた街頭。
人気(ひとけ)は殆どない。
夜の帳(とばり)も降りていて。
あぁ暗い。
目を閉じても大差ない。
そう。
そのとき。
僕は目を、
閉じてしまっていたんだ。
「だーれだ♪」
誰かに後ろから両手で目隠しをされる。
そう。
それはどこか。
夢のような儚く冷たい夜で。
というより。
本当に夢であるかのように。
美しい旋律のような声音(こわね)が、そう言ったんだ。
「だれって、お前以外に俺にこんなことしてくる奴、他にいるわけないじゃん」
そう。
他にいない。
いるわけがない。
彼女以外にはいるわけがなく、
彼女だけいればもう、
なにもかもが十分だった。
十分。
いや、10分。
「……………………」
僕たちは沈黙した。
それは。
それは、なにか理由があったわけでなく。
これといって理由もない。
ただ話すことが何もなかっただけのことで。
そう、ただそれだけで、それだけだった。
「にいさん」
何を思ってか、彼女はきっかり10分、間を空けて、そう吐き出した。
「なんだよ。俺達キョウダイでもないのにさ」
そう。
兄妹なんかじゃない。
僕は彼女の兄ではないはずだ。
彼女は――
――そう、
彼女は――
「俺がロリコンだからって、妹役しなくていいんだぜ?」
そう。
ロリコン。
ロリータコンプレックス。
幼女を愛したと言われるロリータ氏の哀しい愛の逸話から出来た言葉である。
だっていうのに。
現代人ときたらこぞって、ロリコンを駆逐しようと喧嘩を吹っ掛けてきたり、蔑んだり。
まぁ。
別にどうでもいいけどな。
「ロリータコンプレックスの何がいけないの……?」
たぶん、わからないという表情で彼女は言ったのだろう。
そんな予想が十分に現れた口調だった。
「……所詮、少数派だから」
そう。
嫌われるのは、弾かれるのは、軽蔑されるのは、白い目で見られるのは、いつも少数派だ。
それが民主主義?
だったら僕は、民主主義に反対する。
少数派の意見を尊重してくれたっていいじゃないかと。
多数決ばかりの世の中に反抗心が湧く。
だっていうのに。
「少数派なの……? エロ本にはよくロリコン幼女が出て来るのに?」
あぁ……。
そう。
この国は、少数派をむしろこぞって取り上げる国家だった。
マスコミ。
その人数の多さから、一部ではマスゴミなんて言われているが。
彼らは珍しい物を探求する。希求する。
少ない方が、珍しい。
つまり少数派のほうが、価値が高い。
レア。
貴重。
大枠で少数派を切り捨てながら、裏では少数派を重宝する。
それがニッポンて国か?
外国もそうなのか?
さておき。
学校にはメディアはない。
あっても学校新聞くらいのもので。
発表されるのはいい成績をとった生徒だとか、とにかくいいことだけを書き出す。
裏で、どこの学校にでもあるイジメって奴が蔓延(はびこ)っているのに。
そういう悪い事実はひたかくしにして……。
まぁ。
僕の学校には学校新聞なんてなかったし、あったとしても読まないだろうけれどもね。
だってただ妬ましいだけじゃないか。
学校を出て、社会に出ると、スキャンダルとか不祥事とかが取り沙汰される世の中へと変貌する。
それまで一歩引いて見えていた世界のニュースが、すっと、近づき身近なものになる。
なんで。
なんで学校には、イジメっ子を刑に処す機会があんなに少ないのだろうか。
だから。
罰がないから、みんながやっているから、イジメが発生する。
そうして、悪もバレなければいいのだと知った少年少女らは、悪知恵の働くずる賢い大人へと成長するのだ。
変。
変な人。
変人。
変質者。
普通ではない少数派の人物。
彼らはどこへ行ってもつまはじきにされる。
どこへ行っても酷い扱いを受けるだけ。
なにもしていないのに。
標的にされてしまう。
誰も助けてくれない。
親も相手にしてくれない。
どこにも仲間や味方がいない。
誰も信頼できない。
信頼しても、いつか裏切られる。
そう。
そうやって可哀相な世界で幼少期を過ごした子供は、大人になって反抗する。
ずっとずっと溜め込んだ、やり場のなくなった怨嗟の炎を、ほとばしらせる。
そう。
僕も、そのような者だった。
ほんの、
ただほんの、ちょっと前までは。
知っている?
世界には。
この世の中には。
それがたとえどんなに惨めで苦しい人生だったとしても。
世界のどこかには。
類人がいるって。
類人猿ではない。
どんな人にも、等しく似た存在――つまり味方がいるんだよ。
それを。
僕はそれをつい先日、知ったんだ。
まさかとは、
いまでも思う。
でも信じれば。
諦めなければ。
類人に会える。
それが常。
たぶんそう。
だから。
どんな、
たとえどんなに悪い状況になっても、最後の最期まで諦めないほうがいいよ。
絶望の中に、希望はいる。
絶望の中でこそ、光り輝く希望が見える。
そう。
そうなんだ。
それで、
そうして、
狂ったような最悪の世の中の中で、
僕はどうして、
出会ってしまった。
「女の子がエロ本なんて言うなよ」
と。
あはははは、と。
二人で笑う。
これといって、可笑しくもないのに。
END
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