[書籍紹介]
不思議な世界観を持つ短編集。
筆者の坂崎かおるさん(女性)は、
WEB小説や公募小説賞の界隈ではすでに知る人ぞ知る存在だそうだ。
2020年、「大学以来久しぶりに小説を書いた」という
短編「リモート」で第1回かぐやSFコンテスト審査員特別賞を受賞し、
そこからの4年間で10を超える文学賞での受賞・入賞を果たした。
アンソロジーに収録されたことはあるが、
本書は、初の単著となる、「待望」の短編集だという。
「ニューヨークの魔女」
処刑用電気椅子が導入された19世紀末のアメリカで、
死ねない魔女が電気椅子ショーに臨む。
「ファーサイド」
テレビ番組で「世界の終わりまであと7日になりました」
という終末カレンダーの決まり文句が流れる、
核戦争間際の世界(キューバ危機間近)の1962年。
Dという人間のような奴隷生物、
中でも「デニー」と呼ばれる存在との関わりを描く。
日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト・日本SF作家クラブ賞受賞。
「リトル・アーカイブス」
戦地で、二足歩行の戦闘ロボットをかばって
銃弾を受けて死んだ一等兵を巡り
様々な証言や心情が語られていく。
人間が無機物(機械)に抱く感情を探る。
「リモート」
全身不随の少年・サトルの代わりに、
リモートで学校に通うロボット「サトル」。
サトルの父親は詐欺罪で逮捕される。
実はサトルは既に死んでいたのに、
障害児福祉手当を違法に受給していからだ。
倉庫に置かれていたロボットのサトルは、
級友に電源を切るように頼む。
「肉体と精神、どちらが優れているか」という疑問を残して。
第1回かぐやSFコンテストで審査員特別賞を受賞。
「私のつまと、私のはは」
子供が欲しかった女性の同性カップル、理子と知由里(ちゆり)が
子育て体験キットを育てることになる。
本体は大きな大福がいくつかくっついたような格好なのだが、
附属ARメガネをかけると、幼児に見える。
ミルクを飲み、排尿便カートリッジも内蔵しており、
糞便の処理も出来る。
その扱いを巡って理子と知由里の間でずれが生ずる。
理子は「これは機械だ」としか想えないが、
知由里は、母親のようになる。
そして、二人は別れるが・・・
「あーちゃんはかあいそうでかあいい」
おさななじみのあーちゃんと
歯科医院で再会し、担当になる。
抜けた歯をめぐる不思議な話。
「電信柱より」
電信柱を切る仕事に従事しているリサが
一本の電信柱に恋をする。
上からの命令で切らなければならないのだが、切れない。
そこで、電信柱の脇に住む住人に、
敷地を広げて電信柱を個人のものにしてくれないかと頼む。
それは無理だと断ったが、
住人は、別な方法で電信柱が生き延びる方法を取る。
その結果、リサは・・・
第3回百合文芸小説コンテスト・SFマガジン賞の受賞作。
「嘘つき姫」
ドイツに侵略された頃のフランスが舞台。
ドイツ軍から逃げる途中、マリーとエマは出会う。
やがてマリーの母は行方不明になり、
マリーはある事情でドイツ軍に保護される。
それから時を経た東ドイツ。
西側から来た報道陣のうちの一人の女性が
マリーに接触してきて、手紙を見せる・・・
「嘘」がつなぐ真実が明らかになる。
第4回百合文芸小説コンテスト大賞受賞作。
「日出子の爪」
学校のベランダで育てていた鉢の一つに
サキちゃんが爪を埋め、
そこから指のようなものが生えて来る。
日出子とサキの秘密にトオルくんが参加するようになり、
クラス全員で爪を埋めるが・・・
想像力が物語世界を生むという点で、
作者は稀有な才能の持ち主だと分かる。
冷戦下のアメリカ、第2次大戦中のフランス、
西ソマリア、19世紀のニャーヨークなど
描く世界も多彩。
まだ粗削りだが、
間違いなく、将来、芥川賞の候補になるだろう。
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