[書籍紹介]
7月4日に本ブログで紹介した「鯨オーケストラ」の前日談。
というより、
このシリーズ「流星シネマ」「屋根裏のチェリー」「鯨オーケストラ」の順で出版されたものを、
私がそうとは知らずに、3作目から読み始めたという、失敗が真相。
ただ、「鯨オーケストラ」で出て来た状況や人物が、
本書で改めて明らかになり、
「そうか、そういうことだったのか」
と分かる快感を味わった。
本作の主人公は、
「流星新聞」という、タウン紙を編集している羽深太郎(はぶか・たろう)。
一人称で語られる。
カナダ人のアルフレッドが創刊した新聞を
彼が帰国して、父親のクリーニング店を引き継ぐことになったため、
太郎に後事が託され、
編集室の建物ごと譲り受けた。
「一部百円」と一応の値段がついているが、
実際は無料配布で、
町の店舗からの広告収入で運営している。
(4ページのタブロイド版、2月に1回の発行で、
二人の男を養うことはできないと思うが)
出入り自由の編集室に訪れる様々な人が描かれる。
たとえば、編集室のピアノを弾いて、即興の歌を歌うバジ君。
詩集を出版していて、
太郎に「あなた、シ(詩?死?)を書きなさい」と勧めるカナさん。
深夜も営業するオキナワ・ステーキのシェフのゴー君と
ホール係のハルミさん。
「メアリー・ポピンズ」のようないでたちで現れるミユキさん。
ここで、ディズニーで映画化された時の題名「メリー・ポピンズ」で、
「ア」が喪失した話が語られる。
ロシア料理の店「バイカル」で絶品のカレーを提供する椋本(ムクモト)さん、
その弟の出前持ちの考古学者。
夜な夜なオキナワ・ステーキに出没する、箱を持った謎のバイク男。
そして、つぶれたチョコレート工場から夜中に聞こえて来るヴァイオリンの音色。
中盤で、第3巻「鯨オーケストラ」の肖像画の
アキヤマ君の水難事故の話が出て来る。
実は、太郎とゴー君はアキヤマ君と友達で、
ある時、自作の舟で海に向かい、沈没。
太郎とゴー君は救出されたものの、
アキヤマ君は死体も上がらなかった。
この話と、
二百年前に鯨が町の川に迷い込んで命を落とし、
その遺体を埋めたらしい「鯨塚」の伝説が
全体をを貫く。
そして、ある豪雨の夜、
崖が崩れ、その土の中から鯨の骨が発見されたことで、
伝説が事実であったことが確かめられ、
その骨格見本を作ろうという話に、
チョコレート工場跡地の活用の話になり、
それはオーケストラの再建の話につながる。
アルフレッドが残した8ミリ映画を編集した時、
その映像の中にある人物の顔を発見する。
これが、題名のいわれ。
そして、話は第2作の「屋根裏のチェリー」につながる。(らしい)
吉田篤弘の筆は、
さわやかでユーモアたっぷりで、心地よい。
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